むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

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March 30, 2004

メジャーリーグ開幕戦:Lost in Translation

メジャーリーグが東京ドームで開幕した。アメリカ東海岸では午前5時のプレーボール。ヤンキースがあっさり負けたのは意外だった。この調子ではかなり苦戦するかもしれない。

ところで、今回の遠征についての記事をみると、"Lost in Translation" という表現が題に織り込まれている記事が多い。少しGoogle Newsで調べてみてもこれだけあった。

BASEBALL ANALYSIS: Amid Great Expectations, Yankees Get Lost in Translation (New York Times)
Yanks Lost in Translation (New York Daily News)
Nothing but Sleep Lost in Translation (AP)
Photo Gallery: LOST IN TRANSLATION: DEVIL RAYS VS. YANKEES IN JAPAN (Atlanta Jounral-Constitution)

もちろん、これは、ビル・マレー主演の最近の映画 "Lost in Translation" に引っかけているのだ。この映画、アメリカではインディー系の配給だったがじわじわ人気が出た作品。アカデミー賞でも、作品賞を含めいくつかノミネートされ、結局監督のソフィア・コッポラがオリジナル脚本賞を受賞した。(この監督、フランシス・フォード・コッポラの娘である。)

この映画の舞台は東京。一言で言うと、コマーシャル撮影にやってきた中年のハリウッド俳優と、若い写真家の妻の二人が、言葉も文化もわからない東京の真ん中で出会い、「自分を見つける」…とでもなるだろう。映像の美しさ、ハリウッドらしくない「話のない映画」とも言うべき脚本など、批評家の評価が高かった。

ところでこの作品、日本人を差別的に描いているのではないかといって論争になった。これは見る人によって意見が割れると思うが、私が見た感想では、「言葉が通じない、不思議な国」という部分を強調するがあまり、結構安易なステレオタイプに頼ってしまっている部分は多い。日本人は英語がしゃべれないとか、日本人は背が低いとか、さらには日本人の男性はポルノまがいの漫画を地下鉄で平気で読んでいるとか。アメリカの日本人や日系人はおとなしいから反論しないが、似たような映画を、アメリカ社会で声が大きいマイノリティ社会を舞台に作ったら大変な社会問題になっていたんじゃないだろうか。

実際、日本での上映が4月17日と、アカデミー賞が終わってからかなり後になったのも、日本からもし批判が出たとしてもアカデミー賞のコンペに影響が出ないようにするための戦略的な理由なのではないかと私は考えている。『アカデミー賞受賞作品』として上陸すれば、きわどい批判もかわせると踏んだのではないか。もしこの推測が正しいとすると、大した確信犯である。『ラスト・サムライ』の渡辺謙やら、『たそがれ清兵衛』やらのノミネートで舞い上がっていた日本のメディアは、何ともお人好しとしか言いようがない。日本でももうすぐ上映されるので、日本の読者の方もどうかご自分で見て判断して頂きたい。

で、野球の開幕戦。"Lost in Translation" というタイトルが喚起するのは、言葉が通じなくて、ヘンな文化の国というイメージではないだろうか。アメリカの「国民的娯楽」の野球の開幕戦を日本でやるとは何事か、という感情と重なって、結果的にネガティブな印象を与えているのではないかと思う。想像力のないスポーツライターと一本の映画のおかげで、日本関係のいろいろなニュースのイメージが操作されるとしたら、困ったものである。この映画については、後日また。

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March 29, 2004

クラーク証言の波紋

先日の記事にも書いた通り、クラーク氏の告発本と、その後の調査委員会での証言が波紋を広げている。アメリカの政治系ニュース・情報系番組は、この一週間はこの話題ばかりである。ホワイトハウス側も反論に躍起だが、議論の本質よりはクラーク氏の過去の発言との矛盾をついて「信頼のおけない人物」というイメージを植えつけようという戦略をとっている。泥仕合に持ち込もうというわけで、あまり感心しない。一方、クラーク氏は、「政府はあなた達を裏切った」とテロの遺族に向かって謝罪したりして、イメージ戦略の上でもなかなかしたたかである。

ニュースなどのコメントを聞いていると、評論家のほとんどがクラーク氏の本を読んでいないでコメントしているようである。それでは何とも説得力がない。ということで、クラーク本を読んでいない私も、この件については口を挟まないでおこう。その代わり、ニューヨークタイムス紙に載ったクラーク本の書評にリンクしておく。

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LIBRIe

ソニーの新しい電子ブック端末、LIBRIeのレビュー。( aozora blog経由)
このレビューを読む限り、画面表示は紙を読む感覚にかなり近くなっているらしい。ただ、現在のところ、新潮社などの有料電子ブックサービスの専用端末ということ。aozora blogにも書いてある通り、これでは青空文庫などのテキストファイル、またはエキスパンドブックファイルが開けない。また、ファイルに60日という期限がついているので、長く取っておきたい学術書や小説には不向き。(この点については、ほら貝の加藤氏の意見(12月3日付)に同意。)

やはり、電子ブックというカテゴリーでは、コンテンツの著作権をどう扱うかが一番の問題になってくるのだろう。音楽では、アメリカではiTunes Music Storeのサービスが始まって半年ほど経つが、音楽ファイルをデスクトップから1曲99セントで購入できるというシンプルさと手軽さが魅力。日本版のサービス開始は目処が立っていないそうだが、著作権問題がクリアできていないのが理由というのは容易に想像できる。出版業界としても、コピー防止しながら手軽にダウンロードできるというフォーマットを確立し、さらに採算が取れるビジネスモデルを軌道に乗せなければならないのは同じ。このサービスがそこそこのスタートを切れるか、様子を見てみたい。

それにしても、この端末、Macに対応していないというのは何とも。最近は、クリエの例にもあるように、ソニーはMacにはとことん冷たい。

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読書ノート:『春の雪』

先週は、研究発表などのためブログが更新できなかった。仕事が一息ついたところで、三島由紀夫の『春の海』を読了。これを読んだ後、日本語で何かを書くのは気がひける。自然描写、大正時代の日常生活の機微、緻密でありながら全体としての構成美も備えている。そしていくつもの自意識が数手先を読みながら将棋を打っているような心理描写。それぞれの登場人物がお互いの裏をかきながら行動しているはずなのに、小説全体の筋は時計仕掛けのようにある運命に向かって刻々と進んでいく。モダニズムの作家たちが、書いた先から言葉が変質してしまう現象を受け入れてその力を最大限に生かそうとしたのに対し、三島はそのような流れに真っ向から反抗した最後の作家といえるのではないだろうか。大江健三郎が、デビューした頃の文体に飽きたらず、一度書いた文章を書き直し、また書き直すプロセスによって文体を改造し続けたのとは対照的である。

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March 24, 2004

米元高官が政権批判の内幕本

このニュース、結構尾を引くんじゃないかと思う。一番大きいのは、ブッシュ大統領が、9/11の直後から、「イラクとの関連をなんとしても探せ!」と諜報機関に圧力をかけていた、という生々しい証言。こちらの記事("Dick Clarke is Telling the Truth")によると、この件でブッシュ政権側は大々的に反論キャンペーンを張っているものの、有効打はないから、この内情暴露はおおむね正しいのではないか、とのこと。もし、テロと戦うためにイラクに行ったのでなく、テロを口実に既定路線のイラク戦争を実行に移したということが明らかになったら、ブッシュ氏としてはかなり痛い。「テロとの戦い」を大統領選の中心的な争点に据えたいブッシュ側としては、テロとの戦いとイラク戦争が別物であるという見解が定着すると、イラク戦争への批判が集中して選挙戦が不利になるのではないだろうか。現在、アメリカ議会では9/11の真相究明のための調査委員会で証人喚問を行っているが、このクラーク氏も証人として立つらしい。

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March 16, 2004

現代日本文学の翻訳・普及事業

1年ほど前、文化庁が中心となって、日本文学の翻訳を積極的にサポートしていこうという事業が発表された。新聞などに候補作品が載ったりしたので、覚えている方もおられると思う。この企画だが、国際文化交流推進協会という財団が中心になって運営しており、現在も進行中である。ホームページはこちら。

この企画、実際何をしているかというと、まず有識者が翻訳作品を決定。その作品を翻訳してくれる翻訳者を募り、翻訳料は財団から払われる。その後、出版社と契約。財団が一定部数を買い取り、世界中の図書館に無償で寄付する。先日も少し書いたが、日本文学の翻訳で一番のネックになっているのは経済的なリスクであることを考えると、このような形の経済的な援助はかなり効果的だと思う。

さて、選ばれた作品をみると、いまひとつぴんとこないという方もおられるかもしれないが、日本文学を教えている立場から言えば、ベストとまではいかないものの、なかなかいい選択をしていると思う。たとえば、漱石の「坊っちゃん」。まだ翻訳されていないのかと思う方もおられるかもしれない。実際、英訳はあるのだが、かなり古いもので、あの生き生きとした文体が訳し切れていないとよく言われる。芥川の短編集も同じ。(二,三年前、せっかく新しい英語の短編集"Essential Akutagawa"が出版されたのに、中の翻訳はかなり古い者の転載だったりする。)この辺は、有識者の委員会に入ったジョン・ネイサン氏の意見が反映されているのだろう。

また、大岡昇平の『武蔵野夫人』、小島信夫の『抱擁家族』などは、いままで翻訳がなかったのが不思議なくらいである。大岡昇平の戦争小説はかなり訳されてはいるが、その他のジャンルの作品は皆無。『野火』『俘虜記』ときて、『武蔵野夫人』があるかないかでは印象がまったく変わってくる。(追記[2004.5.25]:大岡作品では「花影」も英訳が出ている。)また、『抱擁家族』は、翻訳出版の話は以前にあって、出版直前までこぎつけたようだが何かトラブルがあったらしく、幻の翻訳書となっている。(アメリカの図書館で検索すると時々この幻の書誌情報がヒットしたりするのだが、問い合わせてみるともちろん実在しない。)これらの本が出てくれると、戦後文学の授業のオプションがかなり増える。戦後文学ではないが、もう一頑張りして、荷風の『ぼく東綺譚』など出版してくれるとさらによい。

横森理香や末永直海などの若い作家は福田和也が推したのだろうが、こういう作品も、たとえばバブルの頃の日本の文化状況などを教えるときに、新聞記事や論文を読ませるよりもこのような小説を読ませた方が手っ取り早いわけで、日本文化の紹介という面では決して悪いチョイスではない。

ホームページを見ると、3冊が既刊、もう一冊『武蔵野夫人』が今秋出版予定という。秋の授業には間に合わないかもしれないが、楽しみだ。

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March 15, 2004

Vertical, Inc.

New York Timesに、ニューヨークの日本文学専門出版社Vertical, Inc.紹介記事が載った。この出版社については前から聞いていた(記事で紹介されている編集者にも一度会ったことがある)。

英語の日本文学の翻訳書はまだまだ少ない。その理由は、これまで、日本文学は英語圏では売れないという定説があって、メジャーな出版社がなかなか手をつけなかったからである。固定読者層がいなくて、(ヨーロッパと違い)文化の違いでなかなか理解されにくいので売れないという理由。しかし、本が出版されなければ固定読者層もできにくいわけで、ある種の悪循環に陥っている部分もある。この辺、アメリカで日本文学を教える私には歯痒いものがあった。

しかし、この10年、このような状況が変わりつつある。その最大の理由は、村上春樹の出現だろう。村上春樹の作品は上に書いた日本文学のステレオタイプからはずれている。日本について必ずしも興味や知識がなくても共感できるし、世界中に固定ファンができている。この流れに乗って、ポピュラーな日本文学を売っていこう、というのが、Verticalの読みなのだと思う。

今のところ、ラインアップとしては、江國香織や『グイン・サーガ』など。こうして紹介記事が載ることも宣伝効果になっていると思う。彼らにはぜひ経営的にも成功してもらいたいと思う。

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March 11, 2004

hunkabutta.com

けっこう有名なフォトブログなのですが。日本在住のカナダ人(確か)のサイト。日本の日常生活が自然体で撮れていてとてもおもしろい。日本人だったらここには注目しないだろうなあ、と思わせるが、エキゾチックなところばかり撮っているわけでもない。

このサイト、イラク戦争中にも更新を続けていたバグダッドのブロガー、Salam Paxのサイトからのリンクで初めて知った。(このブログの日本語訳が最近出版された。)Salam Paxというのは仮名(Salamはアラビア語、Paxはラテン語でともに「平和」の意味)で、戦争中もずっとブログでバグダッドの様子を発信して話題になった。彼は検閲を逃れるために隣の国のヨルダンのプロバイダに国際電話してダイアルアップ接続していたそうだが、そんな彼がこのサイトを見ながら、東京の街に想いをはせていたんだろうなあと思うと、インターネットによってのみ可能になった人のつながりについて考えさせられる。

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March 09, 2004

アカデミー賞と東京大空襲

今回のアカデミー賞、「ラストサムライ」の渡辺謙や「たそがれ清兵衛」がノミネートされて話題になったが、最優秀ドキュメンタリーを取った"Fog of War"については日本ではあまり報道されていないようだ。このカテゴリー、去年はマイケル・ムーアがアメリカ銃社会を描いた"Bowling for Columbine"で受賞した後、「ブッシュよ、恥を知れ」と絶叫してニュースとなったいわくつきのカテゴリー。今年の受賞者となったこの作品の監督も、政治的なトーンが抑制された今回のオスカーの中でブッシュ政権を批判していた二、三人のうちの一人だった。

この"Fog of War"という作品、60年代にアメリカの国防長官を務めたロバート・マクナマラのインタビューで構成されているのだが、キューバ危機、ベトナム戦争などの激動の時代にアメリカ政権の中枢にいた人物が、当時の状況を赤裸々に、時には批判的に語っているようだ。(私はまだ未見なのだが、公式ウェブサイトで映画の一部を見ることが出来る。)マクナマラは現在85歳だが、まだまだ健在という印象。

彼は第二次大戦中は太平洋戦線に関わっていて、とくに東京大空襲については過剰な報復だったと明言している。「帰ってきたB29のパイロットたちの面接に立ち会った。…司令官は、『我々はなぜここにいるのか? 我々の飛行士が殺されたからだ』と言っていた。…でも、一人殺されたからといって東京を焼け野原にするのか?」非戦闘員が100万人も殺された空襲はやりすぎだったと、マクナマラは怒りすらあらわにして語っている。ベトナム戦争はともかく、太平洋戦争はアメリカ人にとってはいまだ疑いようのない「正しい戦争」であることを考えると、アメリカのエスタブリッシュメントがここまで言うか、という感慨にすら浸ってしまう。

また、キューバ危機、ベトナムについても、「理性のある人々が戦争を止めようと努力した。でも、核戦争にならなかったのは運が良かったからだ」「武力の行使にはルールが必要だ。でなければ人類は破滅してしまう」など、衝撃の発言が続出。特殊技術によって、マクナマラはインタビュアーに向かって語っているのだが、カメラに向かっているように撮影されているので、彼が視聴者に直接語りかけているような錯覚を受ける。

こうした映画が出てくるのは、やはりイラク戦争について国民の意見が割れていることの反映だと思う。この人がテレビでインタビューを受けているのを見たが、現在のイラク戦争については「現政権の政策についてはコメントしない」と口を閉ざしていたのが印象的だった。この映画の提起している問題が現在の状況に関わっていることは明らかで、立場上批判はできなくても、何か訴えたいという気持ちはあるのだろうと思う。

日本での上映予定はまだないのだろうか。アメリカではソニーが配給しているようだし、日本でも是非上映してもらいたい。3月10日は東京大空襲の記念日だ。

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大学教授はなぜリベラルなのか

デューク大学で、人文・社会科学の学部では教授が左寄り過ぎるということでちょっとした論争になっている。保守的な学生団体が教授にインタビュー調査をしたところ、民主党員が共和党員に比べて圧倒的に多いということで抗議の広告を出したのがことの発端。大学側ではこの問題についてシンポジウムを開いたりして対応している。この意見広告を見ると、この大学の歴史学部では、民主党員32人にたいし、共和党員はゼロなど、かなり差が出ている。大学教授はどこでも左寄りなものだが、こうして数字ではっきり出てくるのも珍しい。これに対して、同じ大学の哲学教授が、「教育レベルの高い人にリベラルが多いのは、NBA(米バスケットのプロリーグ)に背の高い人が多いのと同じで、仕方がない」と言ったりして、論争の火に油を注いだりしている。本音なのだろうが、あまりに無防備な発言で開いた口がふさがらない。

アメリカの大学では、教授の人選や学生の選抜の際に、人種や性別による差別のないようにかなり注意を払っている。このような政策を推進しているのはリベラル派なのだが、不満を持っている保守派の学生が、「多様性」という言葉を逆手にとって反論しているということなのだろう。一方、大学教授の側は、ブッシュ政権が特に9/11テロの後大学内の政治的発言に干渉するような動きが目立つ中、こういうことが問題になること自体保守反動の言論弾圧の一環だと言ってかなり敏感に反応している。

私の個人的な経験から言っても、アメリカの大学では教授は圧倒的にリベラルだが、学生は五分五分、どちらかというと保守派が多く、意識がだいぶ乖離しているように思う。

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あいまいなケリー氏・頑固なブッシュ氏

私はアメリカ政治の専門家でも何でもないので、大統領選について語る知識も技能も持ち合わせてはいないのだが、政治関係の新聞や記事は好きで読んだりしているので、ここでは自分の備忘録も兼ねて、アメリカ国内での論争などについて時々書こうと思う。

民主党の候補がケリー氏に決まって、ブッシュ大統領も本格的な攻撃を開始した。ケリー氏の抱えている問題はけっこう深刻である。えてして候補が決まってからいろいろな問題点が噴出してくるというものなのだろう。

結構著名なコラムニストで、ブログでの政治評論をメジャーにした張本人の一人でもあるAndrew Sullivanが、ケリー氏批判のコラムを書いた。彼は安全保障に関してはタカ派でイラク戦争も支持していたが、自らがゲイでもあり、最近のブッシュの政策にはけっこう批判的である。しかし、ケリー氏もちょっと支持しかねるということらしい。その最大の原因は、ケリー氏が、目先の政治的利益のために、主要な政策課題に関する立場を信念もなくころころ変えているということ。実際、死刑廃止問題、貿易の保護政策など、政策を180度転換した例も少なくない。実際、この選挙中でさえ、ディーン氏がリードしたとみると、ディーン氏の真似をしてイラク戦争反対の立場を強調したり、またエドワーズ氏が追い上げてくると、自由貿易支持の立場を横に置いて(エドワーズ氏の主張である)保護政策支持に回ったりしている。ケリー氏が大統領になったらどういう政策をとるか、まったく未知数なのだ。もちろんブッシュ氏もいろいろと政策転換をしてはいるのだが、ケリー氏のあいまいさはかなり極端で、共和党側もさっそく攻撃に使い始めている。ニューヨークタイムズもこの問題を記事にした。

日本との関係で言うと、対北朝鮮の外交をどうするのかすら、まったく不透明。北朝鮮訪問直前までいったクリントンの時のような極端な宥和政策に逆戻りすることだってありうる。はっきりした外交政策も打ち出していないのだから。今日になって、ケリー氏自身「外国の首脳はブッシュより私に勝ってほしいと思っている」といっているが、金正日はまちがいなくその一人だろう。

他にSullivan氏が挙げている弱点としては、前にも書いた「エリート」的イメージ。ブッシュ氏ももちろん資産家ではあるのだが、見るからに人が良さそうなブッシュ氏に比べ、T. S. エリオットの詩を暗唱できたりする。アメリカの大統領が文学にたしなんでいるというのは、それはそれでいいことなのだが、ふつうのアメリカ国民にとっては、東部出身のスノッブと思われても仕方なく、政治的にはマイナスだろう。

一方、ブッシュ大統領の弱点は何か。最近、共和党側のテレビ広告で、「変化の時代に、ゆるがないリーダーシップ」というスローガンを掲げているが、William Saletanというコラムニストは、自分の意見を変えないことこそが問題だと指摘している。この人、何かの問題に対し一度決断をしてしまうと、その後にそう簡単には意見を変えないという性格の人らしい。(インタビューなどを聞いてみると確かにそう感じる。)テロの後などは、揺るがない意思の表明が、アメリカ国民の支持を呼んだわけだが、その後の減税一辺倒の経済政策やら、イラク戦争の政策やらをみると、現実を直視しない頑固さが、さまざまな問題の元凶になっているという分析になっている。

この二人の候補、政策というよりは政治手法にかんしてまったく対照的である。ケリーがこのまま勝つという予想も出始めているが、そうばかりとはいえず、最後の最後までもつれこむような状況だと思う。

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March 06, 2004

Mellel: Mac OS X のワープロソフト

先日の記事にも書いたが、最近ワープロソフトはMellelを使っている。

1年半前にMacにスイッチしたとき、せっかくMacに乗り換えたのだから、Mac OSの特徴を生かしたワープロソフトがあるかと期待していたのだが、ちょうどOS 9からOS Xへの乗り換えの過渡期で、決定版といえるソフトというのが存在しない状態だった。そこで、しばらくはMS Wordを使っていた。OS Xだけあって見栄えはいいのだが、日本語と英語を交ぜると書式が狂ったりして、不便なものだと思った。そもそも、Mac使いの友人が英語版の書誌ソフトEndnoteに平気で日本語を打ち込んでいるのを見て、Macは多言語環境に早めに対応しているという印象があった。確かに、OS XではOSレベルでユニコードに対応しているので、普通に使っているとたいていユニコードが通るようになっている。しかし、ワープロに関してはその長所が生かし切れていなかったのだ。

そこで、Mellel。去年の年末に見つけたのだが、非常に使いやすくてすぐに購入した。ヘブライ語の名前を持っていることからもわかる通り、イスラエルの会社が開発しているソフト。そもそも、OS Xは右から左に書く文字の対応が遅れていて、その問題を解消するために多言語対応ワープロを開発したというのがその成り立ちらしい。
長所はいくつかある。まず、多言語に対応していること。実は、多言語と言うよりは二言語であって、アルファベットに続く二次的な文字セットとして、CJK(中国語・日本語・朝鮮語)文字、ギリシャ文字、ヘブライ文字などのフォントを決められる。文字ごとにフォントと文字の大きさが決められるから、文字がきっちり決まってくれる。Wordと違って、日本語と英語混じりの文でも、書式がずれることはない。

それから、シンプルな操作。Wordにはいろいろな機能がついているが、9割方が普段は使わない機能である。私の場合、論文が書ければいいので、グラフや画像などの機能は必要ない。その代わり、段落やフォントの設定が複雑で、思い通りの出力ができなかったりする。この点、Mellelは、ページ・段落・文字のそれぞれについて「スタイル」を設定できる。特定の用途に対して、それぞれスタイルを決めておけば、部分をいちいちいじらなくても文章全体の書式がぴったり決まってくれる。思った通りに動いてくれるシンプルなワープロというのは、使っていて実に気持ちがいい。また、機能を絞り込んでいる分、動作も軽くていい。また、註釈の書式も細かく決められるので、とても便利。

このワープロに加え、最近Atok 16を使い出した。このバージョンではついにJIS第三・第四水準文字に対応して、Mac OS X 10.1から標準装備になった約2万字すべてが候補に出てくれる。また、文語モードも搭載して、古文の打ち込みも楽になった。(別にいつも使っているわけではないが、前から使えたらいいのにと思っていた機能。)これで、正字・正かなの文書もきれいに、正確に打ち出せる。また、互換性の問題はあるが、原稿段階で渡す場合はRTFで保存すればいいし、印刷コマンドからPDFで出力してもいい。(OS XはPDFにOSレベルで対応しているが、OSのアップデートの度に出力がきれいになっているようだ。)

Mellelは、論文や書類のような文書作成に特化しているので、画像などが混ざると少し不便。また、日本語縦書きには対応していない。でも、欧文で文書を作る必要がある人にはおすすめ。とくに、研究者で、欧文や欧文混じりの横書き文章を書く人で、シンプルでぴしっと決まった文書を作りたい方にはぴったりだと思う。値段も$29と安い。

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March 05, 2004

ケリーvs.ブッシュ

民主党の候補がケリーに確定して、いよいよ長丁場の一騎打ちが始まる。

この二人、両方ともとんでもない資産家である。父も大統領で、自ら大リーグ球団のオーナーでもあったブッシュ一家についてはよく知られているが、ケリーもすごい。ケリーの祖先はマサチューセッツがまだ植民地だった頃の初代知事だったという。(歴史の比較的浅いアメリカでは、日本で皇室の出身と言うのと同じくらいの重みか。)奥さんはケチャップで有名なハインツ財閥の未亡人だった人で、資産総額が5億ドル。また、日頃の振る舞いもけっこう傲慢らしい。これはうわさなのだが、ボストンでコンサートがあったとき、多くの人が行列しているのにリムジンで登場。列を無視して入ろうとして、待っている人に野次られると、「俺を誰だか知っているのか? ("Do you know who I am?")」と言い放ったとか。アメリカの大統領の候補とは、どんなに「庶民の味方」ぶっても、結局は超エリートなのだ。インターネット戦略で選挙戦初期に旋風を起こしたあのディーン候補も、中流階級の代表のように振る舞っていたが、実はニューヨークの名家の出だし。これら3人、すべてイェール大学の卒業生で、特にケリーとブッシュは、名家の子息しか入れない秘密結社のSkull and Bonesの会員である。

アメリカ人の隠れたエリート志向について、ニューヨークタイムズ紙のコラムニストのデービッド・ブルックスが書いている。それにしても、このコラムニストは結構若くて、NYTのコラム欄に登場したのもつい最近なのだが、コンスタントにウィットがあって洞察の深いコラムを書く。

ところで、この大統領選の結果、アメリカだけでなく世界中に大きな影響を及ぼすわけですが、ならば世界中の人(有権者?)の声を伝えよう! というわけで、アメリカ国民以外による模擬投票ができるサイトが登場している。登録しておくと、11月に投票の手順が送られてくるようだ。

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(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

ウェブログ図書館 http://library.jienology.com/