むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

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March 16, 2004

現代日本文学の翻訳・普及事業

1年ほど前、文化庁が中心となって、日本文学の翻訳を積極的にサポートしていこうという事業が発表された。新聞などに候補作品が載ったりしたので、覚えている方もおられると思う。この企画だが、国際文化交流推進協会という財団が中心になって運営しており、現在も進行中である。ホームページはこちら。

この企画、実際何をしているかというと、まず有識者が翻訳作品を決定。その作品を翻訳してくれる翻訳者を募り、翻訳料は財団から払われる。その後、出版社と契約。財団が一定部数を買い取り、世界中の図書館に無償で寄付する。先日も少し書いたが、日本文学の翻訳で一番のネックになっているのは経済的なリスクであることを考えると、このような形の経済的な援助はかなり効果的だと思う。

さて、選ばれた作品をみると、いまひとつぴんとこないという方もおられるかもしれないが、日本文学を教えている立場から言えば、ベストとまではいかないものの、なかなかいい選択をしていると思う。たとえば、漱石の「坊っちゃん」。まだ翻訳されていないのかと思う方もおられるかもしれない。実際、英訳はあるのだが、かなり古いもので、あの生き生きとした文体が訳し切れていないとよく言われる。芥川の短編集も同じ。(二,三年前、せっかく新しい英語の短編集"Essential Akutagawa"が出版されたのに、中の翻訳はかなり古い者の転載だったりする。)この辺は、有識者の委員会に入ったジョン・ネイサン氏の意見が反映されているのだろう。

また、大岡昇平の『武蔵野夫人』、小島信夫の『抱擁家族』などは、いままで翻訳がなかったのが不思議なくらいである。大岡昇平の戦争小説はかなり訳されてはいるが、その他のジャンルの作品は皆無。『野火』『俘虜記』ときて、『武蔵野夫人』があるかないかでは印象がまったく変わってくる。(追記[2004.5.25]:大岡作品では「花影」も英訳が出ている。)また、『抱擁家族』は、翻訳出版の話は以前にあって、出版直前までこぎつけたようだが何かトラブルがあったらしく、幻の翻訳書となっている。(アメリカの図書館で検索すると時々この幻の書誌情報がヒットしたりするのだが、問い合わせてみるともちろん実在しない。)これらの本が出てくれると、戦後文学の授業のオプションがかなり増える。戦後文学ではないが、もう一頑張りして、荷風の『ぼく東綺譚』など出版してくれるとさらによい。

横森理香や末永直海などの若い作家は福田和也が推したのだろうが、こういう作品も、たとえばバブルの頃の日本の文化状況などを教えるときに、新聞記事や論文を読ませるよりもこのような小説を読ませた方が手っ取り早いわけで、日本文化の紹介という面では決して悪いチョイスではない。

ホームページを見ると、3冊が既刊、もう一冊『武蔵野夫人』が今秋出版予定という。秋の授業には間に合わないかもしれないが、楽しみだ。

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(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

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