読書ノート:『春の雪』
先週は、研究発表などのためブログが更新できなかった。仕事が一息ついたところで、三島由紀夫の『春の海』を読了。これを読んだ後、日本語で何かを書くのは気がひける。自然描写、大正時代の日常生活の機微、緻密でありながら全体としての構成美も備えている。そしていくつもの自意識が数手先を読みながら将棋を打っているような心理描写。それぞれの登場人物がお互いの裏をかきながら行動しているはずなのに、小説全体の筋は時計仕掛けのようにある運命に向かって刻々と進んでいく。モダニズムの作家たちが、書いた先から言葉が変質してしまう現象を受け入れてその力を最大限に生かそうとしたのに対し、三島はそのような流れに真っ向から反抗した最後の作家といえるのではないだろうか。大江健三郎が、デビューした頃の文体に飽きたらず、一度書いた文章を書き直し、また書き直すプロセスによって文体を改造し続けたのとは対照的である。
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference 読書ノート:『春の雪』:
Comments