A catastrophe.
イラクの旧アブグレイブ刑務所のイラク人虐待事件。知れば知るほど暗澹たる気分になってくる。
事実報道については、この事件が明るみに出る発端となったCBSテレビの "60 Minutes II"での報道や、The New Yorkerにでたサイモア・ハーシュの記事の内容が日本語のメディアでも紹介されている(たとえばここやここ)。
今日のタイトルに書いたように、この事件はアメリカの対外イメージに壊滅的な打撃となるだろう。なぜか。
CBSテレビのリポートでは、米陸軍のキミット旅団長が「一部の兵士たちの行動で15万人の米兵全体を判断しないでほしい」と訴えている。つまり、この虐待は一部の兵隊が勝手に行ったものであり、軍は組織的に関与していないというわけだ。しかし、The New Yorkerの記事に引用されている米軍の内部報告によると、この虐待は突発的なものではなく、むしろCIAなどの諜報機関によって、情報収集のために組織的に行われた拷問だったとされている。前の陸軍将校の「一部の兵隊の勝手な行動」という言い訳はもちろん通用しなくなる。また、これは氷山の一角で、似たような報告がこれからも次々出てくる可能性もある。米陸軍で、捕虜の扱いを定めたジュネーブ条約違反が繰り返し起こっているとしたら、人権侵害行為、戦争犯罪とも言える事態である。
また、写真や、The New Yorkerに報告されている虐待はどの文化でも言語を絶する行為だが、特にイスラムの文脈ではその屈辱が数倍にもなることばかりである。同性愛などはイスラムでは禁止されている性行為だし、またイラク人男性が裸で屈辱的な行為をしているのを女性の米兵が見てへらへらと笑っているというのは、マッチョなイスラム文化では傷口に塩を塗るようなもの。The New Yorkerの記事に引用されている大学教授は、これらの虐待があまりにもアラブ世界の人々の屈辱感覚のツボを押さえているので、アメリカ人はたんなる無知でイラク兵を虐待しているのではなく、イスラムの宗教や文化を理解した上で彼らにとって最も屈辱的かつ苦痛な行為をさせたとアラブ世界で受け取られるのではないかと危惧している。事実、(あくまでもIFの話だが)アメリカの諜報員が、情報を効果的に引き出すために拷問を指導していたとしたらありえることだ。
アメリカ人はアラブ文化に無知というイメージは今までもあったが、もしこの見方が定着すると、アメリカ人はアラブ文化を理解した上で一番屈辱的なやり方でケンカを売っていることになる。このケンカ、アラブの過激派が買わないわけがない。もともと、アラブの人たちはアメリカが自分たちの土地にいるというだけで屈辱を日常的に感じている。(ちなみに、小島信夫の「アメリカン・スクール」という短編小説は、米軍占領期に日本人が感じていた似たような屈辱感覚をユーモアと皮肉を交えながら実に的確に描いている。)この事件はアラブ人が感じている屈辱感を裏付け、強化するものになる。アラブのテロリスト集団は、この感情をバネに一般のアラブ人に自分たちへの反米テロへの支持を訴えていくだろう。そうなったら、アメリカが「イラク戦争はイラクの庶民を自由にするために始めた」とかいうたてまえは吹っ飛んでしまい、アメリカとアラブ世界の関係はほとんど修復不可能になる。
事実関係はこれからどんどん明らかになるだろう。現在事実とされていることが否定されたり、この事件がそれなりに理解できる文脈が明らかになることはあるかもしれない。しかし、イメージ戦争という観点から言うと、これらの写真がアメリカに与えてしまったダメージは計り知れない。もう取り返しがつかないレベルかもしれない。この事態、アメリカはどう収拾するつもりなんだろう。
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference A catastrophe.:
Comments
私は事件そのものにはそれほど衝撃を受けませんでした。もともとアメリカの軍隊が正義の(紳士の)軍隊であるなんつうプロパガンダは毛ほども信じてませんでしたので、他の戦争や武力衝突でも起こるのとそれほど大差ないことが起こっているのだなぁと思ったわけです(被害者には申し訳ないが)。もっとも、アメリカの軍隊が正義の軍隊だと信じて疑わない善良なるアメリカ人(いるのかなぁ、でもいるんだろうなぁ)には大きなショックなのでしょうが。
寧ろ私にとって驚きなのは、こうした行為を写真に撮って保存しており、しかもそれを流出させてしまったという憲兵部隊の意識の弛緩ぶりでして。
…こーゆーことは一応「悪いこと」とされているんだから隠しておかなきゃ、見つからないようにやらなきゃ、っていう意識も麻痺していたのかと。
バレてもどうってことないと思っていたのだとしたら(いや、そういう感覚すら欠落していたと思うのですが)、それこそ現地住民をナメていると思いますね。そんなことでは真っ当に占領など運用できる筈がない。「ブッシュのベトナム」化は必至ですな。
あ、そうそう、第800憲兵旅団の旅団長(解任)が女性だってのもびっくりしました。記事読んでて仕切りにshe,herが出てくるんで何のことかと思いましたが。ジェンダーから「しか」物を見ない「エセ」女性活動家たちはこの事実をどう見るんですかね。軍組織に入った時点で男性上位の価値観に捉われた犠牲者だということにするんでしょうか。
Posted by: 内藤 | May 4, 2004 9:15:02 AM
>内藤さん
私も、ここまできたら何が出てきてもおかしくないとは思っていたんですが、今回の件はイラク戦争の「建前」を根本から揺るがす事態なので、国際関係的にはこりゃ大変だと思ったわけです。まあ、写真のインパクトの強さもありますが。
内藤さんの言われる通り、軍の統制・士気の低下は相当なものですね。最近、米兵が逃亡してカナダ軍駐屯地に「亡命」し、米軍が返還を求めているなんていうニュースもありましたが。こんな情勢でも増派しなければならないアメリカの現状は…。
Posted by: むなぐるま | May 4, 2004 8:05:48 PM