むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

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September 20, 2004

現実への謙虚さは失いたくないものだ。ジャーナリストでもブロガーでも。

今日、CBSが一転過ちを認め、謝罪した。文書の提供者は噂されていた元テキサス州兵のビル・バーケットだが、彼が捏造したのではなく、別の文書提供者から渡された、ということらしい。今日のイブニング・ニュースでラザー氏がバーケット氏にしたインタビューを流すとのこと。そのインタビューで、バーケット氏が「CBSを意図的にミスリードしました」と言うらしい。CBSとしては、独立の調査機関を雇い真相究明するとしている。

ラザー氏も誤りを認める声明を発表。「今知っていることを番組制作時に知っていたとしたら、文書をあのような形で放送することはなかっただろう。しかし、使ってしまったことは事実で、そのことについては謝罪します。」しかし、このミスは「不偏不党、恐れることのない調査報道、というCBSニュースの伝統」にのっとったものであり、悪意のあったものではない、とも言っている。

最低限の謝罪、という印象。間違いを認めるというのはニュース機関にとってマイナスではあるが、独立調査機関の調査というのにはしばらくかかるから、これでしばらくは乗り切ろうということなのかもしれない。でも、明らかな疑惑が発覚してから全否定だったこの二週間弱は何だったのか。今回の事件で失われた信用、また、「リベラル偏向」というイメージを裏付けてしまったことのダメージは大きく、これくらいの謝罪で消えるほどのものではないと思う。

一方、TBSの金平記者。このサイトでは、まだラザー氏を弁護している。(9月15日付)

問題の本質は、ブッシュ大統領が州兵時代にまともに服務していたか、それとも、親のコネや影響力を行使してアンフェアなことをしていたか、ということなのだが、今やメディアは、ネットワークTVのある意味の「権威」ダン・ラザー及び「60ミニッツ」攻撃に腐心している。他人の不幸じゃなくて試練は蜜の味、というわけだ。夜8時からの『60ミニッツ』は、それでもCBSは踏ん張っていた。decency(品性)は失いたくないものだ。この国でも日本でも。
残念ながら、彼は、今回の事件の「本質」が、金平氏自身のような報道に携わる者の公正、不偏不党という原理原則にかかわることでもあるということを全くわかっていない。その上、この問題でCBSの批判をする人々は、ジャーナリストでもブロガーでも「他人の試練は蜜の味」という「品性がない」人だと、批判者の人格攻撃に切り替えている。
 まあ、私のようなブロガーでも、ラザー氏のような「権威」が失墜するのは滑稽だと思っている人は多いと思うし、特に、この事件はラザー氏の現実離れした否定が続いたから、いつ謝罪するかという意味で、ある意味自動車事故を面白がるような悪趣味の部分はあるかもしれない。しかし、可笑しいのは、他人の不幸ではなくて、メディアに関わる人々のあからさまな偏見、またそれに気付かない厚顔無恥ぶりだろうと思う。それには、もちろん、自分の偏見を棚に上げて、正当な批判をしている人々の「品性」をも問うこのTBS記者も含まれるのだが。

しかし、この人の使命感というか、正義感というか、何ともすごいと思う。多分、ブッシュ政権は「悪」であって、ジャーナリズムの使命を、ブッシュ政権のような「悪」と戦うことであると、一点の疑いもなく信じているのだと思う。だから、そのためには手段を選ぶ必要はない、ということなのだろう。
 現実問題として、現在のアメリカのニュース・言論界では保守系・政権擁護系の声が強まりつつある。とくに、番組編成やパーソナリティの選択で保守的な偏見を表に出したFox Newsの経済的成功により、他のニュース局の内容が右傾化しているという指摘がある。また、ネットワーク局は結局はオーナーの大企業(ディズニー、GE、Viacom)などの都合の悪いことは言わないのではないか、といわれる。ラジオではもっと寡占化が進んでいて、内容への干渉がひどいという指摘がある。そのなか、リベラル側からの政権批判をする人は苦しい立場に置かれていて、日頃から苦しんでいるから、今回の事件も「勇気ある反抗」と思うのだろう。
 では、金平氏の正義感は正当化されるのだろうか。
 まず第一に、もし自ら手段を選ばないことにしてしまったら、ジャーナリストとしての役割は崩壊する。ニュース番組に権威が与えられているのは、事実の正しさ、意見の公平さについて、一般市民よりも高いスタンダードを与えられているから。もしそれを捨て去ってしまったら、TBSニュースも朝日新聞の記事もマイケル・ムーアの映画も変わりはない。
 それから、今回のようなお粗末な報道こそ、保守系メディアに塩を送るようなことではないのだろうか。
 また、このような人に限って、自分の掲げる「正義」に目がくらんで現実が見えていないと言うことが往々にしてあると思う。現実は多くの顔を持っているのに、最初から正義感のフィルターを持ち込んだら現実を見誤るんじゃないだろうか。昨今の「ブッシュ叩き」の雰囲気にしても、私はどうしても乗り切れなくて、現実の様々な顔を見ようとしてきた。困ったことに、ブッシュ氏のステレオタイプは当たっているものが多い部分もあるし、彼の政策には彼の支持者でも賛成しかねるものが多いと思う。しかし、現実に謙虚にものを見つめたいとは思っている。その辺の最低限の抑制は失いたくないものだ。
 匿名でブログをつけるというのは非常にささやかな営みである。私には権威も何もなく、過去に書いた文章しかアイデンティティのよりどころがない。だからこそ、人格攻撃や無責任な放言などはしないように、最低限のマナーは心がけているつもりだ。そんなわけで、ある特定の条件の下に文章を書く訓練としては、非常に勉強になっている。

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私が事の顛末をうだうだ書くより、 綺麗に論評しているサイトの方が大いに価値がある&分かりやすいので 素晴らしいエントリをまず列挙。 ■ブッシュ大統領の軍歴疑惑(1)簡単に�... [Read More]

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必読ブログ。同問題に関し、現在あらゆる新聞・テレビの報道を質量で上回っている。 ../../2004/09/post_9.html >> 9月8日 ... [Read More]

Tracked on Sep 22, 2004 6:11:54 PM

Comments

「メディアの最大の使命は権力を監視することです」と筑紫氏がいつかどこかで述べていたように思います。まともなことのようにも聞こえますが、ちょっと考えるととんでもない。「権力を監視(というより攻撃ですね)する」ことがメディアの主たる使命なら、「事実を報道する(真実、なんて色のついたものでなくて)」というのは二の次三の次ということになる。
こういった「召命感」のようなものはジャーナリストに共通のものなんでしょうかね。

Posted by: nervenarzt | Sep 20, 2004 5:58:57 PM

TBSもサイトではこのニュースを伝えました。
米大統領の軍歴報道でCBSが謝罪
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye1038501.html
テレビで金平氏が実際に伝えたかどうかはまだ確認していません。

Posted by: (anonymous) | Sep 21, 2004 12:01:57 AM

コメントありがとうございます。
今日のNews 23 ではどうだったのでしょうか?
> nervenarztさん
ジャーナリストの「召命感」については、もうすこし考えてみたいと思っています。ジャーナリズムがおおむねリベラル偏向していて、ネット言論が右傾化しているとよく言われますが、思想的にはこの辺に戻ってくるのでしょう。
 これは私見ですが、アメリカのFox Newsやラジオ・トークショーなどが保守寄りというのは、陰謀論的に「悪の支配者」がメディアを支配しているというよりは、保守寄りのメディアの方が「売れる」という力学があると思います。右翼系ラジオ・パーソナリティとして有名なラッシュ・リンボウも若いときはノンポリだったそうで、右寄りになったのは経済的判断だったといわれます。どちらにせよ、「権力チェック」という大義を背負ったリベラル系のジャーナリズムの限界というのも見えてきているわけで、CBSの事件はその意味では大きな流れの一つの道標に過ぎないと思います。どうでしょうか。

Posted by: むなぐるま | Sep 21, 2004 9:52:08 AM

むなぐるま様
お久しぶりです。
NEWS23では、金平茂紀記者のレポートでCBS・ラザー氏の謝罪に関して報じていました。日本側(筑紫ら3バカ)はコメントをスルー! この問題に関しては、私はほとんどの情報をむなぐるまさんのblogから得ていました。ありがとうございます。
日本のテレビではほとんど報道されていなかったように思います。TBSは報道したのでしょうが、そこは見ていません。
さて、
>decency(品性)は失いたくないものだ。この国でも日本でも。
この金平特派員の言葉はそのまま彼に返したいと思います。
私はイラク政策に関する民主党・ケリー候補の発言(2005年夏からの撤退等)を聞いて、今回の民主党は駄目だと思いました。もっと多くの米軍兵士が殺されて、大規模再介入ですよ。ケリーという人はベトナム戦争の教訓というか、総括が全くできていない人のように感じます。その辺はブッシュと水準は変わらないと思います。ベトナム戦争従軍での勇敢な経験(?)が全く色あせます。イラクの難しさも理解しているのでしょうか。疑問です。
意地悪ですが、金平氏の望むようにケリー民主党政権が樹立されればいいと思います。その後イラクなどで起きるであろう事態に、金平氏(およびケリー氏)はどういう言い逃れをするのでしょうかね。

Posted by: I love さぬきうどん | Sep 21, 2004 3:13:02 PM

>さぬきうどんさん
ありがとうございます。そうですか、全く予想通りの行動ですね。まあ、これから新聞、雑誌などのメディアがどれだけ書いてくれるか期待しましょう。
 イラク政策ですが、ケリー氏陣営としては、ブッシュ大統領との政策の違いを鮮明にする必要があったので、ここ数日の「イラク戦争は間違いだった」という趣旨の演説はまあ正しい方向だと思います。しかし、だったら民主党大会で「ベトナム戦争で負傷したヒーロー」という演出は何だったのかと言いたくなりますが。

>ケリーという人はベトナム戦争の教訓というか、総括が全くできていない人のように感じます。その辺はブッシュと水準は変わらないと思います。
というのは、全く賛成します。しかし、外交政策を立てるのはケリーではないと思いますので、誰がケリー政権の外交・軍事チームに入るかでしょう。クリントンのときは、共和党のペリーを国防長官に呼び入れました。(勿論、国務長官のオルブライトは対北朝鮮でいろいろとやってくれたわけですが。)現大統領も、外交的には積極的な干渉はしないと言って当選しましたから、どちらかというと孤立政策を選ぶと誰もが思っていたわけです。ところが、9・11テロ、また政権内部のネオコン派のためにその予想が覆されたわけです。どちらにせよ、具体的な外交政策についてはまだはっきりしない部分が大きいと思います。メモ疑惑だの軍歴疑惑だのやっていないで、残りの2ヶ月はしっかりと政策論争をしてもらいたいものです。その意味で討論会は注目ですね。

Posted by: むなぐるま | Sep 21, 2004 6:13:50 PM

ダン・ラザー祭り続報で名無しでコメントしたものです。
テレビでこの件を報道したのは確認できるものでTBS・NHK・フジの三局でした。
ただCBSが誤報を流し謝罪したという非常に簡単なもので、あまり詳しく取り上げてませんでした。
個人的にはこの問題はジャーナリズムの信用性にかかわる重大な問題と思うのですが、日本のメディアでの取り上げられ方は非常に小さいです。
今後日本のメディアで取り上げられることがあればまたコメントさせていただきたいと思います。

Posted by: rino | Sep 22, 2004 10:57:24 PM

> rino さん
コメントありがとうございます。情報提供などのコメントは大歓迎です。
これからもよろしくお願いします。

Posted by: むなぐるま | Sep 23, 2004 12:57:53 PM

むなぐるま様
コメントをお聞きして、ケリー民主党候補の政策は、もう少し慎重に見極める必要があると思いました。

さて、ラザー問題、日本でも問題になりつつあります。
西村幸祐さんの「酔夢ing voice」
http://www4.diary.ne.jp/user/401628/
の最近の日記にラザー問題に関する指摘があります。
ご存知かも知れませんが、お知らせまで。

Posted by: I love さぬきうどん | Sep 23, 2004 3:41:08 PM

> さぬきうどん様
西村幸祐さんのサイトは時々見てます。2002年のワールドカップの時のメディアと国民のギャップについて書いておられたのもこの方ですよね。
 ケリー候補の外交については、だんだん悲観的になってきています。日本は次3年間は小泉首相でしょうから、ケリー氏になった場合は今のような厚遇は期待できない、というのと、今は選挙に勝つのに精一杯ですから、選挙に勝った後は大混乱するのでは、というのがあります。もっとも、次の4年間はどちらにせよイラクの後かたづけに追われるでしょうから、どちらが選挙に勝っても「貧乏くじ」ではないか、という意見もアメリカのブログでは出てきています。

Posted by: むなぐるま | Sep 24, 2004 3:11:32 PM

(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

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