大統領選討論の場外戦はすでに始まっている
明日は大統領候補による討論会。今日のNYTのオピニオン欄には、前回ブッシュ氏に選挙で敗れたアル・ゴア氏が「ブッシュ氏と討論する方法」という題で寄稿していて、ケリー候補に、「イラク戦争の真実を伝えれば勝てる」とアドバイスしている。明日の第一回の討論会は外交・軍事の質問が中心になるので、ケリー氏にとってはそのアドバイスを生かす最大のチャンスだ。また、討論会関連では、ブッシュ氏とケリー氏の過去の討論ビデオを分析した記事(The Atlantic)も興味深い。著者は日本でも一時期有名だったジェームス・ファローズ。
しかし、討論がどう展開するかは勝敗にはあまり関係ないという考え方がある。
それは、討論のインパクトは実は討論後の各党の対応によるというのだ。NYTではポール・クルーグマンがそのような主旨のコラムを書いているし、また、ここ2、3日はTalking Points Memoでもそのような指摘がされている。TPMによると、4年前のブッシュ対ゴアの討論会では、一回目の討論の直後の印象ではゴア氏優勢と伝えられていたのに、その後共和党のキャンペーンが奏功してブッシュ氏有利となったという。4年前を思い出してみると、「ブッシュ氏は庶民的で親しみが持てる」「ブッシュ氏は予想よりよくやった」「ゴア氏には知的優越感から来る驕りがある」など、討論の内容とは関係のない印象批評をよく聴いたのを覚えている。そして、そのようなイメージが定着する中で、「ブッシュ氏はそこそこよくやった」「ゴア氏は傲慢だった」というイメージが形成されていったように思う。
こういう印象操作は、現政権支持で悪名高いFox Newsばかりではなく、各ニュースチャンネルに出演する共和党陣営のコメントなどが協力して似たような論点(Talking Points)を繰り返すことによっても強められる。この前のCBS疑惑では、CBSがリベラル偏向していると書いたが、ここで言っているのは、3大ネットワークで晩飯時に流れるイブニング・ニュースではなく、政治討論番組のこと。では、今のアメリカのメディアで保守とリベラルのどちらが強いか、というと、保守系のほうがルール違反をせずに上手にメディア戦略を練っているとはいえると思う。この前にCBSが犯したようなミスをFox Newsが犯したら今頃大騒ぎになっていることだろう。でも、Fox Newsに出てくるコメンテーターが共和党の論点を壊れたレコードみたいに繰り返しているのを見ると少々あきれることも多い。
さて、この「場外戦」に関して、少し興味深い動きがあった。ケーブルニュース局の一つである、MSNBCが、明日の討論会の特番で、世論調査担当のFrank Luntzを起用しないと発表したのだ。この人、この4年間、MSNBCの政治番組に「世論調査員」として、何か大きな政治イベントがあるとよく登場していた。彼の得意は "Focus Group" と呼ばれる生の擬似世論調査で、スタジオに少人数の「中間層」の市民を呼び、反応を聞くというもの。例えば、民主党大会のケリー氏の演説の時には、Focus Groupの人々にダイアルを持たせ、好感度なら一方、反発したなら反対にダイアルを回してもらう。そのダイアルの数字をケリー氏の演説に重ねて、どの部分が反応が良かったか、悪かったかが即時にわかるというわけだ。MSNBCの中継では一番興味深い部分ではあった。
この「世論調査員」のLuntz氏なのだが、実は共和党のアドバイザーでもあって、現在も共和党の候補や広報担当に助言を続けているという。このサイトがよくまとめているが、共和党のコメンテイターに、「イラク戦争について語る前に、必ず『9・11ですべてが変わった』と付け加えること」と助言をしたり、カリフォルニア州知事リコール選挙では、シュワルツェネッガー氏の演説も書いていたという。(今年の共和党大会ではシュワ氏の演説をべた褒めしていたというから、図々しい。)これだけ共和党との関係が深い人物なら、本来NBCは彼を「共和党」関係者と紹介すべきなのだが、この4年間そうしてこなかったのだ。一件中立の立場に見せて、彼が非科学的なFocus Groupの結果についてコメントするのだから、印象操作の余地は十分にあるとも言える。
そして数日前、MSNBCの討論会中継でもLuntz氏が"Focus Group"を使って登場することがわかり、リベラル系のメディア監視グループやブログがキャンペーンを展開。Luntz氏を降板させるか、氏の共和党コネクションを明らかにするよう、MSNBCとNBCに圧力をかけ続けた。結果、今日になって、MSNBCはLuntz氏を起用しないことを発表したという。TPMでは "A SUCCESS" というタイトルのエントリを書いて勝利宣言している。
4年前の選挙について今思い返してみると、私は、実は、ゴア氏が勝つと思っていた。政策はそれほどでもなかったが、ゴア氏の方が頭脳明晰で政策通なのは明らかだと思ったからだ。しかし、ご存じの通りの大接戦。なぜかなあと思っていたときに、このLuntz氏が「アメリカ内陸部の人々はブッシュ氏の親しみやすさに惹かれている」などと言っていて、ああ、そんなものかと思ったものだ。あれから中西部に住んでみて、ブッシュ氏の支持が根強い地域が多いことは実感としてわかったから、彼の言っていたことが間違いだとは思わない。しかし、今思うと、Luntz氏の印象操作に乗せられていたのかもしれない、とも思う。ともあれ、この件一つを取っても、討論の場外の情報戦はもう始まっていると言うことができるだろう。
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference 大統領選討論の場外戦はすでに始まっている:
Comments