シニカルな新聞記者二題
まずは、New York Timesに載った、イラクの自衛隊についての記事。
Japan's Troops Proceed in Iraq Without Shot Fired By NORIMITSU ONISHI (Oct. 6, 2004)
この記事、共同電で紹介されたりしていたのでごらんになった方も多いとは思う。実はこの記事について私は松坊堂日乗から頂いたトラックバックで知った。松坊堂さん(でいいのでしょうか)がご指摘されている通り、この記事の著者は、イラク日本人人質事件の「自己責任」論について、「彼らは『お上に逆らったから』罰せられたのだ」と書いた人物である。この記事については私が前に、この記事のステレオタイプ的な日本論が偏見を助長しているのではないかと分析した。その意味では、この記事もまったく変わっていない。
この記事は次のように始まる。
Whenever a Japanese convoy leaves its base here in southern Iraq, the armored vehicles are so spotless that they appear to have just rolled out of a Tokyo car showroom into this crumbling Shiite Muslim town on the Euphrates.
They lack the dents and dirt of other nations' vehicles. Perhaps that is because of the Japanese troops' attention to maintenance or perhaps, as the Iraqis here say, their increasing tendency to stay inside their base with the violence rising outside.
自衛隊の装甲車両は「東京の自動車ショールームから出て来たほど」ぴかぴかなのだそうだ。さて、なぜ「東京の自動車ショールーム」を持ち出す必然性があるのだろうか?
ここでポイントなのは、日本人を「車」で代表させる換喩的な手法である。日本人は生身の人間ではなく、ピカピカの車としか見えない。西洋における日本のイメージが、極端にエキゾチックなものか、経済大国、ハイテク大国になった後のモノ中心のイメージが圧倒的で、日本人を同じ人間として見るということの大きな障害になっていることを考えると、この手の換喩はあまり歓迎できない。
そもそも、この表現に必要性はあるのだろうか? 日本の外交は顔が見えない、ということへの遠回しな批判なのだろうか? そうだとしたら、なかなかスマートな語りではある。あるいは、イラクの人にとって日本のイメージは「経済大国」である、という、イラクの一般庶民の視点に立った語りなのだろうか? どちらにせよ新聞記事としては合格点かもしれない。しかし、私はこういう記事を読むたびに思う。日本の話題だったらいつも「車」とか「相撲」とかステレオタイプに直結した表現を持ち出す必要があるのか? アメリカ政治の記事で必ずどこかでカウボーイについて触れたり、フランスだったらワインとか、インドだったらカレーだとか、そういう記事を見せられたら読者はうんざりするとはこの記者は考えないのだろうか? もういい加減にそういうステレオタイプから自由になる時が来てほしい。そのためには、そのような表現を安易に使わないことが一番だと思う。こういう表現をサラッと使って恥じないという態度にシニカルな無関心というか、敵意のようなものすら覚えるのは私だけだろうか。
また、「自衛隊の車両はほとんど外に出ない」とある。この一文は記事全体の印象を決定づける意味で重要なのだが、オオニシ記者はこの点の事実関係については本文ではほとんど検証していない。日本に批判的なイラク人の大学教授が「自衛隊は外にほとんど出ていない」とコメントしている程度である。サマワ駐留の松本氏は、「すべて予定通り」と言っている。もちろん、自衛隊の発表を鵜呑みにすべきというのではないが、もう少し検証があってもいいと思う。イラクの一般庶民が自衛隊についてどういうイメージを持っているのか、という点は、実際、サマワの自衛隊の記念碑が破壊されたというニュース(読売)もあって興味深い点ではある。しかし、この記事を読んでいくと、イラクの人々の「日本の支援」というイメージはかなり規模が大きい経済支援を考えている人が多いということがわかる。これでは多少水を供給したりサッカーボールを1000個送ったくらいでは、「期待はずれ」である。イラクの人が不満だからと言って、自衛隊が引きこもっているということにはならないだろう。
この記事、自衛隊は「平和主義から離れる」流れの一環である、と結ばれている。オオニシ記者はこの辺りをアピールしたいのだろう。その意味では、この記事はNYTの読者だけでなく、日本の読者にも向けられている。(共同電が紹介記事を書いたのは、まんまと乗せられたのか、それとも直接・間接の依頼があったのか?)しかし思うのだが、イラク情勢がまったく混沌している現在、「日本の軍国主義化」を心配している人はどれくらいいるのだろうか? 憲法改正だって今すぐにも通りそうな印象すら受けるが、どう考えても5年、10年先の話ではないのだろうか? それより、自衛隊の現在の仕事が、将来の日本のイラクへのコミットメントにどう関わるかの分析を読んでみたい。ケリー候補も「多国籍部隊を拡大する」と言っているわけだし。ともあれ、この記者、アメリカの新聞社の日本への特派員のはずなのだが、視点がほとんど日本のマスコミと化しているのは面白い。
長くなったが、私は自衛隊を弁護したいわけではない。むしろ、「東京の自動車ショールームから出て来たばかりのようなピカピカの装甲車両」とか、「引きこもって出てこない自衛隊」とか、あからさまな印象操作とも取られかねない記事に強烈な反感を覚えるだけである。そんなことを書かないで、事実だけ淡々と書くのがジャーナリズムの仕事じゃないんだろうか。最後の判断は読者がすればいいのだから。
しかし、これは外交の問題でもある。イラクに自衛隊を送っているのだから、その点、各国にしっかりアピールしてほしい。この機会に外務省のイラク問題サイトを見たのだが、英語ページは決して充実しているとは言えない。日本語ページに比べてもかなり貧弱である。そもそも、外務省のホームページというのは海外に向けて日本外交のメッセージを発する重要な拠点なんじゃないだろうか?
☆
CBSメモ疑惑でダン・ラザー氏を弁護していたTBSの金平氏のHPが更新されている。ラザー氏が謝罪した直後は更新が止まっていたのだが、また更新が再開されたようだ。メモ疑惑についてもいくつか言及がある。
金平氏も匿名のブロガーの批判はかなり意識しておられるようだし、私もこれ以上コメントするつもりはなかったのだが、これだけは書いておきたいと思ったことがひとつあった。10月6日の、
[私はこの件を是認します〜And I approve this message.]
というエントリ。今回の選挙から、ネガティブ・キャンペーンを減らす目的で、公式TV広告では候補自身が「私はこの件を是認します」と言わなければならない、という内容なのだが、次のように結ばれている。
イラクの大量破壊兵器に関する米調査団の最終報告書が出た。やっぱり大量破壊兵器はなかったという結論。将来のアメリカの教科書にはこの顛末はどのように記述されるのだろう。
(例)2003年3月、わが国は、大量破壊兵器保持を最大の根拠として、サダム・フセイン政権下のイラクに侵攻(invade)した。しかし、その後も占領政策に対する抵抗が根強く続き、わが軍にも千人を超える死者が出た。
もっともその頃に日本みたいな検定制度がアメリカに逆輸入されてたりして。こなんふうに。
(検定後)2003年3月、わが国は、イラク国民に自由と民主主義をもたらすために、サダム・フセイン圧制下のイラクに進撃し、イラク国民を解放した。その後、テロリストたちによる不法な反米蜂起が起きたが、わが軍によって制圧された。
こういうのは是認できないな。
日本の教科書検定制度では「侵略」を「進出」と書き換えるような歴史修正が行われているとでも言いたいのだろうが、「侵略」→「進出」と書き換えろという検定があったというのはあきらかな事実誤認である。これは朝日の有名な誤報記事で、誤報だったことは朝日新聞自身も認めている。(参照)誤報から出たデマを広げるのも許せないが、このポイント自体、本論と何にも関係ないじゃないか。何でも「日本政府は悪」という結論に牽強付会するというのは変だ。私は日本から離れてだいぶ経つので「News 23」の人気はわからないのだが、こういう報道をしていたら視聴者が離れていくんじゃないだろうか。こういう意見ばかりは是認できない。いや、本当に。
追記:このエントリはメディア批評という立場から書きましたが、サマワの治安、自衛隊の活動などがどうなっているのか、興味があります。事実に基づいたレポートがありましたらここのコメント欄などでお知らせ下さい。
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Comments
私が知る限り現地情報はこれだけです。
書評「イラク現地報告--自衛隊がサマワに行った本当の理由」
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/notice/honto_no_riyuu.htm
Posted by: katute | Oct 8, 2004 9:17:25 PM
> katute さん
情報ありがとうございます。自衛隊派遣反対の立場で書かれた本のようですね。
イラク復興ビジネスというのが今のイラクで成立しているのか、どのくらいの規模なのかという疑問はあります。
Posted by: むなぐるま | Oct 15, 2004 2:00:03 PM