むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

« New York Times のデリダ訃報に抗議殺到 | Main | 論壇系ブログは日本の言論空間を変える力になれるか? »

October 13, 2004

第三回大統領選討論

第三回討論。どちらも大きなミスはなかったように思う。ここまで来たら、どちらが討論に勝ったかはそれほど重要でないかもしれない。ブッシュ大統領が過去二回の討論に比べて生き生きとしていたように見えたのは私だけだろうか。そもそも、四年前ブッシュ氏は「憐れみ深い保守 (compassionate conservative)」のスローガンのもと、伝統的に民主党が強い健康保険、教育などの部門でリベラル寄りの政策を提示して当選したのだった。その当時を思い出させる、確信に満ちたパフォーマンスだった。また、チャーミングさではケリー氏はブッシュ氏には決して勝てないだろう。
 一方、ケリー氏は、この三回の討論を通し、「大統領らしい」イメージを有権者に伝えることには成功していたと思う。そのような大きな流れは今回の討論では変わらなかったように思う。

いくつか気がついたこと。

○ブッシュ氏はケリー氏の上院での投票行動をやり玉に攻勢に出ていたが、果たして有効打になっていたかどうかはわからない。この手の数字はいくらでも誇張できる。有効だったとすれば、「ケリー氏は上院でリーダーシップを発揮していなかった」という辺りか。

○ブッシュ大統領は、低所得者救済についての質問が出ると、その質問には直接答えずに教育改革 ("No Child Left Behind Act") の話題に切り替えていた。そういえばチェイニー氏もこのレトリックを使っていた。ブッシュ政権の4年間で最も目に見える効果が出たのはこの教育改革。この法案を通すときには両党の協力を得たし、伝統的に民主党が強い教育政策で強いイニシアチブを発揮した。また、「教師に説明責任を」という発想は、自由競争・反教職員組合など保守系にうけやすい側面も持つ。確かに貧しい家庭の子息が満足な教育を受けることが貧困をなくす一番健全な方法だとは思うのだが、一般的に税制などで貧困層に冷たいブッシュ政権の言い訳のような気もする。

○選挙戦も大詰め。さすがに税収の確保については納得のいく説明は聞かれるはずもない。また、アメリカでも年金は日本と同じ問題を抱えているが、ケリー氏はこの問題は先送りするといい、また、ブッシュ氏の「年金を一部貯金できるようにする」という案も、その間の年金収入をどう確保するかについては説明なし。年金改革はかくも難しい。また、ケリー氏になったら現在の財政赤字が減少して、均衡財政に移行するというのも疑問である。

○自分の信仰についての発言では、ブッシュ氏の謙虚さがよく出ていたと思う。この辺の感覚を日本在住の人に誤解されないように説明するのは難しいのだが、ブッシュ氏は実に自然に語っていた。また、マイノリティ、ゲイの人々の自由を尊重すると彼がいうとき、彼はそう心から信じているという印象を与える。その後に続くケリー氏は大変だと思ったが、彼もなかなか真摯に答えていた気がする。

○私にとっての今日のハイライト。
ケリー氏「ブッシュ氏は、私の健康保険政策について国民をミスリードしている。二つの報道機関が、大統領の説明は正しくないと言っている。」
ブッシュ氏「事実の真偽について報道機関をそんなに信用するのがいいとは思わないが…。(笑)」
CBSニュースの司会者の前ではっきり言うとは思わなかった。

さて、今のところ世論調査はデッドヒートなのだが、このまま行けばケリー氏が有利、という見方がある。接戦の州で民主党支持者が大量に有権者登録をしていること、また今のところ未決の層はどちらかというとケリー氏に投票すると見られていることから、世論調査の数字でブッシュ氏が5%ほどリードしていなければケリー氏が有利といわれている。討論の前はブッシュ氏がそれ以上のリードを保っていたが、2回の討論でブッシュ氏のリードはなくなってしまった。今回の討論でその流れは変わらないだろう。さて、オクトーバー・サプライズはあるのかないのか。ブッシュ陣営の参謀ローブ氏が、保守系コメンテイターに「10月中にサプライズがあるかもよ」と言っているらしいが…。

|

TrackBack

Listed below are links to weblogs that reference 第三回大統領選討論:

» スウィング・ヴォーター。 from Espresso Diary
テレビ討論が終わって、ケリー候補の追い上げが報道されています。しかし、「ケリー、猛迫」という積極的な雰囲気までは感じ取れません。私が感じるのは、「スウィング・ヴォーター... [Read More]

Tracked on Oct 15, 2004 5:32:33 AM

Comments

 またまた大統領選挙テレビ討論のレポートありがとうございます。
ところで、
米副大統領夫妻、ケリー氏に激怒=「娘を同性愛者」と指摘
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041015-00000977-jij-int
と日本でも地味に報道されましたが、現地での影響はどうでしょう?
共和党は積極的にこれをネガティブキャンペーンに使いそうな気もしますが。
 これに関連してエドワーズ民主党副大統領候補が
「娘が同性愛者であることを公表されて腹を立てるということは、
副大統領自身が同性愛者を差別していることに他ならない」
というようなことを言ったとの情報もあります。

Posted by: 伊予の里人 | Oct 15, 2004 6:04:35 AM

>  伊予の里人 さん
この件は、演出されたスキャンダルでしょう。エドワーズ氏も直接ではないにしろチェイニー氏の娘に言及していましたし、今回だけ騒ぐというのは何とも不思議です。娘さんも、もう子供ではないし、同性愛だと言うことは公言しているわけですから。一説によると、ケリー氏の使った "Lesbian" という言葉には、同性愛者という意味合いの他に、行為を指すことがあるそうで、特に古風な道徳観が残る南部では反感を買う表現だったようです。
 エドワーズ氏の発言にも一理あって、チェイニー夫妻の言葉遣いには、家族の恥を公表されたようなニュアンスがあって、それ自体が同性愛者の差別意識に基づいているという批判も聞かれます。しかし、保守的な州ではこういう感情的なアピールが意外と効くんですよね。
 この手の発言がスキャンダルとなるにはPRが必要ですから、選挙参謀のカール・ローブ氏の作戦なのでしょう。ローブ氏はブッシュ氏がテキサス州知事選に立候補しているとき、「民主党政権では同性愛がはびこる」という、男同士がキスしている匿名ビラをばらまいて当時の民主党州知事のリチャーズ氏を攻撃したといわれています。また、2000年共和党予備選では、マケイン氏は黒人の隠し子がいるという噂を流してサウス・キャロライナで勝利しました。(実際は、マケイン氏は黒人の子供を養子に取っていただけだった。)人種とか同性愛とかの差別感情をもろに使って選挙をしてきたローブ氏が今更「同性愛の権利」とか言うのは図々しいと思いますが。

Posted by: むなぐるま | Oct 15, 2004 2:28:23 PM

(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

ウェブログ図書館 http://library.jienology.com/