むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

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November 04, 2004

大統領選についての私的総括

私はこの1年半ほどアメリカ中西部に住んでいる。今年の夏に引っ越したのだが、引っ越し前も後もたまたま今回の選挙で激戦になった州だった。だから、今回の選挙で、いつもはニコニコして共存している人々が全く違う価値観を持ち、ちょうど保守とリベラルで半々くらいで真っ二つに分かれている、というのは、理屈でなく日常の感覚でわかる気がする。2000年の選挙の結果が大接戦で終わったとき、アメリカという国はRed States(共和党支持の州)とBlue States(民主党支持の州)でくっきりと分裂している、ということがよく言われた。それ以来、この価値観の分裂に興味をもつようになった。特に、共和党の支持者とはどんな人達なのだろうか、と。

この感覚、じつは大学にいるとよくわからない。大学の場合、教員も院生も圧倒的にリベラルな人が多い。(教員以外の職員や学部生も入れると半々くらいになるのだが。)だから、大学の中にいると、イラク戦争についても「あの戦争に賛成している人ってどんな人だろう?」と、保守派の人々はどんな人か想像もつかないというようなことになりかねない。大学の先生方をはじめ、アメリカのリベラルな論客の話を聴いていると、同じ思想の人々に語る言葉は持っていても、保守派に語る言葉を持っている人は少ない。それから、「保守派の人達は知性が足りないのでは」というようなことも本気で信じている人も多い。有権者の50%(±1%)が共和党に投票する人々、残りが民主党に投票する人々なのに、その二つのグループの間で共通の言葉で対話することがどんどん難しくなっている現実がある。そんなことがわかってくると、日頃はリベラルな人達とつき合うことが多いのだが、対話のための共通の言語をもつためにはどうしたらいいのだろうか、と考えるようになった。

このブログでも米大統領選挙について、いろいろとかなり詳しく書いたのだが、基本的には、日本でも「反ブッシュ」のムードが先行するなかで、なぜブッシュ氏がアメリカ国民の半数の支持を得ているか冷静に考える材料を提供したいというのが大きな動機のひとつだった。で、実際に左や右の新聞記事やブログを読んだりしていくと、ブッシュ陣営(とくに選挙参謀のカール・ローブ)の巧妙な、反則すれすれの選挙戦術もいろいろと見えてきたし、ブッシュ氏が、さまざまな失政をしたのにもかかわらず、誤りを認めず責任も取らないという事実もわかってきた。いっぽう、そういう現実に不満を持つ大手のリベラルメディアが、「ブッシュ氏を支持するのは知能が足りない」という偏見丸出して、あたかも国民を教え、導くのが自らの使命とばかりに傲慢に振る舞うのも見えてきたように思う。また、とにかくブッシュ氏の政策に反対の意見をとりあえず出しとけ、というケリー氏の外交や、伝統的に反日的な民主党の政策の片鱗がケリー氏やエドワーズ氏にも見られたりもした。結局、私個人のスタンスとしては、民主党の外交・安全保障政策が共和党のそれに限りなく近づいていくなか、「説明責任」を明確に打ち出したケリー氏に交代した方がアメリカのためにはいいのかな、と考えるようになった。(日本の国益という意味では、ブッシュ氏のほうがいいことは言うまでもない。)また、アメリカ国民もそのような判断でケリー氏を選出するのではないかという感じを持っていた。

しかし、結果としては、ブッシュ氏勝利。私としては、事実の観測も誤ったことになる。ひとつには、民主党側の新しい有権者の掘り起こし(若者や貧しい層)についてはメディアで大きく報道されていたものの、共和党側の、教会や家族・親戚などのネットワークを使った草の根運動についてはまったく無視されていたことがある。実際、共和党では、フロリダのような州では草の根の有権者の掘り起こしを二年がかりでやっていたという。これについて選挙前に唯一コメントしていたのが、ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョージ・ウィル氏だった。結局、Fox News以外の大手メディアでRed Statesの様子を理解していたのは彼くらいのものだったということだ。私も、共和党支持のメンタリティを理解しようとはしていたが、結局はわかっていなかったのかもしれない。

今回、ケリー氏は前回のゴア氏の得票に500万票上乗せしたという。若者や新しい有権者の掘り起こしはある程度成功した。しかし、ブッシュ氏は、上に書いたようなネットワークの力で900万票上乗せした。この900万票ぶんが、普段メディアにはあらわれないアメリカのコアな力の部分だった、というのが今回の選挙の結果のいちばんの教訓だと思う。

それから、今回の選挙の結果について「福音派」「宗教右翼」の支持を受けた共和党が躍進した、という説明がなされている。しかし、私は、この説明は必ずしも現実を反映していないと思う。CNNのこの出口調査をみれば、アメリカの多様な現実のなかで、ちょうどブッシュ氏が51%の支持を得た、という実像が浮き彫りになっていると思う。たとえば、学歴についても、ケリー氏が優位なのは高校を卒業していない層と大学院以上の層であり、むしろ大卒ではブッシュ氏がリードしているという事実はどうなのだろうか。一方、年齢別では60歳以上でブッシュ氏が4年前に比べてリードを広げているのが興味深い。民主党で共和党の応援演説をしたゼル・ミラー氏のように、今の民主党にはついていけない、と考えるお年寄りの方が多かったのかもしれない。シニア・シチズンがエミネムのビデオをインターネットで見るとは考えにくいが、ビル・オライリーが「ビンラディンとエミネムがケリー氏を応援していますよ」と言ったら、民主党には投票しにくいとは想像がつく。また、意外に大きかったのは、レンキスト最高裁判事の急病ではなかっただろうか。ケリー氏が大統領になって保守派のレンキスト氏の代わりにリベラルな判事を選んだら、今後30年、40年単位で最高裁のバランスが変わってしまう、という危機感を感じた保守派の人々がブッシュ氏支持に回った、というのが結構大きかったのかもしれない。いずれにせよ、ブッシュ氏に9割方投票するような「宗教右翼」層があって、その人々がブッシュ氏を支持したために選挙に勝った、というのは一面的に過ぎると思う。

つらつらと書いてきたが、一番伝えたかったのは、アメリカ政治について「ブッシュ氏を支持したのは、中西部に住む文盲で狂信的な福音派のクリスチャン」というようなステレオタイプ的な説明をすることは、事実と離れているばかりか、様々な意見を持つ人々の間に言葉を切り開く作業の妨げにしかならない、ということである。たとえば、選挙日の数日前から、町山智浩氏がその手の言説を広めているのを読んで、はて、どうしたものかと思った。アメリカ人の一部の人々について理解できず、自分の言葉が通じないからといって、まるで悪魔の手先のように書いても誤解を深めるだけなのに、と思っていた。しかし、この選挙の後で、そういう見方はどうなの、と疑問を投げかける意見を日本語のブログ界隈でもいくつか見かけて、少し安心している。いずれにせよ、選挙は終わったが、アメリカ国内の価値観をめぐる対話は間違いなくこれからも続いていくことだろう。

【追記 11/05/04】町山氏からコメントを頂き、もう一度自分の文章を検討した結果、「中西部に住む」という部分を削除しました。その経過についてはこのエントリを参照して下さい。また、町山さんのコメントですが、建設的な議論になるきっかけになればと思いますので、そのまま残させていただきます。ご了承下さい。

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Comments

アメリカの大学での状況、日本と似ていますね。
研究者の間でリベラルな意見の多い点など。

福音派がブッシュ氏を勝たせたというのが誇張された意見だというのは納得しました。

アメリカでの価値観をめぐる対立が、選挙後に日本でも報道されています。
が、その要因、契機について、的を射た説明がありません。
9.11だけではないと思います。

Posted by: aki1968 | Nov 4, 2004 10:51:36 AM

では逆はどうなのでしょうか?自分の価値観と違うからといって、リベラル派をアンチクライスト、悪魔の手先とばかりに敵視しているのはそういうアメリカの一部の人たちも同じではないでしょうか。宗教というある種の洗脳が入ってるだけ、そちらのほうがより根は深いですよね。確かの今回の選挙結果は宗教だけが要因ではありませんが。

Posted by: ht | Nov 4, 2004 5:34:24 PM

>理屈でなく日常の感覚でわかる気がする。

これ、わかります。今テネシーに住んでいるので。
今回の選挙で感じたことについては「極東ブログ」さん
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/
の2004/11/04「ブッシュが勝った」にコメントを書きました。

感覚でわかっても理屈で説明できないことと、
コメントがあまりに長くなりすぎたことで、気弱になったため「匿名希望」に
してあるのですが。

Posted by: liyehuku | Nov 4, 2004 6:11:18 PM

>たとえば、学歴についても、ケリー氏が優位なのは高校を卒業していない層と大学院以上の層であり、
>むしろ大卒ではブッシュ氏がリードしているという事実はどうなのだろうか。

北米に3年いた私は良く分かります。この辺りが特に。

Posted by: ちゅちゅもえらー | Nov 5, 2004 1:23:32 AM

他の人から、あなたのサイトに、「私が『中西部に住む福音派』と書いた」と、書かれていると知らされてお邪魔しました。
私はそんなことはいちども書いていません。
もういちど私のサイトを読み直してみてください。
どこにも書いていないでしょう?
私が福音派が多いと書いたのはバイブルベルトです。
中西部には東方正教、カソリックが多いと書いてあるはずです。
また分裂についても、私は「東部&西海岸対南部&西部」と書いてあり、
「中西部はその間で引き裂かれている」と書いてあります。
また、「州以上に都市と田舎の対立も大きい」と書いてあります。
読み直して、私の文章についてあなたが読み間違えた部分だけでも修正していただけますと幸いです。
それが終わったらこのコメントも消していただけると幸いです。
失礼しました。

Posted by: 町山 | Nov 5, 2004 11:08:01 AM

これも読み終わったら消してくれるとありがたいのですが、
とにかく私は中西部の人を福音派だとは一度も書いてません。
私は選挙前にこう予測しました。要約しますよ。
「今回の選挙の鍵を握る中西部に多いブルーカラーは宗教や党派よりも何よりもハードワーキングメンとしての誇りが高く、東部のホワイトカラーや西海岸の文化人に反発する意識が強い」
「だから文化人や芸能人のケリー支持は逆効果に働くかもしれない」


どこにも中西部は福音派だとも共和党だとも書いてません。
東部や西海岸に反発する、と書いたのです。


それに私は州規模の分裂以上に都市と田舎の亀裂だとも書いています。
南部ですら都市部では民主党が勝っていると書いています。
テキサスだってテキサス大学のある郡では民主党が強いのです。


とにかく私の日記を読み直してください。
批判するのでしたら、私が書いてないことを指摘しないでください。

http://www.pipa.org/OnlineReports/Pres_Election_04/html/new_10_21_04.html

Posted by: 町山 | Nov 5, 2004 11:54:15 AM

あと、参考までに、私の事前予測での「キリスト教価値観がブッシュ勝利の大きな要因になる」という見解が正しかったことは、選挙後の以下の記事が証明しています。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A23754-2004Nov3.html

また、「中西部は文化人や芸能人に反発する」という私の予測が正しかったことも、以下の記事での調査結果が証明しています。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/talking_point/3981669.stm

Posted by: 町山 | Nov 5, 2004 12:02:32 PM

何故ブッシュを選んだか?ブッシュの支持者は現政権の言っていることを信じた人たちですから、こういう考えを持っている人々ではないでしょうか。

●ケリーは色々言っているがどれも達成できそうな気がしない。
●ブッシュにはできそうな気がする。賛否はあるが、実際に多くの法案を通してきた。
●個々の失政、ミスなど途中経過がどうであれ、テロ対策、安全保障、米軍再編、イラク、経済、どれも最終的には全体として良い結果になりそうな気がする。
●実際にそうなりつつある芽はある。例えば、

(1)イラク人への政権移譲に成功し、代表者を選出し擬似国会の設定にも成功(スケジュール通り)
(2)サドル派の一件はほぼ収まった。
(3)米兵の死傷者数は一時期よりもかなり減った。
(4)イラク治安組織は人数、訓練、装備のどれをとっても向上しつつあり、ますます中心的役割を担いつつある(来年8月には20万人を超える予定)。
(5)アフガニスタンではカルザイが再選された。
(6)イラクでも1月には不完全ながら選挙が実施できそうである。
(7)58%のイラク人が民主主義の成功を予想している(上院軍事委員会)。
(8)77%のイラク人が選挙は重要な権利と認識している(上院軍事委員会)。
(9)75%のイラク人はフセインの排除により生活が良くなり今後さらに向上すると考えている(上院歳出委員会)
(10)47%のイラク人はブレマー氏の仕事をremarkably positiveと評価している(上院歳出委員会) 

(その他多数あり)

Posted by: エイメイ | Nov 5, 2004 5:14:05 PM

町山さんより前にコメントを頂いた方々にまとめてお返事します。

> aki1968さん
いつも読ませて頂いています。アメリカの価値観の分裂については、アメリカの大手メディアも首をかしげていて、これからもう少し納得いく説明が聞かれることでしょう。このページ右側にリンクを張った "What's the Matter With Kansas: How Conservatives Won the Heart of America" という本に的を射た説明がある、ともっぱらの評判ですが…。私も近いうちに読んでみたいと思っています。

> ht さん
そうですね。次のエントリに書いたように、現在の分裂の責任は両側にあると思います。しかし、日本語のメディアは一方的ですので、私としては反対の立場も提示したいとは思います。

> liyehuku さん
極東ブログのほうのコメントを読みました。アメリカの内陸部の人々の感覚として、自分の生活を外の勢力から守りたい、という防衛意識のようなものは感じますね。それが過剰に感じるときもあれば、もっとも、と思うこともあります。私自身、南部には住んだことがないので日常的な実感としてはないのですが。

> ちゅちゅもえらー さん
そうですね。私もこれは感覚としてあります。

> エイメイさん
テロ戦争の継続、というのはブッシュ支持の大きな支柱のひとつでしょう。ケリー氏もよく頑張りましたが、「少し発言を変えたくらいではだまされないぞ」と思っていた人が多いのは確かです。私としては、テロ戦争に絞ったとしても、ブッシュ氏の頑固さと意志の強さ、ケリー氏の曖昧さと実務遂行能力を天秤に掛けて、ややケリー氏の方がいいかな、と思ったわけですが、自分の中ではかなり接戦でした。

Posted by: むなぐるま | Nov 5, 2004 6:25:04 PM

はじめまして。最近ブログを始めた者です。私も米国在住です。宗教右派に関する記述など、ご指摘に同意するところが多く、大変励まされました。ちょっと今更、というところもありますが、TBを貼らせていただきましたので、よろしければご参照頂けるとありがたいです。

Posted by: Junya | Dec 10, 2004 8:04:27 PM

> Junyaさん
トラックバック先の記事読ませていただきました。
ご自分の目で見、耳で聞いたレポートがいいですね。
アメリカ発で、いろんな見方のブログがもっと増えればと思います。息の長いご活躍を…。

Posted by: むなぐるま | Dec 13, 2004 5:44:39 PM

(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

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