「男性は自分の上司よりも秘書と結婚したい」という研究
Glass Ceilings at Altar as Well as Boardroom (NYT)
最近のR30さんのエントリについて、日本の働く女性も大変だなと思っていたところ、Althouseでちょうどこんな記事がリンクされていた。この記事では、ミシガン大学で発表された心理学の研究結果について紹介している。記事のタイトルの "Glass Ceilings" というのは、女性が社会進出するときにぶつかる「見えない壁」のことで、会社の重役室だけじゃなくて結婚式の行われる教会の祭壇でも障害がある、という意味。記事の書き出しでは、研究の結果を次のようにまとめている。
Men would rather marry their secretaries than their bosses, and evolution may be to blame, psychology researchers at the University of Michigan reported last week.
The study, in which college undergraduates were asked to make hypothetical choices, suggests that men in search of long-term relationships prefer to marry women in subordinate jobs rather than women who are supervisors, said Dr. Stephanie Brown, a social psychologist at the University of Michigan's Institute for Social Research and the report's lead author.
男性は「自分のボスよりも秘書と結婚したい」、つまり、「長期的なおつきあいを求めている男性は、自分の上司よりも自分より地位が低い女性を選ぶ傾向にある」というわけだ。この記事に沿って、実験モデルを説明すると次のようになる。
- 大学生の男子120人、女子208人に対して、「職場で知り合った人」というシチュエーションを想像してもらい、質問に答えてもらう。
- 例えば、「あなたはつい最近就職しました。そこのあなたの直接の上司(同僚、部下)はジェニファーさんと言います」という状況で、ジェニファーさんをパーティに誘うか、付き合うか、結婚するか、の可能性を最低1から最高10で採点してもらう。
- その結果、女子の場合は相手の地位はあまり点数に影響がなかった。いっぽう、男子は、パーティに誘う場合には差がつかなかったが、結婚となると、上司よりも部下という好みがはっきりと現れた。
この結果について、研究を行った「社会心理学者」は、このような傾向は、単に男性が虚栄心が強いとか、プライドを傷つけられたくないとかいうだけでなく、人間の進化のプロセスで組み込まれた傾向だという。すなわち、男性に従属する女性は、浮気もしないから、多くの子孫を残しやすく、子孫を残すという観点で優位に立つわけで、男性は、子孫を残す割合の高い女性を本能的に選択するのだと。
というわけで、この研究は女性の社会進出を進めるという理想にストレートに冷や水を浴びせかけているわけだが、心理学の方法論には疎い私でさえ、こんなアンケート結果から「進化論が…」という結論を導き出すのは少々飛躍があるのでは、と思わざるを得ない。このような結果が出るのは、現在のアメリカの大学生の結婚観というか、社会観というかを反映しているかもしれないが、そのような結婚観を持つようになった理由には、経済的・政治的・社会的な要因がからみあっているはずで、それをすっ飛ばして生物学的な説明をしてしまうのはおかしいだろう。しかし、アメリカの若い男の大学生の本音と考えると面白い。日本で同じようなアンケート調査をして同じような結果が出たとしても、「日本はアメリカと違ってまだまだ女性の社会進出への理解が足りませんね」というような説明が出てくるのだろうが、アメリカでこういう結果が出たのだから、アメリカでもまだまだ「差別」が続いていると考えるのか、それとも日本もアメリカも(社会の表に出る理想的な議論はともかく、本音としては)大して変わらないと考えるべきなのか。
で、この記事を紹介していたブログ、Althouseでは、これと対照して、ノーベル文学賞受賞の作家、Elfriede Jelinek のインタビューを紹介している。
I describe the relationship between man and woman as a Hegelian relationship between master and slave. As long as men are able to increase their sexual value through work, fame or wealth, while women are only powerful through their body, beauty and youth, nothing will change.
-- How can you cling to such dated stereotypes when you yourself are acclaimed internationally for your intellect?
A woman who becomes famous through her work reduces her erotic value. A woman is permitted to chat or babble, but speaking in public with authority is still the greatest transgression.
-- You're suggesting that your achievements, like winning the Nobel Prize in Literature, detract from your overall appeal.
Certainly! A woman's artistic output makes her monstrous to men if she does not know to make herself small at the same time and present herself as a commodity. At best people are afraid of her.
男性と女性の関係が主人=奴隷の関係であって、男性の性的価値が仕事や金・名誉によって上昇するのに対し、女性の性的価値は肉体・美・若さなどによって上昇するという根本的な枠組みが変わらない限り、なにも変わらないと言っている。この作家自身の体験もこめての意見なのだろうが、現象的には、男性は自分より地位が低い女性を好み、自分より成功している女性は脅威に感じる、という点では上の研究結果と同じ現実を示していると思う。
R30さんの記事に戻ると、結婚もしたいし社会で活躍もしたいという日本の若い(30代の?)女性と、そういう女性に「理解」を示しつつも本音では家庭に入ってもらいたいという若い(同世代の?)男性のあいだで、女性の方がダブル・バインドに陥っている、という観察は興味深いが、それが、日本では女性の社会進出への理解がまだまだ低いから、という説明も不十分な気がする。アメリカでもヨーロッパでもそういう現実はあるからだ。むしろ、男女関係のなかで権力関係がむきだしの形で表面化する、というあたりで、日本と欧米の男女関係が似てきているという証拠のような気がするのだが。ただ、日本ではこのあたりの関係が50年前にはどうなっていたかということを思い出せないということが、ある種の喪失感につながっているとは思うのですがいかがでしょうか。(いや、私にはこんなエントリを書くほどの経験も知識もないので皆さんからのコメントをお待ちしています。)まあ、Althouseも言っているように、こういうドライな見方で結婚を見るというのも寂しいわけですが。
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Listed below are links to weblogs that reference 「男性は自分の上司よりも秘書と結婚したい」という研究:
» 男の嫉妬と女の嫉妬 from 何もない日のブログ
むなぐるまさんという方のブログに、
アメリカも低方婚がお好きというエントリーが載っていた。
(TBさせてくださひ)
あら、アメリカンも。。
自由の国... [Read More]
Tracked on Dec 15, 2004 4:47:57 AM
» リベラルぶりっ子<萌えヲタの時代 from R30::マーケティング社会時評
忘年会に行って来た。 相手は、会社の同僚のR嬢、S嬢。年齢は少しずつ違うが、3人で大きな仕事をいくつかやった「同志」。年末で辞める僕への送別会も兼ねた会だっ [Read More]
Tracked on Dec 16, 2004 8:56:54 PM
Comments
TBありがとうございます。
戦後日本の女性の社会進出については、前半(~70年頃)は政治的(欧米の人権状況に追いつけ追い越せ)要請、それ以降は企業の低コスト労働力確保の要請が原動力になっていたんじゃないかと、個人的には思います(何の根拠もなく思うだけですが)。その変化に保守層の価値観がついてきていないだけですね、おそらく。
前半の変化の中でスローガンに掲げられてきたイデオロギーが残存していて、それが女性の社会参加は日本が遅れているという言説につながっているのだと思いますが、実際のところ米国でも状況は似たようなものですよね。ただ、一部の超絶的な才能を持った女性は(というかそういう人間は)男女関係なく引き立てるというのがかの国の文化ですので、単にそれでフィオリーナ氏などが目立っているだけだろうと。
Posted by: shintakkin | Dec 14, 2004 8:14:32 PM
> shintakkin さん
そうですね。アメリカの大学生を見てると、この調査結果はけっこう頷けるものがあります。この結果で面白いのは、女性の方はまったく相手の地位に対してニュートラルなことですよね。女性の方はまったく自由競争という考え方でも、男性の方が(無意識にしろ)まだ意識しているというか。
最近、アメリカのメディアの日本報道でもいわゆる「負け犬の遠吠え」論が出てきていて、30代の女性にフォーカスが当たっているわけですが、「アメリカの男性はもう少し女性の仕事を尊重してくれるのでは…」というのはほとんど幻想にすぎないというのは知っておいてもいいでしょうね。
Posted by: むなぐるま | Dec 14, 2004 9:33:54 PM