ネオコン・クリストルのラムズフェルド批判
今日のワシントン・ポストのオピニオン欄に、ネオコン系雑誌 "The Weekly Standard" 主幹のビル・クリストルがラムズフェルド国防長官を名指しで批判している。
The Defense Secretary We Have (Wash Post)
イラク戦争の遂行上の諸問題はともかく、その大義については100%支持してきたクリストルからの批判ということで、その内容というよりはネオコン論客の動向として興味深い。早速、ケーブルTVの政治番組の "Hardball" でも特集を組むようだ。
ラムズフェルド氏は、先週、クウェートを訪問したときに現地の兵隊から「装甲車の装甲が足りない」と直接質問を受けたことで批判の矢面に立った。この場面、テレビで何度も放送されたのだが、質問の後に聴衆の軍人たちから拍手が起こったり、彼の解答が「軍人とは手元にある装備で戦うものだ」と、事実上「文句言わずに黙って仕事しろ」という内容だったりして、現在の現地の兵隊たちの不満表明という意味では、非常に象徴的でわかりやすい映像だった。
で、クリストル氏の論点だが、装備や備品の不足、地上兵力の不足など、この戦争にかかわる失政についてラムズフェルド氏がまったく責任を取らない、という一言にまとめられる。上の問答のラムズフェルド氏の言葉を引きながら、計画遂行について陸軍にまかせっきりで、失敗については責任を取らないという態度が、言葉の端々にまで表れている、という。
また、現在のイラクの混迷の原因は、戦闘が終結した時点で十分な兵力をつぎ込んで治安安定をしなかったからだ、と批判している。このての批判は、イラク戦争開始から懐疑的だった、たとえばハワード・ディーンのような人たちではなく、戦争自体には賛成していたジョー・リーバーマンなどからよく聞かれたものだが、クリストル氏のような立場の人が軍事思考の根本的な差異をこのような形ではっきり提示しているというのは興味深い。(ちなみに、リーバーマン氏は現政権2期目の本土防衛長官や国連大使に名前が挙がっているが、本人は拒否しているらしい。)戦闘が終わったころは、ハイテク兵器を駆使して最小限の兵力でミッションを遂行するラムズフェルド氏のドクトリンが賞賛されていたのだが、今振り返ると、戦後の混乱はその辺りの根本的な軍事思考の違いから出て来ているということだろう。ともあれ、ラムズフェルド氏の味方はホワイトハウスの外にはほとんどいないということを感じさせる。
さて、そのホワイトハウスだが、民間人に与える最高の栄誉である「自由勲章」を、
- 9/11についての情報を断片的に得ていながら阻止できず、イラクの大量破壊兵器疑惑について「スラムダンクですよ(間違いない)」と言ったテネット前CIA長官
- イラク戦後、「兵隊は足りていますよ」と言い続けたフランクス前中央軍司令官
- イラク戦後統治の責任者であるブレマー行政官
の3人に与えると発表。揃いも揃って、現在のイラク情勢に責任のある人々を選んだ。テネット氏はイラク戦争の諜報活動失敗の責任を取らされたと思っていたのだが、結局そうでもないらしい。クビにできないとしても、何も最高の勲章を与えなくても、と思うのだが、現政権は、失政したら責任を取らせるという思考とはまったく別のロジックで動いているらしい。これがあと4年続くと思うと少々うんざりという気もしてくるのだが、上下院も共和党が握っている現在、民主党の動向よりも、共和党内が分裂するかどうかが鍵になってくる。その意味でも今日のクリストル氏の発言が注目を集めているのだろう。
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Tracked on Dec 16, 2004 7:58:50 PM
Comments
一昨日、テレビで
"The Fog of War"
(邦題:「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」)
(ご覧になられましたか?)
を観たばかりなので、今回の件は一過性の騒動で終わってしまうだろうなあと思っていました。
でも、それが映画になっているということは、映画の中でマクナマラが語っていたことは、少なくとも「一般的な認識」ではないということでもあり、ホワイトハウスの中ではさてどうなのだろうと考えていました。
ちなみにマクナマラは映画の中で
「司令官は不必要に人を殺すこともある。(それが戦争だ)」
「人間は間違いを犯す。司令官も人間だから間違いを犯す。間違いを何回か繰り返して学んでいく。確かにその間違いは敵味方に関わらずたくさんの死人を出す。国が転覆するような間違いでなければそれはそれで構わないのだ」
ということを強調して言っていたのでした。
「第2次大戦でもしアメリカが負けていたら、大統領も私も戦争犯罪者になっていただろう、ということは(2人とも)十分認識していた」
というくだりで、以前、アメリカの田舎町のレストランで見た広告看板(?)の
"When Wars Are Won,
Problems Are Solved,
Lies Are Swapped."
を見てぎょっとしたのを思い出しました。
その時は「この人たちはそれを真理だと思っているんだろうか」と背筋が寒くなったのですが、今になってみれば、真理として捉えているのではなくて、宗教も関係なくて、文明社会のルールとして再確認させようとしていたのかも知れないな、と思いました。
「そうじゃなきゃ俺たちが戦った意味がなくなる。そんなことになったら誰も軍隊になんか入らなくなるぞ。で、誰が国を守るんだ?」
というような。
こちらの認識の方はすでに世間にもかなり浸透しているような気がしますが。
Posted by: 西方の人 | Dec 16, 2004 8:20:08 AM
> 西方の人 さん
"The Fog of War" については、前にも書きましたのでそちらもご覧ください。
../../2004/03/post_2.html
../../2004/04/fog_of_war_.html
マクナマラ氏の発言については、特に東京大空襲などに関してはかなり踏み込んだことを言っているなと思ったのですが、戦争遂行の上での冷徹さにぞっとしたこともあります。アメリカの一般人はともかく、退役軍人など、この辺の認識が徹底した人が社会にかなりいるというのは日本と違いますよね。そういう意味では、現在のホワイトハウスの鉄面皮ぶりにあきれているというのは、私も平和ボケしているからなのかもしれませんが。
Posted by: むなぐるま | Dec 16, 2004 9:05:52 AM
むなぐるま様。先だっては励ましのコメントありがとうございます。ブログ初心者ですので、色々と参考にさせていただいております。
今日は、これからウィークリー・スタンダードの若手記者とご飯を食べることになっています(彼は、最新号で、小泉・ブッシュの関係は「ロン・ヤス」関係を超えたとする記事を書いてます)。クリストルの話も聞こうかと思っていますので、面白いことがあれば記事を書いてTBさせていただこうと思っています。
「Fog of War」は私も見ましたが、期待が大きすぎたためか、あまり目新しいことがなくて少し残念な思いをしました。個人的には、マクナマラがシートベルトを発明したのは自分だ、と誇らしく述べているところがトリビア的意味において印象に残りました。
Posted by: Junya | Dec 16, 2004 11:44:29 AM
一日経って、ラミーの周辺がいよいよ騒がしくなってきましたね。よくまとめてあるのは次のDreznerのエントリ。
http://www.danieldrezner.com/archives/001798.html
それから、マケイン、ヘーゲル上院議員に加えて、元上院院内総務のトレント・ロットまでラミーの辞職を求めているとのこと。
http://www.sunherald.com/mld/sunherald/10427343.htm (via atrios)
ロット氏が現在どれだけ影響力があるのかわかりませんが、ちょっと驚きですね。
Posted by: むなぐるま | Dec 16, 2004 1:07:47 PM
>むなぐるま様
該当記事のご紹介ありがとうございました。
早速読ませていただきました。
むなぐるまさんの場合「平和ボケ」というのではなくて、そういう役割を果たせる立場にあるのではないでしょうか。多くの人からそれを求められもするだろうし。そしてそれにはご職業が深く関係はしているものの、それだけではないのだと思います。
アメリカで生活するようになって、ひどく混乱しています。
それまで戦争に関しては、子供の頃からの信念(「戦争は絶対やっちゃいけないことだ」)だけで済んでいた、頭ではそれじゃ済まないと思っていても感覚として「あってはいけないことだからないことにしよう」で済ませられたことでした。
でもこちらでいろいろな情報に接していると、その信念自体が(具体的に○○戦争で守られたという直接的な関係はないとはいえ)「戦う人たち」によって支えられてきたということを突きつけられているような気がします。
避けられない「罪」を行う担当の人がいて、もし自分が「罪」に関与したくないのなら、その担当の人に何らかの見返りを与えなければならないのではないか?と時々考えたりもします。
でも「平和ボケ」と呼ぶならそれでもいいから、その担当の人もいなくてはならないはず。
自分の立場は何なんだろう?
私にとっては今まであると思っていた地面が急になくなったようなもの。
ナイーブ過ぎるかもしれませんが。
Posted by: 西方の人 | Dec 16, 2004 10:48:32 PM
>西方の人さん
ま、妥協して思ってもないことを言ったとしても、あとあとで帳尻が合わなくなりますからね。自分の意見や感情に正直になることが意外と近道だと思います。もちろん、相手の立場を熟知してのうえで、ですが。私もそういうことはよく考えますが、別に特別な立場にいる人だけでなく、海外でいろいろな人に触れる一人一人が考えたい問題ではありますね。よくまとまりませんが。
Posted by: むなぐるま | Dec 17, 2004 6:17:48 PM