自分の思考の地平を広げるって難しいですね
この前のエントリで、私のお薦めブログをご紹介したところ、「複雑な心境に」なったというトラックバックが。まあ、この前ご紹介したブログの皆さんからはおおむね好意的な反応をいただいていたが、馴れ合いのためのエントリじゃない? と思われても仕方ないかも。まあたまには馴れ合いエントリも、という気持ちもあったわけだが、不快に思われる方がいるのも、わかる。
で、この前のエントリの結論として、「毎日同じブログを巡回されることの多い方は、読むサイトの幅を広げてみては?」と書いたわけだが、その背景には、政治・時事系ブログでよく言われる「反響室効果 (echo chamber effect)」の防止を、という気持ちがあった。
echo chamber effect というのは、政治関係のメディアにおいて、保守系は保守系で、リベラル系はリベラル系で、と、似たような思想のメディア間で限られた情報が高速に伝わり、反響しあうことによって、反対意見に目を触れることなく偏ったニュース・意見・思想が強化されていく、という効果のこと。これはブログに限らず、ケーブルTVやトークラジオなどのメディアも含めての現象。
たとえば、「ケリー大統領候補は意見をコロコロ変える(flip-flopする)」という見方がある。ケリー氏は、今回の選挙戦の最後までこのイメージを払拭できなかったのが敗因の一つといわれるが、この見方、ある程度は正しいといえるものの、ある意味ではおかしいといえる。政治家というのは、その時の現実を見極め、時には自らの信念を曲げてもその時にベストの政策を実行すべきだからだ。事実、ブッシュ氏も4年間の任期中、政策転換を数多くしてきた。そのうちの最大のものは、2000年の大統領討論で「nation-buildingはしない」と言った孤立主義から、「自由を世界に広げる」ための積極的な干渉外交への転換だろう。
このイメージの形成におけるメディアの役割は大きかった。ブッシュ選対は、ある時期から、ケリー氏は「意見をコロコロ変える」というポイントをあらゆるチャンネルを使って強調した。保守系コラムニストや選対・政府関係者がことあるごとにこの意見を口にする。それを、Fox Newsや、保守系トークラジオなどが繰り返し放送し、論評する。そして、CNNなどの中道・あるいは中道左派のメディアが後追い報道をする。こうして、短期間のうちに、多くのメディアが「ケリー氏は意見をコロコロ変える」という報道を垂れ流し、その真偽が吟味される間もなく「事実」として定着してしまう。一度そういうイメージが出来るとそれをひっくり返すのは難しい。ハワード・ディーンも、アイオワ党員集会の直後、例の絶叫演説の映像を繰り返し流されて、選挙戦から脱落した。
さて、ブログの役割なのだが、このような「反響室効果」を止めるというよりは、加速する傾向が大きいのでは、と言われている。多くのブロガーは、自分の意見に合わない記事よりは自分の意見に合う記事を紹介する傾向があるのは当然として、そのような似たような思想を持つブログ同士が互いの記事を紹介しあっているうちに、同じようなネタが繰り返されることになる。そして、もしそのようなブログばかり読んでいると、反対意見や自分の思想に合わないニュースが目に触れることなく、自分の思想に合う意見ばかり読むことになりかねない。
アメリカの政治や社会の情勢を見ていると、社会が、興味や価値観を共有する小さなグループに細分化しているという印象を受ける。一昔前のTVのニュースなら、見たいニュースも見たくないニュースも目に入ってくるが、今はネットやらケーブルTVなどで、視聴者の方に情報の選択の余地があり、自分の見たい情報だけ見ていればすむ。また、アメリカに限って言えば、都市・郊外・過疎地でライフスタイルの差異が広がっており、また都市の内部も人種・収入レベル・価値観などによって細分化が進んでいるといわれる。
自分の信念に合うニュースだけ読んでいればいいというのならばそれでもいいが、それはやはり不健全なことなのではないかとも思う。ただでさえ細分化が進む現代の社会において、そのような多様なグループの橋渡しをする対話の可能性がますます減少していることに私は危機感を持つ。究極的に、われわれは一つの世界に住んでいる運命共同体だから、対話せずに生きていくことはできないからだ。この点については、保守派もリベラル派も同様に努力すべきと思うが、特に米大統領選挙後に思うのは、日頃「対話」や「共生」を主張するリベラルの人々が、かえってイデオロギーに凝り固まって対話を拒否しているという現実があるのではないだろうか。(名指しで言うなら、Academia RSS Projectは、"Academia"と言うなら、自分の「正しい」イデオロギーに合う情報・エントリだけを紹介するのではなく、違う思想・イデオロギーの対話を促進する情報・エントリを紹介するようもっと努力すべきだと強く思う。まあ、そういう目的でやってるわけではないのなら仕方ないが。)それは、自分の意見・主張を捨てることでは決してない。私のブログも、「主張」という意味では、少し読めばわかるように書いている。自分の立場を認めてもらうために、また違う主張の人々と共に生きる権利を認めあうためにこそ、対話の言葉が必要とされているのだ。
さて、こんなメディアの現状の中、それぞれのブロガーも自分とは違う意見に耳を傾ける努力が必要だと思うし、同じ傾向のネタ(例えば政治ネタ)だけでなく、生活のいろんな側面からネタを見つけるべきだとは思う。また、読者の方も、自分とは必ずしも賛成しないブログを意識的に読むようにしたほうがいいと思う。そんなわけで、私のblogrollから、いろんなブログを読んでみてください、と言ってみたわけだ。ま、自分と立場の違う人に向けて書かれているブログ、また、著者と立場の違う人が読んでも理性的な議論として読めるブログ、というのはなかなか少ない。私のブログは取り柄はあまりないのだが、そのようなブログを目指してはいるつもりだ。
しかし、エントリで紹介した4つのブログを振り返って見ると、確かに私が賛成することが多いブログばかり選んでしまったかも。自分とは考えの違うブログを読むというのは、言うは易し、行うは難しということか。やれやれ。でも、blogrollのほうは、右から左まで幅広く選んでいるつもりではある。
とはいえ、このような話も、政治・経済・時事系ブログの中での話。TBを頂いたブログの方には、「Elle Onlineもむなぐるまも同じようにチェックする」というお褒めの言葉(?)をいただいたのだが、そういう意味ではここまでの話も狭い世界の話のように見えると思う。そういう意味では、私の世界がネットからはみ出しているというのは健全な証拠かも、とも思う。まあ、今度は最近よく見るTV番組、Wife Swapについて書こうか。
【追記 12/27】表記をわかりやすくするため多少改めました。
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Comments
ここで、先日とりあげてくださったお礼を言うのもなんですが(笑)
私は日本で書斎的に世界を眺めているだけですので、むなぐるまさんにずいぶん教授いただいております。
町山さんとの論争や、先日の反知性主義という一面的な見方のご指摘には、私自身かえりみなければならない点が多々あります。
町山さんのお書きになるものが大好きなので全肯定してしまいがちになるんですよ(^^)
>究極的に、われわれは一つの世界に住んでいる運命共同体だから、対話せずに生きていくことはできないからだ。この点については、保守派もリベラル派も同様に努力すべきと思うが、特に米大統領選挙後に思うのは、日頃「対話」や「共生」を主張するリベラルの人々が、かえってイデオロギーに凝り固まって対話を拒否しているという現実があると私は思う。(名指しで言うなら、Academic RSS Projectの中の人たちには、"Academic"と言うなら、自分の「正しい」イデオロギーに合う情報・エントリだけを紹介するのではなく、違う思想・イデオロギーの対話を促進する情報・エントリを紹介するようもっと努力すべきだと強く思う。まあ、そういう目的でやってるわけではないのなら仕方ないが。)それは、自分の意見・主張を捨てることでは決してない。
この点には深く同意です。
Academic RSS Project さんには当方の記事も取り上げていただくことが多いのですが、少々偏りがあるのは否めないですね。
むなぐるまさんには今後、日本文学のアメリカでの受容のされ方についてお話をいただけたらと期待しています。
源氏物語なんて読まれていないんでしょうね(ふぅ)。
Posted by: standpoint1989 | Dec 27, 2004 8:29:54 PM
ほんの数週間前に開設したばかりで、しかもココログでもはてなダイアリーでもない、非・主流派の(笑)拙ブログに反応するエントリをいただき、望外の喜びを感じております(いえ、本当に)。
あのような、すれっからしな駄文をだらだらと述べておりますが、自分の反応はもしかしたら
『ブログの役割なのだが、このような「反響室効果」を止めるというよりは、加速される傾向が大きい』ので、『反対意見や自分の思想に合わないニュースが目に触れることなく、自分の思想に合う意見ばかり読むことになりかねない』ことに対して、過剰に意識しすぎているのかもしれません。
というのも、それは、私がこちらのエントリーを読むと、溜飲が下がっていい気分になることが多いのに不安を感じているからなのです(笑)。
なので、ほとんど修行みたいに、いやでも、不愉快でも、自分の考えと違う意見(ブログ)を読むように心がけているわけです。で、頭がクラクラしてきたら、また口直しにこちらを読む、という繰り返しです。
はっきり言って、そこまでやる必要があるのか?と思うこともしばしばですが、やはり、それは仰るように不健全かな、と。そして、むなぐるまさんのように、たまにはPCの電源を落として、違う空気を吸うほうが心身ともに健やかでいられるのでは、と思った次第です。
あ、blogrollが、右から左まで幅広く選んでいることは、ちゃんと認識しておりますので、ご心配なく(町山さんのダイアリーもあるし・笑)。
そして何より、「Elle Onlineもむなぐるまも同じようにチェックする」という表現を、「誉め言葉」として受け止めてくださって嬉しく思います。自分の気持ちが正しく通じたような、またもいい気分になってしまいました。困った困った(^^;
>思考の地平を広げるって難しいですね
本当に難しいです。日々修行。
自分がこの世を去るまで、どこまで広げられるかを考えると暗澹たる気持ちにもなりますが。
社交辞令でもなんでもなく、私は、20万PVの中の一部分を占めているひとりと自負していますので、リアルタイムの充実も祈りつつも、むなぐるまさんのプロフィールにある(の卵)の部分が早く取れて、この手に著書を抱く日が来ることを楽しみにしております。
最後に、「WifeSwap」でオチを締めるwitに、さらに高感度アップでした。
どうぞ、よいお年をお迎えください。
乱文・長文失礼しました。
Posted by: makato | Dec 27, 2004 9:04:10 PM
コメントありがとうございます。いや、このエントリは断じて馴れ合いを意図したものではありません!!(笑)
> standpoint1989さん
先日は勝手に紹介させて頂きました。いつも興味深く読ませて頂いています。御意見にいつも同意する訳ではないのですが、考えさせられることは間違いありません。これからも引き続き御意見を読ませて頂きたいと思います。
Academia RSS Project ですが、拙サイトも特に米大統領選関連でよく紹介されました。私はなるべく公平な立場で様々な事実を紹介しているつもりだったのですが、あのサイトに載ると「ああ、こういう読まれ方をしてしまうのか」と思ったものです。私は、Academiaという言葉にどうしても反応してしまいます。大学=反体制くらいに考えているのなら、時代錯誤もはなはだしいと思います。
日本文学関連のエントリは、これからも地味に続けていこうと思います。源氏物語は根強く読まれていますよ。つい数年前にもRoyall Tylerによる新訳が出ましたしね。この訳は古語の文法・文型に忠実に訳したといわれています。未読ですが。
ところで、私は白状すると『源氏物語』は完読していないのですが、アメリカ人に「読んだ?」と聞かれて困ることがあります。「日本ではオリジナル言語で読まなきゃ読んだことになんないんじゃボケ」と答えることにしていますが。今度時間を作って英訳か口語訳ででも完読しておかなければ。
> makato さん
なるほど。このエントリの内容は、このブログをお読みの方にはすでに了解事項になっていることなのかもしれないと思いました。この「対話の必要」という話も何度か繰り返し書きましたし、来年はもう少し別のアングルを開拓していきたいと思います。これからも宜しくお願いします。
Posted by: むなぐるま | Dec 28, 2004 7:01:38 PM
もし、私がblogを作るとなれば同じ様な
意見というか同意するblogをどうしても
選ぶ羽目になりそうです。
逆に言えばblog巡回の落とし穴でもあり
それを2ちゃんねる巡回で補完しているのが
実情です。突っ込まれる事も多いですが
思考の幅を広げるのは2ちゃんねるは結構
重宝しますね。
Posted by: abusan | Jan 3, 2005 9:00:53 PM
このような立派な記事を書かれている皆さんの中に入っていくのは、大変恐縮な思いです。
よく見受けられる政治・時事の記事を書いておられる、特に若い方(たぶん)の中には、とても良い内容のものがあっても、近寄りがたい雰囲気がして、日ごろそういう話題に接していない人には尚更ではないかと思います。
一般のメディアにのらないような内容を、平易な書き方で発信してくださる方があればなと思います。
Posted by: winter-cosmos | Jan 13, 2005 8:46:52 PM