論壇系ブログの方法分析:「カルト形成型」か「リンク・ハブ型」か
Battle for the Blogosphere (JustOneMinute)
「圏外からのひとこと」で紹介されているのをkagamiさんが教えてくださった。2ちゃんねるのあるスレに抄訳が出ている。このエントリの筆者が私の最近のエントリを読んでいるはずがないので、奇妙なシンクロニシティではある。まあ、日本では朝日・NHK事件、アメリカではCNNのジョーダン氏辞職など、ブログが活躍する目立った事件があって、その理由を考察するコラムが書かれているということなのだろう。
この記事はたしかに面白い。
この記事について、「圏外」さんは「カルト形成型」「リンク・ハブ型」(オリジナルでは "The Hive" (蜂の巣)vs. "The Pack" (オオカミの群れ))の対比に注目しているが、私が興味を持ったのは、リベラル系大物ブログには前者が、保守系大物ブログには後者が多いのはなぜか、という分析の部分。記事の上の方でリンクされている、U.S. NewsのMichael Barone氏(記事)によると、リベラルブロガーがブッシュ大統領への憎悪を煽ったのに対し、保守系ブロガーは「大手メディア」を攻撃し、結果、民主党はさらに左寄りになり、大手メディアの信頼性が失われた。両方ともブッシュ大統領を助ける結果になっているというのは興味深い。
また、保守系コラムニストのJonah Goldberg氏(記事)によると、リベラル系ブロガーの問題は、大手メディアがそもそもリベラル寄りのものが多いので、メディア批判をするためには、Fox Newsのような保守系メディアに集中するか、大手メディアを左から批判するしかない状況になっていると。この説は、もちろん「大手メディア」がリベラル側に偏向しているという前提を受け入れなければならないのだが、「リベラル」系大物ブロガーがNew York Timesよりも更にリベラルで、大きな視野に立つとかなり極端に見えるのに対し、「保守」系大物ブロガーはNew York Timesより保守で、むしろ中道的なスタンスに見えるという現状をよくつかんでいると思う。
この点に関連して、muse-A-museさんは
ラザーゲートとかイーソンゲートってのは保守系ブロガーがリベラルの失態に対して重箱つつき緻密に事実を調べ上げていってひとつの結果を出したっていう面からみると「ウヨ/サヨ戦争におけるウヨの勝利」ってことのメルクマールってことになるんだけど、同時に「ジャーナリスト vs. ブロガー」って側面もある
で、2つのゲート事件に対して 前者の視点では、「ウヨ vs. サヨ」における事実性をめぐった同一条件での争い ⇒ ウヨの正当な勝利(殊勲)、って感じになるんだけど 後者の視点に立つとやっぱバイアスっていうか・・なんか変な力み(あるいは妬み)みたいなのがあるのかなぁ、って感じになる
と指摘していて、そういう意味では、一連のブログ「炎上」やら大物ジャーナリスト辞職などの事件を左右の対立として捉えることじたいある種のバイアスなのかもしれないが、別の言い方をすれば、大手メディア攻撃というゲームは、保守系が得意なゲームであって、結果としても保守系を利する、という認識はリベラル系にもあると思う。(例えば、リベラル系Washington MonthlyでのKevin Drumのこのエントリなど)
JustOneMinuteの記事に戻ると、この記事で保守系のハブサイトとしてあげられているのが、Instapunditなのだが、このサイトは、確かに「ハブ」的な役割を効果的にこなしていると思う。私が「日本のリベラル系ハブサイト」などと書いたのも、日本の左派のほうでこういう感じのサイトがあればいろいろ便利だなあと思ったからという理由もある。(現に、アメリカのリベラル派もInstapunditを通して保守系の情報を入手しているようでもあるし。)
Instapunditの特徴を挙げると、
• 長尺のエントリもあるが、ほとんどのエントリが短く、出所と大まかな論旨やキー・ワードのみ。
• 感想も、"Heh." (「(笑)」) "Indeed." (「その通り」)"Read the whole thing" など、むしろ省略しすぎと思えるほど。(これらの彼の口癖はけっこう真似されたりしていて、Heh. Indeed. というブログが出来たりした。)
• 他のブロガーの紹介が多く、Althouseなど、多くのブロガーがInstapunditを通してブレイクしたりしている。
• コメントとトラックバックがない。そのため、読者はサイトのコメント欄に居残る代わりに、他のサイトへと流れていく。
など。(2ちゃんねるの訳者の言葉を借りれば)訪問者の流れを止めて「ロックコンサート」や「カルト」的状況を創り出すのではなく、訪問者のフローを制御するだけ。しかし、それによって、リンクされた中堅ブログが育っていくという側面がある。この記事(Marginal Utility)によると、Instapunditを中心に、まとまった数の大手ブログが「組織化」されてくるのに対し、リベラル系では、あるブログが「ブレイク」するのは、偶然のファクターの大きい「自己組織化」による場合が多いと指摘している。
振り返って日本の状況を考えるに、ざっくり一般化して言うならば、日本のネット言論が、右派の場合は朝日新聞や「ニュースステーション」「News 23」などの大手メディアへの対抗言論として育ってきたのに対し、左派の場合は既存の団体を補完するメディアとして起こったということはいえるかもしれない。その結果、右派のほうは、ネットを個人をつなぐハブとして使う技術やレトリックを発展してきているし、また、「また朝日新聞か」というようなある種のコンセンサスを形成している。しかし、左派でも組織化した「左翼」ではなく、大学人や在野の左派言論に共鳴する人達などのネットワークというのは、まだ「自己組織化」の初期段階なのではないだろうか。
最近のエントリでずっと「リベラル系のハブがない」と嘆いてばかりいたのだが、実は成城トランスカレッジ!をよく読んでいたりする。いわゆる左派の講演記録やらインタビューやらが多く紹介されていて、情報収集に役に立つ。このサイトのフォーマットは、instapunditによく似ているかもしれない。私としては、ブログが、ものを考えたり、議論したり、違う意見の人達との対話を促進したりするツールになりうるのか? というところに興味があって、特に、違う立場の人と落ち着いて議論したり対話したりすることはできないかなあと思っているので、そういう意味では左派でも右派でもブログ文化がもっと成熟して欲しいと思っている。
最後になるが、前の一連のエントリでは日本の「リベラル系」という表現を使っていたが、やじゅんさんやkagamiさんが指摘しているように、アメリカの保守対リベラルという構図をそのまま日本に当てはめることの問題というのもあるような気がする。私のアメリカ英語の語感では「右翼」・「左翼」というとかなり敵対的で「極端な思想の持ち主」という感じがするが、「保守」「リベラル」という言葉は、左右の対立軸を意識しつつもそれぞれの良いところを尊重した呼び方だと思うので、その語法を日本の事情にあてはめただけ。ラザーゲートや朝日・NHK事件のようにアメリカと日本の状況にパラレルがある可能性はそれとして、日本の思想状況はもちろんアメリカと異なるし、左右の思想的対立軸の歴史的・文化的背景については当然検討を要する。そんなこともあって、このエントリでは「右派」「左派」とした。でも、思想としてのリベラリズムが日本の現在の政治・思想状況でどういう意味を持つか、というのはとても重要な問題だと思う。「極東ブログ」のfinalventさんや「おおやにき」のおおやさんがブログでやっている仕事というのはそのあたりに関わるものだと思うけれど。
【追記 2/19/05】「絵文録ことのは」でJustOneMinuteの記事の全訳が掲載されています。お疲れ様です。
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