むなぐるま

アメリカ在住の研究者(の卵)による日常観察・オピニオン系Blog

February 12, 2005

ハワード・ディーンがDNC委員長に選出

民主党全国委員会(DNC)の委員長に、去年の米大統領選で旋風を巻き起こしたハワード・ディーン元バーモント州知事が選出された。

Democrats Elect Howard Dean as Chairman (ABC News)
他の候補が既に撤退を表明していたため、今日の選出は形式上のことといえる。

DNCとは、党としての選挙戦略・資金集めを担う組織であり、議会・州知事の外にあって党の顔ともなる存在。ディーン氏は、大統領選のときにインターネットを用いた小口・草の根の新しい選挙資金集めの戦略を編み出して勢いのある選挙戦を戦ったのだが、早くからイラク戦争反対を打ち出したり、かなり思ったことをはっきり言う癖がありかならずしも安心できる候補ではないという印象があった。そこで、アイオワ党員集会後の例の絶叫演説がテレビで何度も流れて大統領候補として抹殺された。

これからの民主党の方向性を見る上で、彼がDNC委員長という要職についたことの意義は大きい。
先の大統領選を振り返って、民主党の戦略として、必ずしも中道寄りに歩み寄る必要はない、という声がちらほらと聞かれる。ケリー氏のように、戦略的に幅広い層にアピールしようとして、結局「意見をコロコロ変える」というイメージを払拭できないよりは、思ったことをはっきり言えばいいのではないか、と。ディーン氏選出は、その流れを民主党全体の意思として表明したように思う。

Althouseの最近の記事で、2008年の大統領選にウィスコンシン州選出上院議員のファインゴールド氏を大統領候補に推す、というのがあった。この記事では、ブッシュ大統領、クリントン前大統領、そしてシュワルツェネッガー知事の3人を挙げ、それぞれ政策的な立ち位置も生まれ育ちもだいぶ異なるが、だれも幅広い有権者に訴える力を持っているという。(過去2回の民主党の大統領候補、ゴア氏、ケリー氏には確かにこの資質が欠けていた。)ファインゴールド氏は、上院でただ一人愛国法に反対したりと、かなりリベラルな投票歴を持つのだが、確かに思ったことをはっきり言うし、言ったことは実行する。全国的には、選挙資金規制法のマケイン=ファインゴールド法の起草者としても知られているから、いい意味での知名度はある。アルトハウス教授は中道なのだが、彼ならケリー氏よりはましな大統領候補になるのでは、と言っている。ちなみに、教授は共和党側の候補ではコンディ・ライス国務長官を推しているのだが。ライス国務長官、就任してまだ間もないが、アメリカのブロガーたちの間の人気は上々だ。

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December 07, 2004

Left2Right: そして対話は続く

今日は、新しいブログをご紹介。
Left2Right: How can the Left get through to the Right?

副題は、「左派の人々はどうしたら右派の人々にメッセージを伝えられるか?」という意味だが、もちろん、今回の米大統領選で、アメリカという国が共和党支持のRed-Statesと民主党支持のBlue-Statesに分裂しているとか、リベラル派の学者、知識人、政治家たちが保守系の人々に語る言葉を持ち合わせていない、といった現状を指して「ではこの状態を改善するにはどうしたらいいのか?」という問題意識から大学関係者がはじめたグループ・ブログである。このブログの目的を読んで目を引くのは、「人にメッセージを届けるのには、まず彼らのいうことを聴き、彼らから学ぼうという姿勢をとることである」という言葉である。

寄稿(予定)者のリストをみると、リチャード・ローティやら、アフリカン・アメリカン研究で知られる歴史家のクワミ・アンソニー・アッピアなど大物が名前をつらねている。ローティなどが本当に定期的に寄稿するようなら面白いと思うが、アッピアはすでに一つエントリを書いていて、アメリカの反知性主義には、ある種の自信の欠乏があって、間違いを指摘されればされるほど意固地になってしまう心理がある、と指摘している。彼らの「リベラル派は保守派を軽蔑している」という認識は、じつは彼らが抱えている自身への疑念の裏返しなのだ、と。一方で、「私も昔は福音派だったからね」などと告白しつつ、福音派の人々に内容のある議論をしようと挑発している。他にも、まだきちんと読んではいないが、「分裂する国家アメリカ」というイメージ自体を疑ったり、現在アメリカの政治言論が抱えている問題についてアカデミックな立場から語ったり、なかなか面白そうなエントリが並んでいる。このサイトから本当の意味の対話が始まるか、今後に注目だ。

また、今アメリカの政治系ブログでなにが話題になっているか、ひとめでわかるサイトも紹介しておこう。
The Daou Report
右から左まで、現在ホットな話題がひとめでわかるサイト。

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November 12, 2004

「ブログが広げた投票不正疑惑はすぐに論破された」 (New York Times)

Voter Fraud Theories, Spread by Blogs, Are Quickly Buried (NYT)

この記事、
1)大統領選挙後に流れた、ブッシュ陣営が投票の不正をしたというさまざまな噂について、大学などの専門家たちが、まったく根拠がないと否定している検証報道
2)根拠のない噂を無責任に流すブログやインターネットはいかがなものか、という意見
の二つの要素がある。

まず、1)だが、カリフォルニア工科大とMITの共同プロジェクトである "Voting Technology Project" の分析結果として、投票行動、また投票方法のテクノロジーに関し、「特に変わったパターンは認められない」とし、「インターネットで流通している『事実』は、選択的に選ばれたものである」というコメントを引用している。この記事では、特に、フロリダのいくつかの郡において、民主党員が多い州でブッシュ氏の得票の方が統計的に有意に多くなっているという、あるウェブサイトの指摘を取り上げているが、コーネル大やハーバード大の政治学教授が「これらの郡は伝統的に大統領選は共和党に投票した」として、投票行動として特に珍しくはないと反駁しているという。

また、オハイオ州の電子投票機で、ブッシュ氏に4000票余りが追加されていたという問題について、オハイオ州の選挙管理委員会の委員長であるダムシュローダー氏は、この誤作動の理由はわからないとしながらも、この間違いは訂正されて、最終的な集計は正しいものになっている、と言っている。また、この誤作動は1台だけの問題であり、他の機械では同じような誤作動は見られなかった、という。この事件を追っていたBlackBoxVoting.orgは、日曜日以来更新されていない。

どうやら、ブッシュ陣営が選挙不正をしたという噂は、今のところ噂でしかないといえるようだ。まあ、ケリー支持者がやりきれない思いをこういう噂に賭けた、と考えればわかりやすいかもしれないが。

ところで、この大統領選挙に関して、ブログ界隈に流れた「都市伝説」は他にもある。たとえば、ブッシュ氏に投票した州はIQが低い、というが、日本でもあちこちのブログで紹介されていたが、この数字も、最上位のコネチカット(113)から最下位のミシシッピ(85)まで、IQの差が大きすぎる。この表について報道したEconomist紙は「オリジナルデータを独自に検証できない」として記事を撤回し、またこの表を最初に出したサイトの管理人も、「手元に資料がない」と、ソースを提示できないでいる。一方、別のサイトでは、大学受験生の共通試験であるSATなどをもとに独自に計算したところ、もう少し均衡した数字が出た。この表でも、大雑把にはBlue StatesのほうがRed StatesよりもIQが高いように見えるが、有意な差かどうかは、前の表に比べてずっとわかりにくい。それでも、ケリー支持者のほうがIQが高い、という人は、こんなも見て欲しい。慈善団体への寄付額と一戸当たりの収入を比較した州別ランキングでは、あきらかにブッシュ氏支持の州の方が高得点を上げている。(via: andrewsullivan.com)

さて、重要なのは 2)の点である。この記事を読んで、早速、instapundit.comの読者たちが、「大手メディアがブログに対してネガティブ・キャンペーンを始めた」と言い始めている。レイノルズ教授自身は、同じ記事の「ブログでは情報の流れが速いので、噂が流れるのも速いが、専門家が噂を論破するのも速い」という部分を引いていて、まあそれほどネガティブではないと考えているようだ。もちろん、レイノルズ教授は「うちは引っかからなかったけれどね」と強調するのを忘れないわけだが。

確かに、このような大手メディアのブログに関する記事には、ラザーゲート事件以来傷ついた大手メディアのプライドが透けて見えるし、ブログの問題点を指摘したがっている様子もうかがえる。まあ、ラザーゲートが示したのは、大手メディアの反応は決して速いとは言えないし、ネットの住人が提示した疑惑が正しいことももちろんあるということだったが。ともあれアメリカではブログの存在感が増しているが、まだまだ大手メディアにつけいる隙はあるということだろう。

振り返るに、日本のブログで、ブッシュ支持者のIQネタやら、投票不正疑惑のネタやらを載せた後で、その後の事実検証・訂正・撤回まできちんと追っかけて載せたものがいくつあったのか興味がある。私の見たところでは、はてなのgryphon氏くらいだったが、他にはあるのだろうか。ブログが《草の根ジャーナリズム》だと言う言葉も聞かれるようになってきたが、まず、自分の発信した情報に責任を持つとか、ある程度のエチケットが浸透しない限り、日本のブログが現実の影響力を持つことは難しいといえるだろう。

【トラックバック】
NYタイムズ「不正投票疑惑は論破された」 ( 週刊オブイェクト) 
見事に釣られました……IQ調査の茶番劇 (アナザーブルーテリトリー〜最後の砦)

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November 05, 2004

町山智浩氏にお返事

町山氏からコメントを頂きました。町山氏は、正確には「中西部」に「文盲で狂信的な福音派のクリスチャン」がいる、とは言っていません。これは私の勇み足でしたので訂正します。私が反応したのは、おもに「2004-10-29 ブッシュが勝つかもしれない理由その3」の、次の部分です。

いや、そもそも、戦争がどうなろうと関係ないのだ。
国民の4割が福音派キリスト教徒のブッシュ支持者であり、この支持基盤は強固で揺ぎ無い。
民主党が票を得ることができるのは残りの6割から共和党支持者を引いた、わずかな数なのだ。

共和党はレーガンを当選させる時に福音派を支持基盤に取り込み、
実質的に彼らに共和党を乗っ取られた(マケインは共和党の宗教支配に反対している)
ブッシュは福音派に改宗して彼らの支持を確固たるものにした。

毎週日曜の朝は教会に通う福音派は、投票日には互いに声をかけあって投票に行く。
その投票動員率は日本の創価学会以上だ。
彼らはブッシュがウソでイラクに攻め込んでアメリカ兵を千人も殺させようと、
金持ち減税と戦費で、史上最高の赤字を作ろうと、
とにかくゲイ同士の結婚に反対し、中絶を非合法化することに賛成である限り、
ブッシュに無条件に投票する。
この福音派、国民の4割はどうにも動かせないのだ。

しかも、福音派は福音派の新聞を読み、福音派専用のニュース・チャンネルしか見ないし、福音派専用のラジオしか聴かない。
また、ユタ州のモルモン、ペンシルヴェニアからミズーリにかけて住むアーミッシュもブッシュを支持している。
また、メル・ギブソンが所属する、原理主義的カソリックも、ブッシュを支持している。
彼らは異教徒を許せないからだ。
モルモンはモルモンのニュースしか見ないし、アーミッシュはテレビを持っていない!
それなのに彼らの投票動員力は強力だ。神の教えを守るため、何が何でも投票に行く。
赤字やイラクの死者のことなど彼らには関係ないのだ。

そういう宗教キチガイどもにアメリカ、いや、世界がコントロールされてしまっているのだから
恐ろしいよ。もちろん彼らはイラク人が10万人死のうと気にしない。

『サウスパ−ク』のトレイとマットは「パッション・オブ・ジュー」でキリスト教原理主義の恐ろしさを訴えていたが、『チーム・アメリカ』で反ブッシュ俳優を皆殺しにし、「若者に投票に行くな」と呼びかけていた。このままだと君たちの大嫌いな宗教馬鹿どもの世の中になるけどいいのか?

この部分を読むと、アメリカ「国民の4割」が「日本の創価学会以上」の投票動員率を持つ、「どうにも動かせない」「宗教キチガイども」と読めますが、違いますか? 町山さんはこういう人達が中西部だとは言っていないのでそこは訂正しますが、この辺りの言葉には「キリスト教価値観がブッシュ勝利の大きな要因になる」という客観的な分析以上の敵意を感じます。町山さんが福音派をあたかも「悪魔の手先」であるかのように見ている、といったのは、そういうことです。

ご指摘を頂いた、今回の選挙における福音派クリスチャンの役割についての記事は私も読みました。キリスト教的価値観や、中西部(ハートランド)の、芸能人や知的エリートへの反発が、今回のブッシュ勝利につながったというご意見には大筋で賛成します。私も、たとえば同性婚のようなイッシューを民主党への敵対心のバネにするようなカール・ローブのやり方には反対です。でも、だからといって、上に引用したような大雑把な把握では現実を見誤ると思います。ブッシュ支持者には宗教的に穏健な人も多いし、有権者がブッシュ氏支持に回ったのは宗教だけではありません。また、ドブ板選挙的な選挙戦術の優劣も分析しなければいけないでしょう。

もうひとつ、上のような大雑把な表現により、二つの立場の感情的な反発が増すことになるとは思いませんか? コメントのなかにあったBBCの調査では、「マイケル・ムーアのような奴に誰に投票するか言われたくない」というのもありましたね。たぶんこれからヨーロッパやアメリカ東海岸の新聞を中心に、「福音派のおかげで勝った選挙」というレッテル貼りをする人々が出てくると思います。私はそのような新聞記事には何か別の動機があるのではと疑っています。また、ブッシュ氏に投票した51%の人達は、こういうのを読んで、「ヨーロッパのメディアやアメリカのリベラル・エリートがまたアメリカを曲解している」と思うのではないでしょうか。そういうのは誤解を深めるだけなのではないか、と思うのですが。また、今回の選挙における「福音派」の影響力をメディアが強調すればするほど、「福音派」の力の幻影というのが大きくなっていって、結果として「福音派」を利するということもあるのではないでしょうか。それは町山さんの望むところではないでしょう。

最後に、アメリカ人がイラク戦争のイラク人の死傷者について何とも思っていない、ということは全くその通りであり、私も強い違和感を覚えるところです。もちろん、ケリー氏支持者の大部分も、アメリカ兵の死者は問題にしてもイラク人(特に一般市民)の死傷者については考えていない人が大部分なわけですが。その点は町山さんに賛成します。

【追記 11/05/04】今回の選挙、ゲイの権利、キリスト教の影響などについて、Andrew Sullivanのブログで意義のあるダイアローグが続いています。彼はタカ派だがゲイでカソリック。ゆえに、現在のアメリカを二分するような思想戦争の中で、言葉で自分の居場所を創ろうとしている数少ない批評家・ブロガーです。私は彼の意見にいつも賛成するわけではないけれど、彼は勇気のある発言者だと思う。ぜひご参考に。それから、サイドバーに Over the Rhine の "Ohio" へのリンクを張りました。ぜひ聴いてみてください。

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November 04, 2004

大統領選についての私的総括

私はこの1年半ほどアメリカ中西部に住んでいる。今年の夏に引っ越したのだが、引っ越し前も後もたまたま今回の選挙で激戦になった州だった。だから、今回の選挙で、いつもはニコニコして共存している人々が全く違う価値観を持ち、ちょうど保守とリベラルで半々くらいで真っ二つに分かれている、というのは、理屈でなく日常の感覚でわかる気がする。2000年の選挙の結果が大接戦で終わったとき、アメリカという国はRed States(共和党支持の州)とBlue States(民主党支持の州)でくっきりと分裂している、ということがよく言われた。それ以来、この価値観の分裂に興味をもつようになった。特に、共和党の支持者とはどんな人達なのだろうか、と。

この感覚、じつは大学にいるとよくわからない。大学の場合、教員も院生も圧倒的にリベラルな人が多い。(教員以外の職員や学部生も入れると半々くらいになるのだが。)だから、大学の中にいると、イラク戦争についても「あの戦争に賛成している人ってどんな人だろう?」と、保守派の人々はどんな人か想像もつかないというようなことになりかねない。大学の先生方をはじめ、アメリカのリベラルな論客の話を聴いていると、同じ思想の人々に語る言葉は持っていても、保守派に語る言葉を持っている人は少ない。それから、「保守派の人達は知性が足りないのでは」というようなことも本気で信じている人も多い。有権者の50%(±1%)が共和党に投票する人々、残りが民主党に投票する人々なのに、その二つのグループの間で共通の言葉で対話することがどんどん難しくなっている現実がある。そんなことがわかってくると、日頃はリベラルな人達とつき合うことが多いのだが、対話のための共通の言語をもつためにはどうしたらいいのだろうか、と考えるようになった。

このブログでも米大統領選挙について、いろいろとかなり詳しく書いたのだが、基本的には、日本でも「反ブッシュ」のムードが先行するなかで、なぜブッシュ氏がアメリカ国民の半数の支持を得ているか冷静に考える材料を提供したいというのが大きな動機のひとつだった。で、実際に左や右の新聞記事やブログを読んだりしていくと、ブッシュ陣営(とくに選挙参謀のカール・ローブ)の巧妙な、反則すれすれの選挙戦術もいろいろと見えてきたし、ブッシュ氏が、さまざまな失政をしたのにもかかわらず、誤りを認めず責任も取らないという事実もわかってきた。いっぽう、そういう現実に不満を持つ大手のリベラルメディアが、「ブッシュ氏を支持するのは知能が足りない」という偏見丸出して、あたかも国民を教え、導くのが自らの使命とばかりに傲慢に振る舞うのも見えてきたように思う。また、とにかくブッシュ氏の政策に反対の意見をとりあえず出しとけ、というケリー氏の外交や、伝統的に反日的な民主党の政策の片鱗がケリー氏やエドワーズ氏にも見られたりもした。結局、私個人のスタンスとしては、民主党の外交・安全保障政策が共和党のそれに限りなく近づいていくなか、「説明責任」を明確に打ち出したケリー氏に交代した方がアメリカのためにはいいのかな、と考えるようになった。(日本の国益という意味では、ブッシュ氏のほうがいいことは言うまでもない。)また、アメリカ国民もそのような判断でケリー氏を選出するのではないかという感じを持っていた。

しかし、結果としては、ブッシュ氏勝利。私としては、事実の観測も誤ったことになる。ひとつには、民主党側の新しい有権者の掘り起こし(若者や貧しい層)についてはメディアで大きく報道されていたものの、共和党側の、教会や家族・親戚などのネットワークを使った草の根運動についてはまったく無視されていたことがある。実際、共和党では、フロリダのような州では草の根の有権者の掘り起こしを二年がかりでやっていたという。これについて選挙前に唯一コメントしていたのが、ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョージ・ウィル氏だった。結局、Fox News以外の大手メディアでRed Statesの様子を理解していたのは彼くらいのものだったということだ。私も、共和党支持のメンタリティを理解しようとはしていたが、結局はわかっていなかったのかもしれない。

今回、ケリー氏は前回のゴア氏の得票に500万票上乗せしたという。若者や新しい有権者の掘り起こしはある程度成功した。しかし、ブッシュ氏は、上に書いたようなネットワークの力で900万票上乗せした。この900万票ぶんが、普段メディアにはあらわれないアメリカのコアな力の部分だった、というのが今回の選挙の結果のいちばんの教訓だと思う。

それから、今回の選挙の結果について「福音派」「宗教右翼」の支持を受けた共和党が躍進した、という説明がなされている。しかし、私は、この説明は必ずしも現実を反映していないと思う。CNNのこの出口調査をみれば、アメリカの多様な現実のなかで、ちょうどブッシュ氏が51%の支持を得た、という実像が浮き彫りになっていると思う。たとえば、学歴についても、ケリー氏が優位なのは高校を卒業していない層と大学院以上の層であり、むしろ大卒ではブッシュ氏がリードしているという事実はどうなのだろうか。一方、年齢別では60歳以上でブッシュ氏が4年前に比べてリードを広げているのが興味深い。民主党で共和党の応援演説をしたゼル・ミラー氏のように、今の民主党にはついていけない、と考えるお年寄りの方が多かったのかもしれない。シニア・シチズンがエミネムのビデオをインターネットで見るとは考えにくいが、ビル・オライリーが「ビンラディンとエミネムがケリー氏を応援していますよ」と言ったら、民主党には投票しにくいとは想像がつく。また、意外に大きかったのは、レンキスト最高裁判事の急病ではなかっただろうか。ケリー氏が大統領になって保守派のレンキスト氏の代わりにリベラルな判事を選んだら、今後30年、40年単位で最高裁のバランスが変わってしまう、という危機感を感じた保守派の人々がブッシュ氏支持に回った、というのが結構大きかったのかもしれない。いずれにせよ、ブッシュ氏に9割方投票するような「宗教右翼」層があって、その人々がブッシュ氏を支持したために選挙に勝った、というのは一面的に過ぎると思う。

つらつらと書いてきたが、一番伝えたかったのは、アメリカ政治について「ブッシュ氏を支持したのは、中西部に住む文盲で狂信的な福音派のクリスチャン」というようなステレオタイプ的な説明をすることは、事実と離れているばかりか、様々な意見を持つ人々の間に言葉を切り開く作業の妨げにしかならない、ということである。たとえば、選挙日の数日前から、町山智浩氏がその手の言説を広めているのを読んで、はて、どうしたものかと思った。アメリカ人の一部の人々について理解できず、自分の言葉が通じないからといって、まるで悪魔の手先のように書いても誤解を深めるだけなのに、と思っていた。しかし、この選挙の後で、そういう見方はどうなの、と疑問を投げかける意見を日本語のブログ界隈でもいくつか見かけて、少し安心している。いずれにせよ、選挙は終わったが、アメリカ国内の価値観をめぐる対話は間違いなくこれからも続いていくことだろう。

【追記 11/05/04】町山氏からコメントを頂き、もう一度自分の文章を検討した結果、「中西部に住む」という部分を削除しました。その経過についてはこのエントリを参照して下さい。また、町山さんのコメントですが、建設的な議論になるきっかけになればと思いますので、そのまま残させていただきます。ご了承下さい。

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November 03, 2004

ブッシュ氏の勝利が確定

ブッシュ大統領が再選、ケリー氏敗北認める (読売)
みなさん既にご存じとは思いますが、「エドワーズ氏もやる気満々」という記事が一番上ではやはり困るので、一応アップ。今、ケリー氏の今日の演説を見てます。(ビデオ)後ほどもう少しまとまったコメントを書きたいと思います。ひとこと、私にとってもこの結果は意外でした。

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オハイオ州

[2:42 ET]
オハイオ州の開票結果 (CNN)
一部メディアではオハイオ州はブッシュ氏が確実となっているという報道だが、現在、ブッシュ氏のリード(12万票)と、暫定票 (provisional ballot)(17万票と予想) がだいたい同数であり、暫定票のゆくえによって民主党勝利の可能性が少しでもある場合は、民主党は負けを認めないといっている。もちろん、暫定票のほとんどがケリー氏に行かなければ逆転はない状況で、ケリー氏は数字的には非常に苦しいが、先程エドワーズ氏が、「すべての票が数えられるまで、もう一晩待ってみよう」と、やる気満々の発言をした通り、正式に結果が出るまではしばらくかかりそう。今回のオハイオ州は、4年前のフロリダのような状況になるのかどうか。

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November 02, 2004

投票中

[0:30 ET] オハイオ州のノックス郡では、投票終了予定時刻から4時間以上経った今でもまだ投票が続いているらしい。この郡の、近くに大学がある投票所では、まだ200人くらいが行列に並んでおり、全員が投票終了するには午前3時までかかるとのこと。オハイオ州では身分証明などのためにもっぱら共和党が監視員を送っており、時間が余計にかかっているのかもしれない。とにかく、投票終了時刻に行列に並んでいる人は全員投票できるというルールのため、この全員が終わるまでは投票が続く。また、私の見ているNBCは、投票が続いている間はオハイオ州の当確を出さない方針にしているそうで、これが結果発表が長引く原因になっている。フロリダ州はブッシュ氏が取ったため、ケリー氏はオハイオ州を取る必要がある。

今、バラック・オバマがインタビューを受けている。民主党は厳しい結果が続く中、彼の当選は明るいニュースだ。彼はやっぱりいいなあ。

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開票中

現在(23:20 ET)のところ、ブッシュ氏204人にケリー氏188人。今のところ、目立つ結果としてはケリー氏がペンシルベニア州を取ったことくらいか。オハイオは、新規登録した有権者が殺到して多くの投票上でキャパを超えたことを考慮し、終了時刻を過ぎても投票が続いた。そのため、オハイオの結果が出るのはしばらく先になりそう。また、オハイオ州は古いタイプの投票用紙を使っているため、4年前のフロリダのように投票用紙を電球にかざして再集計…ともなりかねない。やれやれ。

もう一つの大票田フロリダだが、ブッシュ氏が支持を伸ばしている模様で、ブッシュ氏が取りそうな勢いだという。しかし、ここも、大量の在外票があり、開票に手間取っている。在外票の集計は木曜までかかるかも、と言っている。また、コンピュータ投票機が原因不明のエラーを起こしている郡もあるという。4年前の繰り返し。それから、フロリダの場合、4年前の教訓から接戦の郡の場合自動的に再集計になるため、結果が確定するまでは時間がかかりそうだ。とにかく、オハイオとフロリダの結果が確定しなければ大統領選の帰結も決まらないから、今晩は決まらないかも知れない。

印象としては、ケリー氏の伸びが意外と鈍い。NBCの出口調査によると、若い世代(18-29歳)の投票率は4年前とほぼ変わらなかったという。昨日のエントリで言及した調査では、未決層がケリー氏に傾けばケリー氏が激戦州を全勝ということもありうるという観測だったが、それほどの勢いはなさそう。もちろんまだその可能性はあるが。

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いよいよ選挙当日

今日図書館へ歩いていく途中で、"Kerry / Edwards" のプラカードを持った5人の大学生らしいグループを見かけた。ちょうどそこが投票場の前だったのだろう。また、「投票場への足が必要な人は声を掛けて」と窓に大きく書いたミニバンが走っていたり。アメリカの選挙の日 "Election Day" に居合わせたのは今日が初めてではないが、今までにない熱気だと思う。
 印象としては、選挙直前・当日の「現場」では、とくにケリー氏側のほうに熱気を感じる。昨日もたまたまリベラル系トークラジオのAir Americaを聴いていると、著名な言語学者のジョージ・レイコフ氏が電話出演。なんと、ネバダ州で俳優のショーン・ペン氏と組んで戸別訪問をしているという。これには私も耳を疑った。ショーン・ペンが玄関に立っていたら誰でもびっくりするだろうなあ。この教授にしても、発言だけでなく、自分の足で選挙活動をしているというのは、すごい。政治活動の原点と言うべきか。まあ、そういう意味では、数週間前、フロリダで保守系コラムニストのペギー・ヌーナン氏が似たようなことをしている映像を見たから、どちらもそのような動きはあるのだろう。あとは、特に投票場に共和党が弁護士を送り込んでいるオハイオ州などで訴訟や再集計にならないかどうかが注目。
 ネットの方は、リンクしていた Electoral-vote.com はじめ、ZogbyやらSlate.comもつながりにくい。多分アクセス過多なのだろう。今日は仕事を片づけながらゆっくりテレビで状況を追うことにしよう。

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November 01, 2004

世論調査のメタ分析:ケリー氏圧勝へ?

大統領選直前になってこちらで話題になっているのが、プリンストン大学の分子生物学教授が運営している世論調査のメタ分析サイト。このサイト、現在出ている各州世論調査をすべて計算に入れた上で、選挙人数の期待値を分析している。このサイトの管理人の教授によると、まだ誰に投票するか決めていない人や、初めて投票する人などの予想を計算に入れた上での最終結果の予想は、ケリー氏323人、ブッシュ氏215人となり、ケリー氏が圧勝するという。もちろん、この結果は不確定な要素についての主観的な要素が入っているのでそのまま客観的な結果予想とは言えないが、その分析を読んでみると現状がかなり見えてくる。とにかくこのサイトは一読をおすすめする。

さて、この教授の分析方法、結果を簡単にまとめてみる。まず、分析方法だが、各州ごとに世論調査をもとにしてケリー氏、ブッシュ氏勝利の確率を出す。この時点でほぼ100%どちらかが取ることが間違いない州は計算から除外する。それから、その確率に基づき、選挙人の数の期待値(ある州の勝利確率xその州の選挙人数の合計)を計算する。そのときの確率の計算なのだが、最初に現在ある世論調査(選挙に行く予定にしている有権者)をもとに、「既に意見を決めている人々(1)」について計算する。そのうえで、「まだ意見を決めていない人(2)」を計算に入れて補正し、さらに「初めて投票する人、世論調査にかからない人(3)」のぶんを補正する。

(2)、(3)の人々がどのように投票するか、また(3)の規模がどれくらいかは数字に表れないので、この部分にはどうしても主観が入ってくるが、過去の結果から大まかな予想を立てることはできる。(2)だが、この時点でまだ誰に入れるか決めていない人々は、過去の統計をみると現職よりも新人候補に入れる割合が高いという。この教授は、(2)の層は3:1の割合でケリー氏に投票するという予想から、ケリー氏の数字を1.5%補正している。(これは全く常識的な予想だと私は思う。)そして、(3)だが、この教授はこのファクターによりケリー氏が2.5%有利になると予想している。携帯電話しか持っていない若い層は圧倒的にケリー氏支持だし、また今回の選挙で初めて投票する人は現状に不満を持っているから、ケリー氏に入れるだろうという予想だ。その結果、現在の世論調査の結果に、合計4%ケリー氏に上乗せして計算している。繰り返すが、(2)(3)については正確なデータはないし、当日の天候などにも左右される。

さて、このような手順で出した最終的な選挙人数の予想は、
(1)ケリー氏252、ブッシュ氏286 (ブッシュ氏勝利確率80%)
  ↓ケリー氏に1.5%補正
(2)ケリー氏280、ブッシュ氏258 (ケリー氏勝利確率71%)
  ↓ケリー氏に2.5%補正
(3)ケリー氏323、ブッシュ氏215 (ケリー氏勝利確率約100%)
となる。

この結果をどう読むかは一人一人の判断なのだが、まだ決めていない人々、世論調査に含まれない人々が最終的にケリー氏に決める確率が高いというのはごく常識的な判断とすると、ケリー氏が圧倒的に有利とはいえるだろう。逆に、もしこれで接戦となれば、ブッシュ陣営の現場部隊が前日・当日に相当頑張ったといえるだろう。

また、このサイトの分析で有益なのは、まだ接戦の州のうち、民主党有利の州から共和党有利の州を順番に並べたリストである。このサイトによると、現時点で接戦になっているのは6州であり、民主党有利から共和党有利に並べてみると、
(民主党有利)ミネソタ・ハワイ・アイオワ・オハイオ・ウィスコンシン・フロリダ(共和党有利)
となる。(この分析では、ペンシルベニアはケリー氏で堅いと予想。)残りの、大勢の決した州の選挙人を現状で割り振ると、ブッシュ氏が236、ケリー氏224となる(はず)。ブッシュ氏としては、フロリダを勝っただけでは足りず、ウィスコンシンを取る必要がある。投票率がどうなってもこの順序はそう変わらないはずなので、明日の開票速報で、ウィスコンシンがどちらに傾くかが、この選挙の勝敗を決める一つの目安になるとは言えるだろう。

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大統領選の開票結果を速報するサイト

大統領選挙がいよいよ明日に迫りました。このページでも再三紹介しているElectoral-vote.comでは、開票結果をリアルタイム速報するということですので、興味がある方はこちらからどうぞ。もしサーバが落ちていたら、www.electoral-vote3.com, www.electoral-vote4.com, www.electoral-vote5.com などのミラーサイトがあるとのことです。

私はといえば、自宅でネットワークTVの速報を見るか、キャンパスのどこかで学生に混じってTVを見るかどちらかだと思います。拙ブログでは中継はしないつもりですのでご了承ください…。

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October 31, 2004

大統領選をめぐるいくつかの先入観と現実

いよいよ大統領選の投票が火曜日に迫ったのだが、結果はいまだに読みにくい。全国世論調査は接戦だし、各州の結果予想もまだまだ流動性が高い。フロリダ、オハイオ、アイオワ、ウィスコンシンなどいままで接戦といわれてきた州に加え、ハワイ、ニュージャージー、ミシガンなどケリー氏支持で堅いと思われていた州も意外に接戦だという世論調査結果が出たりして、予想がまったく立たない状況。
 さて、世論調査などを細かく見てみると、意外と先入観を覆すような結果が出てきている。その一つ一つが、アメリカの「いま」を表していて面白いので、今日はその「先入観」のいくつかを検証してみる。

「福音派」クリスチャンのブッシュ氏支持
LA Timesの記事によると、この選挙において、いわゆる「福音派」クリスチャン (Evangelicals, "born-again Christians")の間でのブッシュ氏支持は、2000年のときの74%から、70%に下がってきているという。選挙戦を通してブッシュ陣営は福音派の支持取り込みに躍起で、8割から9割の支持を見込んでいたようだが、現在のところ7割にとどまっている。過去4年のブッシュ政権の政策をみると、同性婚を禁止する憲法改正案や、ES細胞の科学利用の制限など、この層をピンポイントターゲットにした政策を多く出しており、この層がまだまだ固まっていないというのは意外な感もある。
 この記事によると、南部、バイブルベルトの福音派はブッシュ氏支持で固まっているが、中西部の激戦州では福音派でも政治的に穏健な人々が多いとされる。だから、フロリダやウィスコンシンで彼らが大挙して投票しても、それがどれだけブッシュ氏有利に働くかは不透明という。また、この記事では、クリスチャンのジレンマとして、中絶や同性婚などでは共和党のプラットフォームに賛成しても、人種政策、環境問題、健康保険、そしてイラク戦争などでは反対という人が多いとも指摘している。たしかに、ブッシュ大統領の行く教会の牧師を含め、アメリカの教会牧師の多くはイラク戦争に反対だった。アメリカの外から見るとブッシュ氏の強さは意外に思えるかもしれないが、「福音派」だけでそれを説明するのは少々無理があるようだ。

黒人のケリー氏支持
一方、黒人層はここ数回の大統領選挙では圧倒的に民主党支持に回ってきたのだが、今回は黒人層のブッシュ氏支持が17〜18%と、前回選挙の倍になっているという。一方、ケリー氏支持は49%と、四年前のゴア氏支持の69%から激減している。(参考)今年の選挙戦を通して、アル・シャープトン師ら民主党の黒人リーダー層から、「民主党は黒人票を当たり前に思うな」という警告があったが、とくに教会に通うような黒人の間ではブッシュ氏支持が高まっているという。このコラムによると特に問題になっているのは同性婚問題という。特に、ケリー氏が大統領選討論でチェイニー副大統領の娘の話題を出したことに対して、「個人の尊厳を傷つけた」という印象が強まっているとこのコラムでは説明している。
 クリントン元大統領は、自ら誇らしげに「アメリカ初の黒人大統領」と呼ぶほど黒人層から共感を持って支持されていたが、ケリー氏にはそういう魅力はない。そういえば、ディーン氏も人種差別の象徴とされる「(南北戦争の)南部連合の旗をトラックに貼っているような人に支持されたい」という発言が南部で反感を買ったこともあったように、アメリカ北東部出身の候補はこのへんの感覚が生活実感としてないのだろう。

ビンラディンビデオは共和党に有利?
金曜日にビンラディンのビデオが放送され、これは危機感を煽るからブッシュ氏有利に働くといわれたが、ビデオ放送後の世論調査を見てみると、それほどの影響はないらしい。むしろ、ここ数日のトレンドではケリー氏有利に傾きつつあるようだ。私のブログからもリンクを張っているElectoral-vote.comでも、きょう(日曜)の集計ではケリー氏リードとなった。この点についてはTPMのこの記事も詳しい。

投票率が高ければケリー氏に有利?
今回の選挙は、新たに有権者登録をした人数が今まで以上に多く、投票率がかなり上がることが予想される。これらの、4年前までは投票しなかった層はどういう投票行動を取るか、だが、現状に不満を持った層がその不満の意思表示のためケリー氏に投票するというのがこれまでの通説だと思う。しかし、今日テレビ番組を見ていると、共和党も、ボランティアや、友人・知人・家族への働きかけを中心に、投票を呼びかける活動を大規模に展開しており、投票率が増えたぶんがどちらに行くかはまだわからない、という。これが、今回の選挙の動向を読む上での最大の不確定要素だろう。

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October 28, 2004

レッドソックスのシリング投手が大統領の応援演説

【追記2 11/1/04】 シリング投手ですが、大統領選前日の1日に大統領の応援演説に登場したようです。足のけがでかかとをがっちり固定して歩くのもままならないような状況だったようですが。

【追記 10/29/04】シリング投手は、足の負傷が思わしくないため応援演説をキャンセルしたとのこと。

(AP)
ア・リーグ優勝決定戦で、靴下を血まみれにしながら熱投し、レッドソックスのワールドシリーズ制覇に貢献したシリング投手。明日、早速ブッシュ大統領の応援演説でニューハンプシャーで大統領のキャンペーンに参加、応援演説をするという。その場所が、レッドソックスのファンが多く、接戦州となっているニューハンプシャーというのも、絶妙。また、今日の朝のテレビ出演では「来週はブッシュに投票しよう」と呼びかけた。レッドソックスの選手はボストンだからケリー氏支持というわけではないわけで…。

ケリー氏は、スポーツに関しては実に弱い。もちろん地元レッドソックスのファン(自称)なのだが、マニー・ラミレスとデーヴィッド・オルティズを混同して「マニー・オルティズは素晴らしい」と言ったり、接戦のウィスコンシン州で絶大な人気のNFLのグリーンベイ・パッカーズの本拠地を「ランバート・フィールド」(正しくはランボー・フィールド)と言い間違えたりして、スポーツファンに笑われたりしている。しかし、アメリカ国民にとってスポーツは大事な生活の一部だから、知らなきゃ言わなければいいというわけにもいかないのだ。まあ、ブッシュ大統領としてはとにかく使える材料はすべて使う、ということか。

いっぽう、今日一番のニュースは、イラクで終戦直後に大量の爆薬が盗まれたというスキャンダル。例によってTPMが詳しく追っかけているので、興味のある方はそちらを。

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October 27, 2004

米大統領選挙の引き分け・延長戦ルール?

ケリー対ブッシュの大統領選も大詰め。どの世論調査を見ても大接戦になっており、新聞などでは、4年前の悪夢が再現か…という懸念が浮上している。周知の通り、4年前の選挙はフロリダ州の投票結果がなかなか確定せず、再集計、法廷闘争の末ブッシュ氏に選挙人が与えられることとなった。ところで、この2000年・フロリダ州の選挙、民主党支持者には、ゴア氏が勝ったのだと信じて疑わない人が今でも多いのだが、私は、「引き分け」だった、という説を支持している。

これはある数学者が言っていたのだが、つまり、投票結果は誤差の範囲内であり、あとはどの票をどう数えるかという「数え方」によって選挙の結果が左右されるのだから、どちらが「勝った」ともいえない、というのだ。「一人一票の投票用紙をきちんと数えれば…」と考えがちだが、あのときの大騒ぎで、一票の「意志」というものにも相当な曖昧性があることがはっきりしたと思う。また、どんなに選挙システムの精度を上げても、差が小さければ、ルール次第で勝者が変わってくることは十分にあり得るわけで、その「誤差の範囲」をなくすことはできない。そして結果が誤差の範囲内だったらやっぱり「引き分け」なのである。

もちろん、2000年のフロリダの接戦の結果、投票用紙の不備、在外投票制度、また数千人規模と言われるマイノリティ中心の投票妨害などのアメリカの選挙制度の様々な問題に光が当たったのは確かである。(特に最後の問題は重い問題で、今回も問題が繰り返されるのではと特に民主党が注意を呼びかけている。)ともあれ、結果として最高裁の裁定で結果が確定したため、裁判所が結果を決めたという印象が残って後味の悪いことになった。jibjab.comのFlash動画でも、最高裁判事達が「あなたたちが投票しないとわれわれが大統領を決めちゃうぞ」と言っているのもそういう印象を裏付けている。

さて、今回こそはフロリダの教訓を生かして、問題点をすべて解消しているのでは…と思うのだが、じつはいくつか法廷闘争にもちこまれそうな要素が生まれてきている、という。大統領選挙と法律についての専門家がElection Law Blogを運営しているのだが、このブログを覗いてみるだけで、あまりの潜在的な法的問題点の多さに驚く。同じ著者が、Slate.comのほうで、選挙の結果を左右する法的問題点を5つにまとめているのがわかりやすいので、これに沿ってまとめてみる。

(1) 投票所の設備の故障・不備による訴訟。4年前は「ちょうつがい式投票用紙」の不備で相当もめたが、今回は、前回の選挙以来投票所の備品を取り替えたところが多く、初めての実戦が大統領選挙というところが多いらしく、故障や不正などで前のような混乱が起こる可能性がある。

(2) 有権者の資格審査に関する訴訟。最近の法改正により、投票所で投票資格がないと判断された人でも、仮投票用紙を使って投票し、後日資格を確認した上で正式な票と認められる、という手続きができた。しかし、この手続きのため、有効か無効かわからない票が数千票単位で生まれる可能性があり、接戦になった州ではこれらの票の有効・無効をめぐって訴訟になる可能性がある。また、既に、有権者の投票資格を不当に奪ったのではないかという疑惑がネバダ、ペンシルベニアなどで起こっており、これらが問題となることもありうる。

(3) コロラド州 "Amendment 36" をめぐる訴訟。コロラド州では、勝者が選挙人総取りする現行法を改めて、投票数に応じて比例配分すべきという改正案が住民投票にかかっており、もしこれが通ればこの選挙から適用となる。つまり、9人の選挙人のうち、最大4人が敗者に配分されることもあるのだ。この改正案、この選挙から適用となる「事後法」であること、また、選挙人に関する法律を決める権限は議会にあるという憲法違反であるという議論も成り立ちうるため、この4票をめぐって訴訟が起こる可能性もある。

(4) 議会によって大統領が決まる場合の訴訟。選挙人が同数の場合、下院(各州一票)の投票にゆだねられるのだが、これが問題になる可能性もある。また、選挙人が、本来投票すべき人物に投票しないことも可能であり、その最終判断が最高裁の手にゆだねられる可能性もある。

(5) 投票日にテロ事件などが起こった場合、投票時間を延長したり、投票を延期するかどうかについての訴訟。こんなことがあったら本当に大変なのだが、このような場合の投票の延長・延期については規定がない州が多く、裁判所が介入する可能性がある。

そんなわけで、11月2日の投票が終わっても、僅差ならば結果がすぐに出ない可能性も大きい。まあ、前回は結局最高裁が選挙の結果を決めることとなり、それに関して最高裁の権威や公平なイメージが損なわれたのは確かで、前のようなあからさまな介入はしないのではないかという観測もある。しかし、ある調査では、アメリカ国民の60%が、選挙の結果は24時間以内に判明しないと考えているらしい。これって、アメリカの選挙制度が破綻している証拠ではないかと思うのだが。ともあれ、「タイブレークルール」が発動しないよう、どちらが勝つにしても十分の差をつけて勝つことを願っているアメリカ人は多い。

さて、今日出た世論調査によると、電話世論調査の結果を、実際に投票した人種比率に基づいて補正をかける(電話世論調査のサンプルには白人が多い)と、接戦の州でもケリー氏が5%ほどリードしているらしい。(参考)もし黒人などマイノリティの投票率が上がれば、ケリー氏がかなり有利になるだろうという分析になっている。この時期になると毎日出る世論調査の数字は、携帯電話しか持っていない人は含まれないなど、どうしても正確な投票行動の予想はしにくい面があり、投票結果はこの数字だけでは予想できないといえるだろう。

P.S. イラクで人質になった日本人の方の無事を祈ります。ザルカウィ派だとすると、生存は難しいかもしれない。しかし、無事であって欲しいと願う。なぜ今時イラクに行ったの? とかいう質問は、無事に帰ってきてからするとして。

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タカ派評論家もケリー支持へ

昨日、元『ニュー・リパブリック』編集長で、私がよく読むブログAndrewSullivan.com主宰のアンドリュー・サリバンがケリー支持を表明した。彼の思想的立場は一貫している。対テロ戦争、イラク戦争に関しては一貫して支持していて、その点ではブッシュ大統領を支持していたのだが、アブグレイブ刑務所の拷問疑惑やイラク国内のテロ組織鎮圧の失敗など、イラクの戦後処理の失政に関しては厳しい批判を続けていた。また、彼は財政的には小さい政府指向のリバタリアンであり、財政赤字を積み重ねるブッシュ氏には批判的だったし、彼自身ゲイであることもあって、同性婚問題ではキリスト教右派にこびを売った現政権にまさに体を張って批判していた。そんなわけで、今回の支持もそれほど驚くべきことではなかった。

彼の場合、財政やら社会政策などで、リバタリアン保守の立場から批判していたのだが、それでも今回の選挙の最重要課題は反テロ政策、つまり、外交・軍事・本土防衛だったと言っていた。よく言われる "One issue voter" である。今回の選挙の場合、テロ絡みの問題で候補者を選んでいる人は多い。当たり前だが、安全な暮らしを守るという一点が崩れれば他の政策は関係なくなってしまうからだ。だから、彼がケリー支持を表明したのは、その反テロ政策でもブッシュ氏よりケリー氏を選んだことになる。

この支持表明記事を読んでみると、彼がケリー氏のいう多国間外交・国連主義について不信感を持っていることがよくわかる。それでもケリー氏を支持するのは、ブッシュ氏の戦争遂行の無能力ぶり、また自分の世界観に沿わない現実を無視しつづける姿勢が、このテロ戦争を遂行するのに不十分だからだという。また、ケリー氏が大統領になることにより、民主党内の穏健派が復権することになるだろう、という期待もある、という。ケリー氏支持者には反戦・リベラルの人々も多いが、ケリー氏が大統領になってもイラクでのオプションは限られていて、とにかくこの戦後処理を遂行するしかない。そういう意味では、民主党内のリアリストが主導権を握っていくことになるだろうというわけだ。一方、もしブッシュ氏再選となると、党内リベラル派の怒りはさらに増幅される。前にNew York Timesのコラムニスト、モーリーン・ダウドが、ブッシュ氏再選ならば08年にヒラリー氏立候補の勢いがつくと語っていたが、同じ種類の観測だと思う。その中で、アメリカ国内の思想的分裂はさらに進むだろう。

さて、タカ派でケリー氏を打ち出したのはサリバン氏だけではない。元超リベラルの論客でありながら、9/11後は一貫して「アフガニスタン・イラク人民の解放戦争」を支持してきた「ネオコン左翼」ことクリストファー・ヒッチンスもケリー氏支持を表明した。(このページは総合オピニオンサイトSlate.comのスタッフの大統領選支持一覧なのだが、ケリー氏支持が圧倒的に多い。)ヒッチンス氏は、つい最近も「イラク戦争を支持する」という主旨の記事をリベラル系雑誌 "The Nation" に投稿していたので、これには少々驚いた。彼の、少々暗号めいた説明を読んでみると、やはりブッシュ氏の執念深さ、反テロ戦争の強い意志には共感するが、現実的な政策としてはまったく説明不可能なほど失敗した、と言っている。ブッシュ氏の意志と、ケリー氏の現実的な統治能力をてんびんにかけた上で、ケリー氏に戦後処理を任せよう、という判断だろう。

こんなわけで、ブッシュ氏の切り札であったはずの外交・軍事部門でブッシュ氏を支持していたはずの批評家たちがケリー氏支持を打ち出している。彼らは、マイケル・ムーア氏のようにブッシュ氏を諸悪の根源とみるような立場の人々とは一線を画しているし、ブッシュ氏の9/11後の毅然とした対応を賞賛してもいる。また、ケリー氏の変節漢ぶりに不信感を抱き、彼が何をするかわからないと考えている。そのような彼らにとっても、現在のイラク政策の失敗はかくも大きく映っているということなのだ。ブッシュ氏は選挙に不利になるとなれば失敗も認めないし、失敗をした部下に責任を取らせることもない。そんな彼に責任を取らせよう、ということなのかもしれない。

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October 13, 2004

第三回大統領選討論

第三回討論。どちらも大きなミスはなかったように思う。ここまで来たら、どちらが討論に勝ったかはそれほど重要でないかもしれない。ブッシュ大統領が過去二回の討論に比べて生き生きとしていたように見えたのは私だけだろうか。そもそも、四年前ブッシュ氏は「憐れみ深い保守 (compassionate conservative)」のスローガンのもと、伝統的に民主党が強い健康保険、教育などの部門でリベラル寄りの政策を提示して当選したのだった。その当時を思い出させる、確信に満ちたパフォーマンスだった。また、チャーミングさではケリー氏はブッシュ氏には決して勝てないだろう。
 一方、ケリー氏は、この三回の討論を通し、「大統領らしい」イメージを有権者に伝えることには成功していたと思う。そのような大きな流れは今回の討論では変わらなかったように思う。

いくつか気がついたこと。

○ブッシュ氏はケリー氏の上院での投票行動をやり玉に攻勢に出ていたが、果たして有効打になっていたかどうかはわからない。この手の数字はいくらでも誇張できる。有効だったとすれば、「ケリー氏は上院でリーダーシップを発揮していなかった」という辺りか。

○ブッシュ大統領は、低所得者救済についての質問が出ると、その質問には直接答えずに教育改革 ("No Child Left Behind Act") の話題に切り替えていた。そういえばチェイニー氏もこのレトリックを使っていた。ブッシュ政権の4年間で最も目に見える効果が出たのはこの教育改革。この法案を通すときには両党の協力を得たし、伝統的に民主党が強い教育政策で強いイニシアチブを発揮した。また、「教師に説明責任を」という発想は、自由競争・反教職員組合など保守系にうけやすい側面も持つ。確かに貧しい家庭の子息が満足な教育を受けることが貧困をなくす一番健全な方法だとは思うのだが、一般的に税制などで貧困層に冷たいブッシュ政権の言い訳のような気もする。

○選挙戦も大詰め。さすがに税収の確保については納得のいく説明は聞かれるはずもない。また、アメリカでも年金は日本と同じ問題を抱えているが、ケリー氏はこの問題は先送りするといい、また、ブッシュ氏の「年金を一部貯金できるようにする」という案も、その間の年金収入をどう確保するかについては説明なし。年金改革はかくも難しい。また、ケリー氏になったら現在の財政赤字が減少して、均衡財政に移行するというのも疑問である。

○自分の信仰についての発言では、ブッシュ氏の謙虚さがよく出ていたと思う。この辺の感覚を日本在住の人に誤解されないように説明するのは難しいのだが、ブッシュ氏は実に自然に語っていた。また、マイノリティ、ゲイの人々の自由を尊重すると彼がいうとき、彼はそう心から信じているという印象を与える。その後に続くケリー氏は大変だと思ったが、彼もなかなか真摯に答えていた気がする。

○私にとっての今日のハイライト。
ケリー氏「ブッシュ氏は、私の健康保険政策について国民をミスリードしている。二つの報道機関が、大統領の説明は正しくないと言っている。」
ブッシュ氏「事実の真偽について報道機関をそんなに信用するのがいいとは思わないが…。(笑)」
CBSニュースの司会者の前ではっきり言うとは思わなかった。

さて、今のところ世論調査はデッドヒートなのだが、このまま行けばケリー氏が有利、という見方がある。接戦の州で民主党支持者が大量に有権者登録をしていること、また今のところ未決の層はどちらかというとケリー氏に投票すると見られていることから、世論調査の数字でブッシュ氏が5%ほどリードしていなければケリー氏が有利といわれている。討論の前はブッシュ氏がそれ以上のリードを保っていたが、2回の討論でブッシュ氏のリードはなくなってしまった。今回の討論でその流れは変わらないだろう。さて、オクトーバー・サプライズはあるのかないのか。ブッシュ陣営の参謀ローブ氏が、保守系コメンテイターに「10月中にサプライズがあるかもよ」と言っているらしいが…。

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October 12, 2004

シンクレアの例の件

六回裏現在、Yankees 7 - 0 Red Sox. ヤンキー・スタジアムの観衆が "Who's your daddy?" と大合唱している。あ、松井また打った。これで 8 - 0.

さて、明日は最後の大統領選討論なのだが、その前に、シンクレアの例の件の波紋が大きく広がっている。例の件とは、シンクレア放送ネットワークという会社が、所有の62局の地上波テレビ局で、選挙日直前に通常の番組を中断してケリー氏のベトナム戦歴にかかわる疑惑に関する「ドキュメンタリー」を流す決定をしたというニュースだ。この番組に登場する顔ぶれは、例の「高速艇」退役軍人のTV広告と同じ人々だ。

今日になって、民主党本部が動き出し、連邦選挙管理委員会にこれは「違法な選挙供与」と告発する事態になった。これに対して、シンクレアの副社長であるマーク・ハイマン氏が各社のニュース番組に登場し、反論。ケリー氏の戦歴を疑問視する退役軍人を弁護して「彼らを口止めしようとするケリー陣営はホロコースト否定論者と同じ」と発言して、さらに非難されている。

さて、このシンクレア放送ネットワークという会社なのだが、アメリカのメディア寡占化を象徴するような存在で、ネットワークTVの地方局を多く所有している。普段はその政治的な影響力に気づかないのだが、今日マーク・ハイマンという名前を聞いてぴんときた。この人物、夜のローカルニュース(夜9時〜11時に30分間放送される)のCM中に登場する「コラムニスト」なのである。ローカルニュース自体は、毒にも薬にもならない(といったら変だが)中道のニュース番組なのだが、彼のコラムだけは一貫して右より、ブッシュ政権擁護の論調なので、不思議なもんだと思っていた。去年住んでいた州で彼を見たときは、そのローカル局の社長か何かと思っていたのだが、この秋に引っ越してきた別の州でも同じハイマン氏が似たようなコラムを持っているので、どうなっているのかと思ったのだった。しかし、今日のニュースで、どちらの局もシンクレアの傘下だったのだということが分かり釈然とした。すると、ハイマン氏の「コラム」を放送している局で、問題のドキュメンタリーが見られるのだろう。それもプライムタイムに。

ブログの世界でも議論沸騰している。リベラル系のTPMでは、シンクレア系のTV局のボイコットを画策している。TV局に直接電話で抗議するのではなく、ローカルニュースで広告を流している地方企業の名前をリストアップし、TV局の営業部に電話し、企業名のリストを読み上げて「例の番組を引き揚げなければこれらの企業に電話して、製品のボイコット運動をする旨を伝えますよ」と言うという作戦らしい。もしボイコット運動が起こるようだったら企業は広告を引き揚げるし、そうなったらTV局は大打撃というわけ。(ちなみに、日本でもこれをやったら効果的かもしれないな。)TPMでは他のウェブサイトと連携して、シンクレア傘下の局に広告を出している企業リストをつくり、電話抗議を組織している。この辺りの動き、アメリカのブログの組織力を見る思いがして、すごい。

一方、9・11以来保守系の論調になっているInstapunditでは、この件に政府が介入するのは、言論の自由の観点からまずいと発言している。これにAndrew Sullivanが反論している。また、Instapunditは、「CBSが公共の電波を使ってこの数か月やっていることはこれと同じ」という読者の意見を紹介している。民主党側は、地上波のTV局には公的な性格があるから、この番組の放送は、選挙の候補者を公平に扱い、極端に党派的な内容を放送しないという放送法に違反すると論じているのだが、CBSがブッシュ政権の暴露番組を組んでいることを考えると、確かにどっちもどっちと言えなくもない。この「ドキュメンタリー」放送とマイケル・ムーアの『華氏911』を比較する議論が多いが、ネットワーク局の影響力を考えると、確かにCBSと比較するほうが有益かもしれない。

今更言うまでもないかもしれないが、この大統領選挙の勝敗に懸かっているものは大きい。これからの4年の方向性がこの選挙で決まるのだが、テロ戦争も含めて、この4年間が覇権国アメリカの未来を左右することになる。

懸かっているのは国の未来だけでない。ここにきて必死になってきた人々・業界を見てみると、どの業界が政界と癒着しているかよくわかる。シンクレアについては、すでに民主党関係者が「せいぜいケリー氏が大統領にならないようにとお願いするんだね」と不気味な発言をしていることから、ケリー氏が大統領になったら放送ライセンス剥奪、罰金などいじめられることだろう。また、このブログでも前に触れたように、民主党の最大の献金源は法廷弁護士業界である。ブッシュ陣営は、すでに民事訴訟改革を打ち出しており、これが実現すると法廷弁護士は大打撃を受ける。

また、選挙の後の国民の反応も気になる。もしブッシュ氏が再選したら、今でさえ怒り狂っている民主党支持者がどうなるか想像するだけでも恐ろしい。カナダに移住する人々が大量に出るかもしれない。(半分本気。)ケリー氏が勝った場合も、ケリー氏が少しでもミスしてアメリカ人の犠牲者が出たりしたら、テロ戦争に関してケリー氏に不安を持っていた人々にとっては「ほれ見たことか」と怒りが収まらないことだろう。また、そんな人々に媚びるかのように毎晩のようにFox Newsがケリー氏にかみつくことだろう。

ダン・ラザー氏の一連の疑惑やら、今回のシンクレアの件を見ていると、この選挙にフェア・プレーを求めること自体が愚かに思われてくる。この選挙は武器を使わない戦争だ。この一点においては、マイケル・ムーアのほうが正しかったようだ。

野球は現在10 - 7. ヤンキースがこのまま勝ちそう。こちらもすごい闘いだが。

追記:ヤンキース勝利。シナトラの "New York, New York"、Red Soxファンのハートを逆なでしていることだろう。

追記2:野球の試合の後のローカルニュースで早速この件が扱われている。この局でも問題の番組を放送するようだ。

追記3【10/19/04】:シンクレアが、番組内容について、「高速艇」の人達のドキュメンタリーを直に流すのではなく、今回の選挙におけるメディアの役割を包括的に扱った「報道番組」を放送することとした、と発表した。この数日、シンクレア上層部は内部からでた批判者を解雇したりと強硬な姿勢を取っていたが、株価が降下(今日だけで3.54%下落)しているのを受けてか、少し態度を和らげてきたようだ。この件ではTPMが詳しく追い続けている。

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October 08, 2004

第二回大統領選討論

セントルイスでの第二回討論。今日はタウンホール・ミーティング形式で、参加者が候補に直接質問する形式。以下は、討論を見ながら取ったメモ。

9:05 p.m. (ET) ケリー氏に、いきなり「あなたは決断力に欠けていますか」という質問。しかし、ケリー氏は話題を変えて全然違う話をしている。ブッシュ氏のほうが「大統領は一貫性がなければ」と攻撃。

9:10 ブッシュ氏に「WMDがなかったという報告がありましたが」という質問。情熱的かつシンプルな答え。今日はブッシュ氏は前の討論より休養十分という感じ。ケリー氏は、「イラクに関し、私は意見を変えたことがない」と言う。話題がそれる悪い癖が少し出ているが、答えは短く、直接的。

9:19 ブッシュ氏に海外諸国の反米感情についての質問。「レーガン元大統領もヨーロッパでは頑固者と呼ばれていた」と、人気がなくても正しいことをすべき、と主張。これに対し、ケリー氏が4年前の討論の答えで「出口戦略と十分な兵力がある時だけ軍事行動する」と言ったことを持ち出して、「約束を破った」と。イラクについてはケリー氏が攻撃に使えるネタが多い。かなり効果的な議論を展開している。

9:26 イランと北朝鮮。ブッシュ氏がケリー氏の、対北朝鮮の「二国間対話」政策を批判。私も二国間対話は賢い政策とは思わないのだが、ブッシュ氏の説明はディテールが少ないので、イメージだけ見れば説得力がないような気がする。

9:32 徴兵復活するかどうか、という質問。ケリー氏が答えながらブッシュ氏のほうをまっすぐに見て、「(州兵の呼び出しなど)実質上徴兵が起こっている」と厳しい批判。ブッシュ氏はすこし頭に来たような様子で反論。イラク戦争の多国籍軍についての論争だが、両者ともシャープに答えている。両者の違いがはっきりしている。

9:37 テロ対策について。ブッシュ氏の答えは「すべてできることはしている」と言っている。前回の討論でブッシュ氏は「大統領は大変な仕事なんだよ」と連発して後日揶揄されたが、今日はクリアに、嫌味にならない言い方をしていて説得力があったと思う。

9:42 質問は国内問題へ。ケリー氏、またもや4年前の討論の答えと実際の政策の矛盾を指摘。ブッシュ氏がメディケアの成果を強調して、ケリー氏は何もしなかったと言うと、ケリー氏は「われわれはメディケアを改善しただけでなく、予算を均衡した」と。そう、財政赤字もブッシュ政権の大きな問題。

9:46 健康保険と訴訟改革について。ブッシュ氏が「ケリー氏は上院で最もリベラル」と攻撃。また、エドワーズ氏を副大統領に選んだことに対して疑問。先日のワシントン・ポスト紙のGeorge Willのコラムでもあったが、弁護士は民主党の最大の支持母体になっている。ブッシュ氏は訴訟コストを減らし、弁護士の取り分を減らす改革をしている。これが実行されると、弁護士たちだけでなく、民主党が大きなダメージを受ける。

9:52 財政均衡について。ブッシュ氏は、「私が大統領になる6ヶ月前に不況になったから財政赤字が増した」と答えた。

9:54 ケリー氏に、「年収20万ドル以下の人々には増税しないとカメラに向かって誓って下さい。」ケリー氏は、言われた通り誓い、また、「財政赤字を半分にする」とも誓う。これ、日本でもやったら面白いだろう。ブッシュ氏は、「過去の投票行動から、彼は増税するだろう」と反論。ケリー氏は再反論で、マケイン氏の名前を出しながら「企業税の抜け穴をなくす」と発言。ここで中間層に人気のあるマケイン氏を持ち出すのは賢い。

10:03 環境問題。これも、二者の違いが鮮明になる問題。私はブッシュ氏が環境問題について関心をもっているとは思わないのだが。それから、ケリー氏は「私は科学を信じる」とも。科学者でブッシュ氏の政策に不満を持っている人は多い。

10:06 経済政策。ケリー氏が、アウトソーシングをする企業を批判。ブッシュ氏が、この質問をきっかけに「中小企業はケリー氏の税制で打撃を受ける」と攻撃に転ずる。ケリー氏は「それは違う。ブッシュ氏が木材屋で、チェイニー氏が中小企業、そういう数え方をしている統計」と。それに対してブッシュ氏は「私が材木屋? それは初耳だ。…木材いります?」とジョークで切り返した。??? この問答、よくわからんかった。

10:14 愛国法。ケリー氏はこの法案にも賛成票を投じたのか。まあほとんど全員賛成だったわけだが。

10:15 ES細胞の研究利用について。この問題について、ブッシュ氏は「生命倫理」を強調し、ケリー氏は「科学の希望」を強調する。この問題は、中絶論争にもつながる生命観の問題も絡むので難しいが、ブッシュ氏の立場には宗教右派も反対しているという事情がある。こういうと誤解されそうだが、この問題、たんなる「科学の進歩のため」という理由付けで研究を解禁するのは問題があると思っている。

10:22 最高裁判事の任命問題。これは実はけっこう重要な問題。両者とも、「法を解釈する人」というようなことを言っていたが、両者の意味するところは大きく異なる。両者ともはっきりとは言わないが、この問題を気にしている人は多い。そろそろ次の判事を任命するタイミングで、現在の最高裁はちょうど左右均衡しているから、次の一人の重みは大きくなる。

10:25 中絶問題。私はケリー氏の答え(「中絶に個人的に反対だが、政府の代表として個人の権利を守らなければならない」)は、微妙なニュアンスながらよく表現されていたと思ったが、ブッシュ氏は「今のを解読するのは難しいね」と一刀両断。

10:28 ブッシュ氏に「4年間の政策で、間違いだったと思うことがありますか」と。ブッシュ氏:「振り返ってみると戦争の戦術的なミスはあったと思う。人間だから」。この譲歩は少し驚き。でも、イラク戦争を始めたことは正しかったと信じる、大統領として責任を取る、と強調することを忘れていない。それに対しケリー氏は「本当に最後の手段として戦争を選んだか、よく考えてみよう」と主張。ブッシュ氏は、ケリー氏のflip-flopを批判して反論。また、「あのような状況でいま以上強固な同盟がつくれたかどうかは怪しい」と、ケリー氏の主張自体を疑問視する人もいる。ともあれ、二つのまったく違う世界観が提示されている。どちらが一般庶民と共鳴するか、だろう。

まとめ。両者とも大きなミスはなかったように思う。ケリー氏が、「変節漢」というイメージとはうらはらに、クリアで力強い答えを用意していたのが目立った反面、ブッシュ氏も疲れたような1回目討論とは異なり自らの立場をはっきり主張していた。国内問題に関しては、中絶問題など、「この問題だけでだれに投票するか決める」というべき問題が多くある。その意味では、どちらに投票すべきかというシグナルが答えの中に含まれていたのではないかと思う。多くのアメリカ国民にとり、一番の問題はイラク情勢だというのが最近の世論調査の結果である。そうなると、ケリー氏が有利だろう。いっぽう、ブッシュ氏のケリー氏批判のうち、弁護士業界との関係、中小企業の税負担など、有効打もいくつかあったと思う。

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October 06, 2004

副大統領討論

元ハリバートンCEO対元法廷弁護士の討論。何か書こうと準備していたのだが、討論の中継の途中で友人から電話がかかってきて、中断。(非常に実りのある会話で満足した。本件とは関係ないのだが。)ということで、きちんと見ていないのだが、最初の1時間ほどを見た感想を短く。
○両者の準備がずいぶん違う形で現れた。エドワーズ氏は、特にイラク戦争については、同じ論点をとにかく繰り返すこと。それは、自分の信条や経験から生み出されたものではなく、ケリー陣営として現大統領を批判するために練りに練られたポイントだったと思う。経験不足のため説得力が薄いと思われる部分もあったが、特にイラク戦争については、現政権側として反論しきれないものもあるわけだから、それは両者の違いとして残った。例えば、エドワーズ氏が、先週のケリー氏の議論をくり返しながら、アメリカが「90%の犠牲者、90%のコスト」を負担しているというと、チェイニー氏は、「その数字にはイラク人の犠牲者が入っていないし、先進国がイラクへの債権放棄したのも含まれていない。イラクの人々や同盟国を尊重しないのか」と反論。これに対してエドワーズ氏は「現政権が国民をミスリードする典型例だ」と。

○イラクの論点は、基本的には、イラクの現状を悲観的に見るケリー氏側と、今までの業績を強調し、「自由」という目的の高邁さを訴えるブッシュ氏側ということになる。今から喜んでイラクに派兵しようという国がないから、イラクの治安維持に多くの国の参加を求めるのは夢物語、という意味ではブッシュ氏側が正しいが、ケリー氏側は、そもそもこうなったのはブッシュ氏の失政なのだ、と言っている。この点に限って言えば、アメリカの世論はケリー氏側に傾きつつあると思う。

○チェイニー氏は、ケリー氏とエドワーズ氏の両方にかなり厳しい個人攻撃を加えていた。とくに、ケリー氏の30年にわたる上院での投票行動をやり玉に挙げていた。30年間投票していれば、いろいろと攻撃材料が出てくるものである。ブッシュ大統領は今のところこれを攻撃材料として使っていなかったのだが、今日の討論ではチェイニー氏が具体例を挙げて攻撃した。「90分の言論で30年の投票行動を隠せない」と。また、エドワーズ氏が上院の欠席率が高いとして、「私は(上院議長として)毎週火曜日に議会に出ていますが、今日初めて会いましたね」などと批判していた。それに対して、エドワーズ氏はチェイニー氏の下院議員時代の投票行動をもちだして反論。「キング牧師記念日に反対」とか、「マンデラ氏釈放決議に反対」とか、今の常識では考えにくい保守的な例を挙げていた。この攻撃はけっこう有効だったのでは。この辺りの個人攻撃は、共和党が広告などを通して進めている戦術と一貫していて、チェイニー氏は自分の役割を果たしていたと思う。しかし、あまり繰り返すと国民に飽きられるのではないかという気がした。

○一方、現政権は国内政策ではかなり問題を抱えているのではないだろうか。この討論が行われたオハイオ州クリーブランドは貧困率がアメリカ一高い都市だそうだが、現政権の政策で貧困層が助かるようなものはない。せいぜい減税くらい。(しかし、減税で最も潤ったのは高所得層なのだ。)この問題は民主党のおはこである。特に、法廷弁護士として一般庶民の側に立って戦った(ということになっている)エドワーズ氏は、この辺りの問題になると説得力があると思った。論争が国内問題に移る3回目の討論では、ブッシュ氏はかなり苦戦するのではないだろうか。

○ブログをいくつか見てみると、チェイニー氏のやる気がなかったのでは? という指摘がいくつかあった。ハリバートンに関するエドワーズ氏の攻撃にしても、「すべて論破されています。ウェブサイトを見て下さい」と言うだけ。また、チェイニー氏の娘がゲイのため発言が注目された同性婚に関する質問でも、一回目に自分の主張を述べた後、エドワーズ氏の主張に対して反論する機会が与えられても「私の家族に対して敬意を払ってくれてありがとう」と言って終わり。自分の言いたいことが言えればいいという態度が目立った。これについて、4年間の激務の後の疲労か、それとも無関心か、といろいろと憶測が飛び交っていた。

まとめ。副大統領討論が選挙の行方を決めるということはないのだが、選挙戦の方向性というのは見えてくる。ケリー氏側がイラク戦争の「間違い」を主張しても、ブッシュ氏側が今までの楽観的、希望的な見方をここにきて変えるというのは考えにくい。一方、ブッシュ氏側はケリー氏の上院での投票行動などを通してケリー氏の「資質」を疑問視する。これについても、この前の討論で見たように、ケリー氏側はかなりはっきりとした答えを用意してきて、真っ向から反論している。4年前のチェイニー氏対リーバーマン氏の討論では、二人の経験豊かな政治家が実際に論争を戦わせているというイメージがあったが、今回は、チェイニー氏はこの4年間の政策を弁護しなければならない。民主党側は特に外交・軍事では経験不足という感じだが、選挙に勝つための戦術として、反論が難しい大きなポイントを繰り返している。結果、二つの世界観が交わることなく共存するようなことになっている。こうなると、どちらが論争に勝ったか、ということよりも、中間層のまだ決めかねている人々にどちらの世界観が「現実的」と思えるかが勝負を決めることになると思う。

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September 30, 2004

第一回大統領選討論

今日は仕事が終わらなくてまだオフィスです。

 今日の討論、両方ともよく準備していたと思います。一方、両者とも弱点をさらしていた部分もあり、これから数日かけて両陣営が分析していくでしょう。
 外交・防衛問題は私の専門ではないし、少し疲れていて余り集中して聞けなかったので、とりあえず印象だけ記しておきます。

○ブッシュ大統領は、最初の方は何か苛立ったような様子だった。疲れているのかもしれない。彼は、時々記者会見などでこういうことがあるのだが、イライラしているのが言葉の端々に現れて、短気に見えるし、こういう時に限って言葉に詰まったりする。ケリー氏に対しての反論で「(外交政策の批判は)敵に間違ったメッセージを送る」というのを繰り返していたが、いらついたような口調だったので、感情的な反論という印象を与えていたと思う。リラックスして来たのは最後の方で、「ケリー氏の人格は大統領に適格ですか」という、ある種のひっかけ問題が出たときも、ケリー氏を「家族を大事にする人」などとほめる余裕を見せた。あのペースで最初から行けば良かっただろう。

○その点ではケリー氏は最初から最後まで安定していたと思う。タフなイメージを表に出すのに成功していた。論点もけっこう豊富だったし、現政権の批判についても、「アメリカはイラクで90%の死傷者、90%の経費を負っている」とか、「(開戦時)イラクより危険な国は30から40あった」など、鋭いポイントが飛び出していたように思う。いろいろなブログをざっと見渡したところでも、議論に限って言えばケリー氏の判定勝ち、という様子である。(もちろん、どちらが勝ったかというのは、討論後の両党の反応も含めて決まってくるので、まだわからない。)

○外交・本土防衛はブッシュ氏が有利なトピックのはずだから、ブッシュ氏はもっとポイントを挙げるべきだったのか、それとも、ケリー氏は後を追っているのだから、KOパンチが出なかったと言うことはブッシュ氏が逃げ切ったというべきか。この辺を両党の代表がいろいろと論じ合っていくことになるだろう。

○私は、ケリー氏がころころと政策を変えているというのが、政治家の批判の対象になるとは思わない。そう言ったら、ブッシュ氏だって何度も政策を変えている。だから、ブッシュ大統領がケリー氏を "Flip-flop" などと言っている批判は、私にはあまり説得力がなかった。

○一方、ケリー氏が論点がぶれる、というのは言えると思う。次に何を言い出すかわからない、という不安があり、今日言ったことも分析していくといろいろと矛盾が出て来そう。アメリカにとって一番問題になりそうなのは、ケリー氏が、「先制攻撃の権利を放棄したりはしない」と言いながら、軍事行動には「国際社会のテスト」をパスしなければならない、と発言。自国の安全を守るためには国連の許可がなくても先制攻撃もして欲しい、と思っているアメリカ国民が反発することはないだろうか。

○ブッシュ氏は、ケリー陣営の「アラウィ首相は傀儡」発言を批判。また、ケリー氏が、イラク戦争に参加した国として、ポーランドを忘れていて、ブッシュ氏が訂正するシーンも。ブッシュ氏がポーランドで人気があるというのも理解できるだろう。

○ケリー氏の対イラク政策の中心は、サミットを開催して国際社会の協力をとりつけること、ということらしい。また、各国に戦費支出も、と言っている。日本の支出増大は必至だろう。一方、ブッシュ氏はイラク人による軍隊の訓練がメインだから、これ以上日本の負担が増えるということはないと思う。

○日本の方にとって、一番大きな問題は、やはり北朝鮮問題だろう。興味深いのは、ブッシュ大統領の外交は、イラク戦争のため一国主義、国際社会無視というイメージがあるが、北朝鮮に限って言えば、6か国協議の堅持、中国・ロシアとの協力など、実に手堅い政策をとっている。一方、ケリー氏はこの討論では「北朝鮮との直接対話」と繰り返していたが、それは金正日を利することにはならないのだろうか? また、外交の知識に乏しいと言われるブッシュ氏が、北朝鮮の核疑惑についてケリー氏の誤りを正すシーンがあった。北朝鮮問題に限って言えば、現状把握、戦略、どの面でもブッシュ氏の方が安定感があるといえる。

○ダルフール。ケリー氏は「ウガンダの過ちを繰り返してはいけない」と決意表明。ダルフールへの軍事介入はフランスや国連が反対しているのでは? 「独断的な外交」はしないはずじゃなかったの?

非常におおざっぱな印象としては、ケリー氏、意外としっかりしてる、という感じだったと思う。これを足がかりに、残り二回のディベートで今までの流れを変えることが出来る可能性はあると思う。

以上。これから帰って、寝る前にもう少し仕事…。

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September 29, 2004

大統領選討論の場外戦はすでに始まっている

明日は大統領候補による討論会。今日のNYTのオピニオン欄には、前回ブッシュ氏に選挙で敗れたアル・ゴア氏が「ブッシュ氏と討論する方法」という題で寄稿していて、ケリー候補に、「イラク戦争の真実を伝えれば勝てる」とアドバイスしている。明日の第一回の討論会は外交・軍事の質問が中心になるので、ケリー氏にとってはそのアドバイスを生かす最大のチャンスだ。また、討論会関連では、ブッシュ氏とケリー氏の過去の討論ビデオを分析した記事(The Atlantic)も興味深い。著者は日本でも一時期有名だったジェームス・ファローズ。
 しかし、討論がどう展開するかは勝敗にはあまり関係ないという考え方がある。

それは、討論のインパクトは実は討論後の各党の対応によるというのだ。NYTではポール・クルーグマンがそのような主旨のコラムを書いているし、また、ここ2、3日はTalking Points Memoでもそのような指摘がされている。TPMによると、4年前のブッシュ対ゴアの討論会では、一回目の討論の直後の印象ではゴア氏優勢と伝えられていたのに、その後共和党のキャンペーンが奏功してブッシュ氏有利となったという。4年前を思い出してみると、「ブッシュ氏は庶民的で親しみが持てる」「ブッシュ氏は予想よりよくやった」「ゴア氏には知的優越感から来る驕りがある」など、討論の内容とは関係のない印象批評をよく聴いたのを覚えている。そして、そのようなイメージが定着する中で、「ブッシュ氏はそこそこよくやった」「ゴア氏は傲慢だった」というイメージが形成されていったように思う。

こういう印象操作は、現政権支持で悪名高いFox Newsばかりではなく、各ニュースチャンネルに出演する共和党陣営のコメントなどが協力して似たような論点(Talking Points)を繰り返すことによっても強められる。この前のCBS疑惑では、CBSがリベラル偏向していると書いたが、ここで言っているのは、3大ネットワークで晩飯時に流れるイブニング・ニュースではなく、政治討論番組のこと。では、今のアメリカのメディアで保守とリベラルのどちらが強いか、というと、保守系のほうがルール違反をせずに上手にメディア戦略を練っているとはいえると思う。この前にCBSが犯したようなミスをFox Newsが犯したら今頃大騒ぎになっていることだろう。でも、Fox Newsに出てくるコメンテーターが共和党の論点を壊れたレコードみたいに繰り返しているのを見ると少々あきれることも多い。

さて、この「場外戦」に関して、少し興味深い動きがあった。ケーブルニュース局の一つである、MSNBCが、明日の討論会の特番で、世論調査担当のFrank Luntzを起用しないと発表したのだ。この人、この4年間、MSNBCの政治番組に「世論調査員」として、何か大きな政治イベントがあるとよく登場していた。彼の得意は "Focus Group" と呼ばれる生の擬似世論調査で、スタジオに少人数の「中間層」の市民を呼び、反応を聞くというもの。例えば、民主党大会のケリー氏の演説の時には、Focus Groupの人々にダイアルを持たせ、好感度なら一方、反発したなら反対にダイアルを回してもらう。そのダイアルの数字をケリー氏の演説に重ねて、どの部分が反応が良かったか、悪かったかが即時にわかるというわけだ。MSNBCの中継では一番興味深い部分ではあった。

この「世論調査員」のLuntz氏なのだが、実は共和党のアドバイザーでもあって、現在も共和党の候補や広報担当に助言を続けているという。このサイトがよくまとめているが、共和党のコメンテイターに、「イラク戦争について語る前に、必ず『9・11ですべてが変わった』と付け加えること」と助言をしたり、カリフォルニア州知事リコール選挙では、シュワルツェネッガー氏の演説も書いていたという。(今年の共和党大会ではシュワ氏の演説をべた褒めしていたというから、図々しい。)これだけ共和党との関係が深い人物なら、本来NBCは彼を「共和党」関係者と紹介すべきなのだが、この4年間そうしてこなかったのだ。一件中立の立場に見せて、彼が非科学的なFocus Groupの結果についてコメントするのだから、印象操作の余地は十分にあるとも言える。

そして数日前、MSNBCの討論会中継でもLuntz氏が"Focus Group"を使って登場することがわかり、リベラル系のメディア監視グループやブログがキャンペーンを展開。Luntz氏を降板させるか、氏の共和党コネクションを明らかにするよう、MSNBCとNBCに圧力をかけ続けた。結果、今日になって、MSNBCはLuntz氏を起用しないことを発表したという。TPMでは "A SUCCESS" というタイトルのエントリを書いて勝利宣言している。

4年前の選挙について今思い返してみると、私は、実は、ゴア氏が勝つと思っていた。政策はそれほどでもなかったが、ゴア氏の方が頭脳明晰で政策通なのは明らかだと思ったからだ。しかし、ご存じの通りの大接戦。なぜかなあと思っていたときに、このLuntz氏が「アメリカ内陸部の人々はブッシュ氏の親しみやすさに惹かれている」などと言っていて、ああ、そんなものかと思ったものだ。あれから中西部に住んでみて、ブッシュ氏の支持が根強い地域が多いことは実感としてわかったから、彼の言っていたことが間違いだとは思わない。しかし、今思うと、Luntz氏の印象操作に乗せられていたのかもしれない、とも思う。ともあれ、この件一つを取っても、討論の場外の情報戦はもう始まっていると言うことができるだろう。

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September 26, 2004

アメリカのリベラル系ブロガー

New York Times 日曜版についてくる "Magazine" にアメリカの政治系ブロガーについての面白い記事が。 Fear and Laptops on the Campaign Trail (September 26, 2004) ダン・ラザーのメモ疑惑で注目を浴びたのは、リベラル・メディアの偏向にうんざりしている、どちらかというと保守系のブロガーだったが、この記事では、Daily Kos, Talking Points Memo, Wonketteの、有名リベラル系ブログの管理人たちに焦点を当てている。どれも、一日10万ヒット級の、政治ブログとしては最も人気のあるブログである。

メモ疑惑は、大手メディアがブロガーに負けた記念的事件として記憶されると思うが、その前には民主党大統領候補のハワード・ディーン「現象」があった。バーモント州の元知事という、大統領候補としては必ずしも恵まれないポジションにいながら、公式ブログをフル活用した草の根の組織化、それからネットを通しての小口・多数の献金集めにより、一気にレースの先頭に立った。(その後、彼の「スクリーム」演説が災いしてケリー氏に敗れたのは周知の通り。) この記事、メモ疑惑による「ネットは右寄り」という印象を薄めるためか、最近アクセス数を増やしているのはリベラル・民主党系のブログと書いている。「ラッシュ・リンボーが、トーク・ラジオを圧倒しているように、左派政治はブログで栄えている」ということだ。次の観察は興味深い。

It's almost as though, in a time of great national discord, you don't want to know both sides of an issue. The once-soothing voice of the nonideological press has become, to many readers, a secondary concern, a luxury, even something suspect. It's hard to listen to a calm and rational debate when the building is burning and your pants are smoking.

これだけ世論が分裂している現在、人々は反対の意見を聴こうとか、客観的に物事を見ようという気持ちにはなりにくい、とのこと。メモ疑惑のダン・ラザーなどは、このような熱い政治言論から距離を置いてきちんと客観的なジャーナリズムを続けると言うよりは、その流れに自ら乗ってしまい、自らのチェック機能を失ってしまった、ということかもしれない。

この記事、長いのだが、リベラル系3大ブログの管理人のプロフィールが面白い。Wonketteは、ワシントンのゴシップやら下ネタやらで有名。(このブログの内容は、ちょっと親には見せられない。)つい最近はある政治家の秘書がつけている私生活についてのブログを紹介して秘書がクビになる事件が起こった。管理人のAna Marie Coxは、大学院を辞めてから、いくつかの雑誌の編集者をしていたが結局続かずじまいだった。ところが、このブログを始めてからは、昔からの悪態をつくのが好きな性格がこのブログのペルソナとうまくマッチして、たちまち人気爆発。ブッシュ氏の公式サイトの「オリジナルなブッシュ再選ポスターを創ろう」という自動生成スクリプトを悪用して遊んだりして、左系の人気を集める。また、結構美形でもあることも手伝って、テレビの政治番組にもコメンテイターとして登場するようになった。今年の民主党大会では、MTVのレポーターを務めたりして、「シンデレラになれるかな」と思ったという。しかし、MTVからは電話がかかってこず、結局ブログからスターになると言うのは夢だったのか、と少しがっかりしているようだ。

Talking Points Memoは、典型的な「オーバードクター」タイプ。ブラウン大学で博士号(アメリカ史)を持っているが、アカデミックの世界になじめず。政治系雑誌の編集者だったが、結局合わなくて退職。理想家肌の彼は、いつも政治の現状に苛立っていたのだが、2000年大統領選のフロリダの大騒ぎを見て、怒りのはけ口としてブログを始める。民主党大会でも、いつもしわくちゃのズボンを履いていて、ダイエット・コークを飲みながら更新を続けていた。ブログ界ではけっこう落ち着いた、客観的な語り口で知られるが、それでも雑誌よりは自由に書いている。(彼は雑誌にも連載を持っているが、雑誌の原稿料はブログの広告収入よりずっと少ないらしい。)でも、ブログがこれからどうなるか、確信は持っていない。

Daily Kosの管理人は、民主党の候補の多くと連携していて、彼のサイトで下院議員候補の献金集めをすると、数日で数万ドル単位が集まるらしい。実は民主党本部の役員とぶつかることもあって、この記事にはKosの管理人と民主党の献金担当がケンカ寸前になる場面が描かれている。イラクでアメリカの派遣社員が殺されて焼死体が晒されたときに「ざまあみろ」と書いて、広告主の政治家が広告を引き揚げたりしたこともあって、ちょっと軽いタイプではあるが、彼のサイトは現在毎日30万ヒットを数えるらしい。

この記事を読んで驚くのは、アメリカの政治系ブログがけっこうな収入をあげていること。この3サイトくらいになると、年間10万ドル以上稼いでいるらしい。でも、Tシャツにジーンズというなりで、「仕事にしちゃうとつまらなくなるんだよね」などと言っている彼らブロガーの多くは、一昔前のネットバブルの経営者たちのようにも見える。また、この3人は20代後半から30代、ちょうど私と同じ年代なので、エリートコースに乗り損ねてブログにたどり着いたという、彼らのプロフィールにも共感できるものがある。ネットバブルはすぐに崩壊したわけだが、この新しい政治言論が定着するかどうか。まあ、日本のブログの近未来の可能性を見るような気がする。

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September 24, 2004

アメリカも注目するオーストラリア総選挙

ワシントン・ポスト紙の保守系コラムニスト、チャールズ・クラウトハマー氏が、今日(9月24日)のコラム "The Art of Losing Friends"でオーストラリアの総選挙について触れている。オーストラリアの総選挙は10月9日と、アメリカの大統領選が大詰めにさしかかってきたころで、アメリカの選挙にも影響を及ぼしそうな微妙な日付なのだが、アメリカがこの選挙に注目する理由は他にもある。クラウトハマー氏のコラムに沿って見てみよう。

クラウトハマー氏のコラムは、まず、過去100年間アメリカが戦った戦争で、常にアメリカの側で兵力を送って戦ったのはイギリスでもフランスでもなくオーストラリアだと指摘している。9・11テロの後も、もちろんオーストラリアはアフガン戦争、イラク戦争の両方で戦力を派遣している。しかし、ブッシュ大統領を支持してきたハワード首相の支持率はこのところ下降気味。先ほどあった党首討論会も手伝って、最新の世論調査では労働党のレイサム党首にわずかに後れをとっている。(ロイター

アメリカにとって問題なのは、レイサム氏は、選挙に勝った場合はイラクから撤兵することを公言していることである。過去の経緯を考えると、オーストラリアが撤兵するということの象徴的な意味は大きい。また、現場の兵隊の指揮も下がるだろう。ケリー氏とブッシュ氏のどちらが大統領になるとしても、イラク情勢が難しくなるのは間違いないだろう。

テロ組織もこの選挙に注目している。9月9日のジャカルタでの爆弾テロは豪大使館前で起こった。党首討論会の3日前というタイミングを考えると、スペインの総選挙前に列車同時爆破テロが起こったのと同じ状況である。スペインのテロは総選挙に影響を与えたが、オーストラリアの総選挙でも、テロの後にブッシュ氏を支持した現政権が不利になりつつある。もしハワード首相が退陣となると、またしてもテロの後にブッシュ氏を支持した政権が退陣することとなる。

ここまでの、オーストラリア首相選がもつ意味という意味では、あまり異論はないと思う。しかし、ここからクラウトハマー氏は、ケリー氏がオーストラリアの総選挙を政争の道具にしていると批判する。ケリー陣営は、豪メディアのインタビューに答えて、「ハワード政権がアメリカの政策を支持したために、オーストラリアは国際テロリストの大きな標的となった」(9/18)と発言し、また、オーストラリアでのテロの脅威は豪政府のブッシュ政権支持のために増大したか、と聞かれて「そういわざるを得ない」と答えた、という。(9/16)アメリカの最大の同盟国の一つをこのような形で軽視するのはまずいのではないか、とクラウトハマー氏は言っている。また、ケリー氏は「大統領になったらもっと多くの国にイラク再建に参加を呼びかける」というが、アフガン戦争、イラク戦争のときの同盟国だったイギリスのブレア首相やオーストラリアのハワード首相には冷たくし、アメリカを裏切ったフランスやドイツの参加を期待するケリー氏の姿勢を批判している。

以上、クラウトハマー氏のコラムの紹介。ここからは私見。
クラウトハマー氏の論調は一貫してタカ派だが、徹底したリアリストだともいえる。ともかくこのコラムの投げかけているケリー氏の外交の矛盾というのは、けっこう深刻な気がする。ケリー氏は「同盟国を大事にする」と言うが、これ以上ない同盟国のオーストラリアの現政権にはけっこう冷たいというのはどうなのか。また、もしハワード首相が退陣してオーストラリアがイラクから撤兵したら、イラクに派兵できる国がまた一つ減ることになる。ケリー氏は、イラク復興のためにもっと多くの国々を巻き込むの負担を要請する、と言っているが、どんどん状態が悪化する現在のイラクに喜んで派兵しようと言う国はないと思うのだが、どうするつもりなのだろうか。最近のケリー氏の言動を見ていると、選挙に勝つためならとにかく何でも言っておく、という姿勢が見える。特に外交、軍事ではけっこう近視眼でものを言っている気がする。これはもし勝った場合に世界が相当混乱する気がする。
 一方、ブッシュ大統領の外交は結構わかりやすい。同盟国は厚遇し、裏切り者は干す。ドイツも在独米軍撤退などでダメージを受けている。一方、日米関係がこれだけうまくいっているのは近年まれにみることである。
 まあ、そもそもハワード氏が米国支持で政治的リスクを負ってしまうのはブッシュ大統領の世界的不人気、ということが大前提にあるわけだが…。

それから、日本では、よく「アメリカの二大政党制では、政権交代しても外交・軍事政策はほぼ変わらない」といわれるが、今回の荒れた選挙戦ではそのルールも破られつつある、ということなのかもしれない。

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September 23, 2004

メモ疑惑:日米ジャーナリストの反応

日本でもCBSメモ疑惑の報道がちらほら出てきた模様。新聞でも産経新聞のこの記事が事情をよくまとめている。著者は古森義久氏。この記事では、大手メディアの信用が疑問視されているというポイントをよく押さえてある。
以下、古森氏の記事から引用。

 CBSは従来、政治報道では民主党リベラル派への共鳴を示し、とくにラザー氏は共和党保守のニクソン氏や先代ブッシュ氏を激しく追及し、衝突してきた。「CBSは党派性の上に立つ聖なるメディアという自負を主張してきたが、実は民主党寄りであることをこの事件が証した」(ジョージタウン大学のロバート・リヒター教授)というように、その政治偏向が暴走して今回の誤報を生んだという見方も広まった。
(中略)
 同事件のこうした政治的側面について保守系大手紙のウォールストリート・ジャーナルは「メディアの分岐点」と題する社説で今回の重大な誤報が全米向けテレビの民主党寄り偏向をあばき、なおかつ従来の「リベラルのメディア独占の終わり」を告げる、と論評した。実際にニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなど、報道や論評の政治基調では民主党寄りを明確にする他の大手メディアまでがCBSの誤報を厳しく追及し従来の政治的姿勢の変化をも思わせるにいたった。
CBSの偏見については、今回に始まったことではないので、ここに書かれていることはおおむね正しい。ただ、リベラル・左派の人々はこういう大手メディアの「政治的姿勢の変化」については認めようとしないかもしれないが。

一方、TBS記者の金平茂紀氏もホームページ更新。
CBSニュースが全面謝罪ということに・・・・  (9/20付)
健全な自省力のゆくえ (9/22付)
CBS全面謝罪という事態に直面して、混乱している様子が伺われる。

きのうのワシントンポスト紙を読んでいて考え込んだ。ハワード・カーツらがCBSブッシュ軍歴報道に関する1ページ以上を割いた異例の検証記事を掲載していたのだ。CBS内部でいかにオンエアが優先され、警鐘が無視されたのかを、時々刻々と検証して伝えている。正直、恐ろしいと思った。記事の情報ソースは明らかにCBS内部にもあった。
ここで言及しているのはこの記事(登録必要)だと思うが、なぜ「正直、恐ろしい」と思ったのか興味深い。記事の情報ソースがCBS内部にあったということのどこが悪いのだろうか。正体不明のメモを看板報道番組で流した後、徹底調査する過程で、内部のプロセスがここまで短期間のうちに透明化されていることが「恐ろしい」のだろうか。メディア内部はいつまでもブラックボックスであればいいと思っているのだろうか。

アメリカでも大手メディアが、この問題をブロガーを後追いする形で追及していることについては、米国内でも反論がある。大きな視野に立てば、確かにそうだろう。この大統領選では、他にも重大な争点がたくさんある。しかし、ワシントン・ポストが大きなスペースを割いて検証しているのは、CBSが明らかな間違いについて10日以上も否定し続け、自浄能力を失っていたからではないだろうか。メディアの信用に関わる問題を大きく扱うワシントン・ポスト紙の姿勢は、日本の多くの新聞、TVメディアが見習うべきだと思う。

メディアの透明性ということに関して、サンノゼ・マーキュリーニュースのコラムニストが書いた次のような記事がある。
Bloggers key to tracking down truth in media
(日本語はこちら。なんとアサヒ・コムのサイト内にある。)
記事の中心は、ブロガーが大手メディアに影響力を持ってきたのかどうか、について。新聞ジャーナリズムに関わる者として、彼はブロガーの影響力にはまだまだ懐疑的なのだが、次のようにまとめている。

 このエピソードから誤った教訓を導かないように注意しつつも、ブロガーらの純粋な成果をおとしめないようにしようではないか。彼らの「オープン・ソース」ジャーナリズムは特筆に値する。
(中略)
 メディアの監視も新しいことではない。だが最新のものは、業界にいる我々が我々自身や仲間うちについて行う大部分において礼儀正しい報道とはまったく違うものだ。今起きていることは、時に教訓的で、常に手ごわい。
 ジャーナリストは、他者に対して透明性を高めることを要求してきた。我々の仕事を公の場で分析する多くの人々の能力、それもほぼリアルタイムで行う能力のおかげで、今度は他者が我々に対してより多くを要求している。我々もそれに慣れていかなければならない。
大手メディアが信頼を確保するためには、他者に求めるのと同様の透明性を自らも確保すること、という原則に立って、ブロガーが大手メディアをチェックするという現実に大手メディアの方が慣れていかねばならない、という結論部分については、さすがだと感心する。日本の大手メディアには、ブロガーがメディアのあり方を変えているという現実認識、また、透明性を確保することが視聴者・読者の信頼を勝ち取る鍵である、ということがわかっていないように思う。

金平氏のコメントに戻るが、アメリカのメディア識者のコメントをひきながらこう書いている。

また、BLOGが主要メディアを負かした、とかいう「俗説」を笑い飛ばしていたが、今や主要メディアがBLOGから影響を受けていることは否定できない、とごくごく真っ当な意見を述べていた。健全な自省力を見た気がした。
「健全な自省力を見た」と完全に人事なのだが、金平さん、その現実は日本でもすでにやって来ているのではないですか? TBSにも「自省力」があるのか問われている、とだけ書いておこう。

ついでに、ワシントン・ポスト紙から、今回の事件についてのブロガーの活躍をまとめた記事を紹介しておきます。(9/20)
誰か訳してくれるといいのですが…。

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September 22, 2004

メモ疑惑:民主党とCBSの関係は?

月曜日にCBSとダン・ラザー氏がメモの扱いについて誤りを認め、独立調査機関による調査を決めてから、焦点はこの件に絡んでCBSとケリー選挙本部が連絡を取っていたかどうかに移っている。この事件、大手メディアでは特にワシントン・ポストが頑張っているのだが、今日のこの記事(登録必要)によると、今のところ、事実関係として当事者が認めているのは、 ○「60ミニッツ」プロデューサーのメアリー・メイプスが、ケリー陣営のジョー・ロックハート(クリントン政権で大統領報道官を務めた)に、メモを提供したビル・バーケット氏に電話するよう依頼した。その時に、メイプス氏は、バーケット氏のことを「CBSを助けてくれている人」と呼び、「60ミニッツ」の番組のストーリーについても言及した。 ○ロックハート氏はバーケット氏を誰か知らないまま、彼に電話をかけ、短時間話した。「60ミニッツ」の番組については話さなかった。 ○バーケット氏は、元上院議員でケリー氏の友人のマックス・クリーランド氏とも電話で話した。

メイプス氏は、メモの提供とメイプス氏がバーケット氏をケリー陣営に紹介したことについて、取引があったことについては否定している。ケリー陣営も、ロックハート氏に事情を聞き、特に問題はなかったという認識を示している。一方、ブッシュ陣営は、バーケット氏のメモとCBSの番組はケリー陣営の選挙運動と連動していたのではないかと追及している。

この問題については、もう少しはっきりするまで様子を見たい。CBSがメモが捏造と認めるかどうか、というのは比較的わかりやすいが、この捏造メモとケリー陣営が関係していたか、となると、事情は複雑になってくる。ブッシュ陣営は、この件を当然ケリー氏攻撃の材料にしてくるが、彼らの言うことを鵜呑みにすることはできない。ブッシュ陣営だって、あの「高速艇退役軍人の会」なるグループとの関係には怪しいものがある。情報が限られている現在の段階では、踏み込むのはフェアではないだろう。

さて、このメモ疑惑、「ジャーナリズムは、自らの先入観に合ったストーリーを造るためには事実を見る目も曇るか?」という問題をはらんでいるだけに、日本の大手マスコミは扱いに慎重になるだろうと思っていたら、予想通り、News 23の報道ではコメントなしでスルーだったようだ。(さぬきうどんさん、情報提供ありがとうございます。)このブログでも、メモ事件について書いて以来アクセス数が激増している。新聞・TVなどの大手マスコミにとって、都合の悪いニュースは飛ばしていればいい時代は終わった。

追記:Slate.comから、ダン・ラザー氏の奇行録とも言うべき記事。タフというイメージは昔からあったが、単に攻撃的な人柄なのかもしれないと思わせる、数々の奇行。名キャスター、ウォルター・クロンカイトの後釜にはなったが、結局クロンカイト氏にはなれなかったラザー氏、という人物像が浮かび上がってくる。

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September 20, 2004

現実への謙虚さは失いたくないものだ。ジャーナリストでもブロガーでも。

今日、CBSが一転過ちを認め、謝罪した。文書の提供者は噂されていた元テキサス州兵のビル・バーケットだが、彼が捏造したのではなく、別の文書提供者から渡された、ということらしい。今日のイブニング・ニュースでラザー氏がバーケット氏にしたインタビューを流すとのこと。そのインタビューで、バーケット氏が「CBSを意図的にミスリードしました」と言うらしい。CBSとしては、独立の調査機関を雇い真相究明するとしている。

ラザー氏も誤りを認める声明を発表。「今知っていることを番組制作時に知っていたとしたら、文書をあのような形で放送することはなかっただろう。しかし、使ってしまったことは事実で、そのことについては謝罪します。」しかし、このミスは「不偏不党、恐れることのない調査報道、というCBSニュースの伝統」にのっとったものであり、悪意のあったものではない、とも言っている。

最低限の謝罪、という印象。間違いを認めるというのはニュース機関にとってマイナスではあるが、独立調査機関の調査というのにはしばらくかかるから、これでしばらくは乗り切ろうということなのかもしれない。でも、明らかな疑惑が発覚してから全否定だったこの二週間弱は何だったのか。今回の事件で失われた信用、また、「リベラル偏向」というイメージを裏付けてしまったことのダメージは大きく、これくらいの謝罪で消えるほどのものではないと思う。

一方、TBSの金平記者。このサイトでは、まだラザー氏を弁護している。(9月15日付)

問題の本質は、ブッシュ大統領が州兵時代にまともに服務していたか、それとも、親のコネや影響力を行使してアンフェアなことをしていたか、ということなのだが、今やメディアは、ネットワークTVのある意味の「権威」ダン・ラザー及び「60ミニッツ」攻撃に腐心している。他人の不幸じゃなくて試練は蜜の味、というわけだ。夜8時からの『60ミニッツ』は、それでもCBSは踏ん張っていた。decency(品性)は失いたくないものだ。この国でも日本でも。
残念ながら、彼は、今回の事件の「本質」が、金平氏自身のような報道に携わる者の公正、不偏不党という原理原則にかかわることでもあるということを全くわかっていない。その上、この問題でCBSの批判をする人々は、ジャーナリストでもブロガーでも「他人の試練は蜜の味」という「品性がない」人だと、批判者の人格攻撃に切り替えている。
 まあ、私のようなブロガーでも、ラザー氏のような「権威」が失墜するのは滑稽だと思っている人は多いと思うし、特に、この事件はラザー氏の現実離れした否定が続いたから、いつ謝罪するかという意味で、ある意味自動車事故を面白がるような悪趣味の部分はあるかもしれない。しかし、可笑しいのは、他人の不幸ではなくて、メディアに関わる人々のあからさまな偏見、またそれに気付かない厚顔無恥ぶりだろうと思う。それには、もちろん、自分の偏見を棚に上げて、正当な批判をしている人々の「品性」をも問うこのTBS記者も含まれるのだが。

しかし、この人の使命感というか、正義感というか、何ともすごいと思う。多分、ブッシュ政権は「悪」であって、ジャーナリズムの使命を、ブッシュ政権のような「悪」と戦うことであると、一点の疑いもなく信じているのだと思う。だから、そのためには手段を選ぶ必要はない、ということなのだろう。
 現実問題として、現在のアメリカのニュース・言論界では保守系・政権擁護系の声が強まりつつある。とくに、番組編成やパーソナリティの選択で保守的な偏見を表に出したFox Newsの経済的成功により、他のニュース局の内容が右傾化しているという指摘がある。また、ネットワーク局は結局はオーナーの大企業(ディズニー、GE、Viacom)などの都合の悪いことは言わないのではないか、といわれる。ラジオではもっと寡占化が進んでいて、内容への干渉がひどいという指摘がある。そのなか、リベラル側からの政権批判をする人は苦しい立場に置かれていて、日頃から苦しんでいるから、今回の事件も「勇気ある反抗」と思うのだろう。
 では、金平氏の正義感は正当化されるのだろうか。
 まず第一に、もし自ら手段を選ばないことにしてしまったら、ジャーナリストとしての役割は崩壊する。ニュース番組に権威が与えられているのは、事実の正しさ、意見の公平さについて、一般市民よりも高いスタンダードを与えられているから。もしそれを捨て去ってしまったら、TBSニュースも朝日新聞の記事もマイケル・ムーアの映画も変わりはない。
 それから、今回のようなお粗末な報道こそ、保守系メディアに塩を送るようなことではないのだろうか。
 また、このような人に限って、自分の掲げる「正義」に目がくらんで現実が見えていないと言うことが往々にしてあると思う。現実は多くの顔を持っているのに、最初から正義感のフィルターを持ち込んだら現実を見誤るんじゃないだろうか。昨今の「ブッシュ叩き」の雰囲気にしても、私はどうしても乗り切れなくて、現実の様々な顔を見ようとしてきた。困ったことに、ブッシュ氏のステレオタイプは当たっているものが多い部分もあるし、彼の政策には彼の支持者でも賛成しかねるものが多いと思う。しかし、現実に謙虚にものを見つめたいとは思っている。その辺の最低限の抑制は失いたくないものだ。
 匿名でブログをつけるというのは非常にささやかな営みである。私には権威も何もなく、過去に書いた文章しかアイデンティティのよりどころがない。だからこそ、人格攻撃や無責任な放言などはしないように、最低限のマナーは心がけているつもりだ。そんなわけで、ある特定の条件の下に文章を書く訓練としては、非常に勉強になっている。

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September 17, 2004

"Jon Stewart manufactures news"

お堅いニュースメディアが「捏造報道」で揺れる中、自ら「嘘ニュース」を公言するテレビ番組がある。お笑い専門の "Comedy Central" というケーブル局で流している "The Daily Show" である。司会はコメディアンのジョン・スチュアート。この番組、ニュース番組のようなセットなのだが、内容は時事問題をネタにしたコメディとトーク。日本で言えば爆笑問題のような存在だろうか。しかし、この番組がなかなか侮れない。大学生では「この番組がニュース源」と言う学生が増えていると言うし、この番組の政治的影響力を見越してけっこう大物政治家が登場する。この前もジョン・ケリー氏が登場したし、副大統領候補のジョン・エドワーズ氏はこの番組で大統領選出馬宣言をした。

ウェブサイトから番組のハイライトを見ることができるのだが、これが面白いし、結構質が高い。クリップを再生するとまず番組のCMが流れる。工場で働いているお兄さんが出てきて「オレたちはタンスを造る。ジョン[・スチュアート]はニュースを造る」と言って、堂々と「捏造ニュース」であることを公言する。しかし、その内容がシリアスでないとは決して言えない。その証拠に、このサイトの "George W. Bush: Words Speak Louder than Action" というクリップを見て欲しい(要ブロードバンド)。これは傑作。ブッシュ政権がいかにアフガン・イラク戦争の現状を言葉でいいくるめてきたか、正直これほど上手くまとめた映像を私は見たことがない。また、マイケル・ムーアの映画と違って、自らをコメディと割り切っているからこそ現状の厳しい批判たりえている、という面もあると思う。さて、民主党の大統領候補や彼のスタッフがこの番組のライターと同じ、いや半分も知恵があったら、今頃選挙戦は民主党の圧勝のはずなのだが。

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CBSの対応が遅れている理由は?

メモ疑惑について。(一部ブロガーではRathergateと、上付文字を使って呼ばれているようだ。意味はわかりますよね。)今日は今のところは大きな進展なし。ただ、アメリカの風刺漫画業界でもこのネタが流行している。このページでは新聞の一こま漫画を中心に50点もの漫画が載せられている。アメリカの新聞に風刺漫画はつきものだが、この絵を見ているだけでも現在この問題がどれだけ庶民の間に伝わっているか、雰囲気が感じられるだろう。
 また、同じサイト(Ratherbiased.com)のニュースページでは、最新動向がよくわかるようになっている。ウォッチャーの方々は、是非。

 一方、保守系のWall Street Journalのオピニオン欄(2004/9/17)には、Biasという本を書いてラザー氏やCBSの「リベラル偏向」を指摘したバーナード・ゴールドバーグ氏が寄稿している。(登録必要)このサイト、1日すると記事が入れ替わってしまうので、要点をまとめておこう。
○1996年、CBSで働いていたゴールドバーグ氏がラザー氏と決別してCBS批判のオピニオン記事をこの新聞に書いたときのエピソード。ラザー氏はこの日のことを未だに恨みに持っていると多くの人に語っているらしい。
○それほど自分の名誉を気にするラザー氏が、今回ばかりはじっと黙って批判を受けているのはなぜか。
○一番手っ取り早いのは、捏造文書を提供したソースを明かしてしまうこと。別に名前を出す必要はなく、「政府筋」とか、「調査に関わっている警察筋」などというほのめかしでソースの大まかな所在を明かすことはよくある。そうすれば視聴者もどれだけ信憑性があるか想像が付くし、ジャーナリストの倫理観にも反しない。
○しかし、今のところ、CBSの報道局は、ニュース記事の「傍証」となりそうな偏ったニュースばかり流して、ソースを明かそうとしない。それどころか、CBSを批判する人々を「党派心の強い政治勢力の圧力には負けない」と、批判する人々の政治的意図を疑うようなことを言っている。
○しかし、逆に、もしラザー氏の情報提供者が「党派心の強い政治勢力」だとしたら、それこそスキャンダルであろう。もしそうだとしたら、その時こそそれに便乗どころか、喜んで協力したCBSとラザー氏の信用は地に墜ちる。

確かに、1週間以上経っても訂正すらしないCBSの姿勢にはあやしいものがある。しっぽはどこかで切らなければいけないのだろうが、それがラザー氏一人なのか、CBS全体を巻き込むのか、はたまたソースが明かされてケリー陣営にまで絡むのか。私自身、特に今年はCBSは結構いい報道をしていると思った。日曜日の「60ミニッツ」では、政権のテロ担当のリチャード・クラーク氏やら、元財務長官オニール氏の現政権批判のインタビューを報道したり、ボブ・ウッドワード氏にイラク戦争前後のブッシュ政権の内幕を語らせたりと、スクープ級の番組がいくつか続いた。こう書くとブッシュ政権批判の番組ばかりという印象だが、ライス安全保障補佐官のインタビューなどを流し表面上のバランスは取っていた。しかし、今回は明らかに勇み足である。だからこそ、CBSやラザー氏が黙って自らの信用が失墜するのを見ているというのには、首をかしげるものがある。

また、事実チェックをしたブロガーたちが右翼の政治勢力だというラザー氏の批判は的はずれだと思う。大手メディアがネットで批判されて、何か黒幕が背後にあるように言うのはおかしい。日本で言えば「2ちゃんねるに書き込むのは右翼」とかいうのと同じだろう。もちろん、保守系ブロガーで今回の事件について煽っている人々はいる。でも、経験的に言って、大手マスコミ(ジャーナリスト・評論家)が批判されてネットの人々にかみつく時というのは、大手マスコミの側の大衆を馬鹿にした態度と、事実関係のチェックの甘さ、そして常識のなさがあらわになることが多いように思う。

まあ、ブッシュ氏の軍歴疑惑については、私の前のエントリを読んでもらえばわかるが、かなり怪しい部分がある。その意味ではラザー氏の言っていることは否定しない。それに、アメリカの報道のミスということでいえば、リベラル偏向ばかりではない。イラク戦争に関して言えば、「大量破壊兵器」はなかったわけだが、新聞やらTVやらはすべてブッシュ政権の大本営発表に乗せられてしまい、ニューヨーク・タイムズ紙やらワシントン・ポスト紙やらが自己批判記事を書く羽目になっている。上にリンクした多くの政治漫画の一つに、「うちはあんな嘘くさい文書にはだまされないね」と澄ました顔をしたライバル局のニュースキャスターの後ろに、「WMD」やら「フセインとアルカイダの関係」と書いた紙がゴミ箱に捨ててある、というのがあった。マスコミにとっては失態続き、というところだろう。また、ブッシュ政権自体、現実を言葉でいいくるめるようなことが必要以上に多い、ということは指摘しておくべきだろう。
 とにかく、今年の選挙は、マイケル・ムーアの映画、「高速艇退役軍人の会」のテレビ広告、数々の内幕暴露本、そして捏造ニュースなど、さまざまなメディアのなかで真実も嘘もごっちゃになって展開されているのは事実だろう。はて、どうしたものだろうか。

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September 16, 2004

ダン・ラザー祭り続報

(9月16日、末尾に加筆した。)
昨日の晩、CBSが声明を発表。(pdf)同日の「60ミニッツ」の番組で、当時テキサス州軍で勤めていた86歳の秘書がインタビューを受け、「私はこの文書はタイプしていないけれど、この文書に含まれている情報は正しいわ」と発言。CBS報道局としても「文書は捏造だったが中身は正確」と微妙にスタンスを変えた様子。一方、文書の正確性については「引き続き調査」するとしながら、「レポートの大筋については批判を受けていない」と、基本的にはレポートを撤回していない。(CBSのサイトではこちらの記事も載せている。)
 CBSが「捏造だったが正確」という言い訳で逃れられると考えているんだったら相当甘いね。一方、ラザー氏はワシントン・ポスト紙のインタビューに答え、「もしこの文書が私たちが信じているようなものではなかったら、このストーリーは撤回する」と発言している。いや、そうじゃなくて、もう捏造と確定しているんですが…。この辺でも、ブロガーの数手後を行く大手メディアのメンタリティが浮き彫りになっている。

当初は傍観していたAndrew Sullivan もすっかりキレてしまった模様。一方、CBSの地方ネット局ではダン・ラザーのニュース番組や「60ミニッツ」を放送しない局まで現れてきているなど、波紋は広がる一方である。

一方、だれがこの文書を捏造したかだが、ワシントン・ポスト紙のこの記事によると、この文書はテキサス州アビレーン市のコピー店 "Kinko's" からファックスされたということらしい。この事実から、店の所在地から約21マイルのところに住んでいる元テキサス州兵勤務のBill Burkett氏の名前が浮上している、とのこと。また、NYTでもかなり大きな扱いでこの件に関する記事を載せている。

この事件、これだけで収拾がつくはずもないので、これからも追っていくつもり。

興味深いのは、この件でラザー氏辞職など大きな動きがあった場合、日本の大手メディアがどれだけ反応するか、ということ。「ブッシュ氏に対する憎しみのあまり、ジャーナリストとしての判断基準が狂って捏造文書を報道してしまいました」なんていう記事をたとえば朝日新聞が載せるということはとても目に浮かばないのだが。捏造事件・恣意的な報道・リークには事欠かない朝日新聞にとっては古傷が痛む事件だろう。それとも、「ラザーさんには同情します」とか言うのだろうか。また、同罪とまで行かなくても同じ傾向の日本のメディア関係者は大勢いるから、こういうニュースは大手メディアでは慎重な扱いになることだろう。そういうことを気にせずに書いて発信できるというのがBlogの利点の一つではある、と改めて思うのだ。

追記(9月16日):この事件が日本でどう報じられているか少し調べてみると、TBSのワシントン特派員である金平茂紀氏が個人サイトでコメントしていた。タイトルからして「CBSのダン・ラザーが怒りで声が涸れていたこと」と、すっかりラザー氏に同情している。本文でも、こう書いている。

さて、CBSニュースはこの「ねつ造説」に対して、真っ向から正攻法で反論した。ダン・ラザーの声は涸れていた。怒りのあまりだろう。すさまじい勢いで検証報道をやっていた。筆勢鑑定家やら当時の上官の知己やら総動員して「ねつ造」説に根拠がないことを証明していた。
最も大きなポイントは、ベトナム戦争当時のタイプライターでは打てない小文字の「th」があるという主張だが、CBSニュースは1968年当時からそれを打てるタイプライターが実在していて、当のホワイトハウスが公表した文書のなかにも小文字の「th」があることをしっかりと反証していた。今のような時代では「ねつ造説」もねつ造できる。それこそコンピュータグラフィクスを駆使したり、有力メディアの記者にねつ造説をリークすれば、またたくまに「ねつ造説」だけが拡がる。そういう意味では、CBSニュースの根性は見上げたもんだ。
この「検証報道」だが、呼んできた鑑定家が調べていたのは署名だけであって、タイプライターについての疑惑は少しも晴れていないことがブロガーたちによって指摘されている。また、CBSが雇った4人の文書鑑定家のうち、2人はすでにABCニュースに出演して「慎重を期すためもう一度調査を」とアドバイスした、と発言、CBSと距離を取り始めている。
 また、上付のできるタイプライターはあったという説だが、これも専門家が、ネット上で、Word文書の上付と1970年代のタイプライターで打ち出せる上付との違いについて細かく論証している。
 しかし、私が一番問題だと思うのは、個々の論点について自分の頭で考えないで「今のような時代では『ねつ造説』もねつ造できる」なんてさらっと書いてしまうところである。この記者の方も、自分の信念というか、信条に基づいてブッシュ大統領再選に反対しているのだろうが、だからといってジャーナリストとしての公平な視点を失ってしまっては仕方ないと思う。「声は涸(ママ)れていて」などと、情熱的なラザー氏に感情移入しているのだろうが、こんな分裂したアメリカ大統領選挙だからこそ、熱いハートを持っていてもクールな頭で観察を続けなければいけないのではないだろうか。

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September 15, 2004

ブッシュ大統領の軍歴疑惑(2)ダン・ラザー祭り

9月8日、CBSニュース「60ミニッツ」で、この軍歴疑惑についての番組が組まれた。担当はCBSの看板キャスターのダン・ラザー。大統領選挙前の微妙な時期のこのレポート、内容もすごいのだが、まもなく番組内の一部資料が捏造されたという疑惑が起こり、多くのblogで取り上げられて「祭り」になっている。今のところCBSは「報道の内容には自信を持っている」と言い張っているが、これが本当に捏造なら、大物ジャーナリストのラザー氏の辞任は必至の大スキャンダルになっている。この事件について誰か日本のブロガーが書くと思ったのだが、今のところこの件を取りあえげているblogは見あたらないので簡単に記録しておく。

この番組では、ブッシュ氏の州兵入隊で便宜を図ったとされるバーンズ氏とのインタビューに加え、1972年当時の勤務実態についての新証拠として、ジェリー・キリアン准将が書いたとされる数点のメモが「新たに発見」された、と伝えた。この人は84年に亡くなっているのだが、このメモがすごい内容で、
○ブッシュ氏に身体検査を受けるよう直接命令が下っていること(本当ならブッシュ氏は軍紀違反に問われる)
○ブッシュ氏を訓練のドリルから外すべきという指示
○ブッシュ氏の勤務に関する内部報告で、いい成績を付けるよう上の方から圧力がかかっているとし、キリアン氏が「邪魔が入って仕事が出来ない」と不満を漏らしているこど
などが書かれている。特に、最後の、内部報告を甘くつけるよう指示が下ったという1973年8月18日付けメモ(pdf)は、本物なら大変な証拠になる。また、この軍歴疑惑はこれまでもさんざん話題になっているので、ここで新証拠が出ると言うこと自体、かなりのインパクトがある。
 しかし、この番組が放送された直後、このメモが捏造ではないか、という疑念を投げかけるブロガーが続出。保守系ブログのPowerlineなどが次々に矛盾を指摘した。詳細については、すでにこのメモ疑惑だけでWikipediaのエントリが出来ているのでそちらを参考にしてもらいたいが、まとめると、このメモには、フォントの横幅の微調整、日付のthの上付きの不自然さ、など、当時のタイプライターでは不可能な技術が多く使われていたのだ。決定的だったのは、このメモの画像が、Microsoft Wordのデフォルト設定で書いてプリントアウトしたものと寸分違わないことがわかったこと。(CBSメモとWord文書を重ね合わせた画像はこちら。)この画像を見てしまうと、このメモは捏造だったとほとんどの人が確信するだろう。ともあれ、ブログの世界で多くの矛盾が指摘され、番組放送24時間後にはブログの世界では捏造「確定」となってしまった。一方、CBSとしては、「報道の内容には自信を持っており、この番組の内容を保証します」と一貫して否定。そのうち、CBS関係者が「ブロガーなんて自宅からパジャマを着て書いているだけだろ」と言ったりしてブロガーの怒りを買う事態になるなど、大手ブログのinstapundit.comなどが中心となってブログ界で「祭り」状態が続いている。
 大手メディアも、ワシントン・ポスト紙やライバルのABCニュースなどが後追いで報道し始める。CBSニュースの権威は丸つぶれで、この後どういう風に事後処理するか、CBSからの反応を誰もが息をのんで待っている状態である。今のところ、ラザー氏は報道内容について訂正・謝罪する様子は全く見せていない。CBSの今日(15日)の記事では、「疑惑が残る」と言っているが、まだ記事の否定はしていない。また、今日付でCBSの社長が「調査中」という声明を発表している。いずれにせよ、この2,3日で大きな動きがあるかもしれない。
 ここで注意しておきたいのだが、CBSが捏造をしたというわけではないだろう。むしろ、CBSがどこかからこの捏造文書をリークされた、ということなのではないか。それをチェックしきれなかったのはCBSの責任だが、捏造文書を流したリーク元が気になる。もしこれがケリー陣営に絡む人物だとしたら、ケリー氏の選挙キャンペーンは致命的打撃を受ける。

この事件、大手メディアの資料の取り扱いのずさんさもそうだが、それに対して24時間のうちに事実チェックしてしまったブロガーの実力、また、ブログという存在がメディアの世界で無視できない存在になっていることを象徴する事件となった。その犠牲者が、大手メディアの顔的存在のダン・ラザーというのもショッキングだ。
 また、CBSニュースについては、「リベラル偏向」しているという疑惑がここ数年つきまとっている。3年前にCBSの元スタッフによる暴露本が出たばかりだった。大統領選挙も大詰めのこの時期に、捏造文書まで使ってケリー氏に優位になる報道を流すというのは、実態はどうあれ、左翼偏向のステレオタイプを裏付けることとなった。日本の2ちゃんねらーだったら「CBS必死だな」とか言われているかもしれない。

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ブッシュ大統領の軍歴疑惑(1)簡単にまとめ

ブッシュ大統領の軍歴疑惑については、まだスキャンダルというレベルには達していないのだが、事実関係について少し誤解があるかもしれないので、英語のWikipediaのエントリにそって簡単に説明してみる。

ブッシュ大統領が入隊したテキサス州空軍(Texas Air National Guard)というのは米軍の一部で、ただ管轄が国内と言うだけである。"national guard"についてのWikipediaのこのエントリによると、そもそもは民兵(ミリシア)のようなものだったらしい。独立戦争当時の「ミニッツ・マン」の例からもわかるが、19世紀のアメリカ国軍は各州からのミリシアの集合体という色彩が強かった。それが、1903年に予備軍として米軍の組織に編入され、現在では陸軍・空軍の一部となっている。大統領命令により海外にも派兵されるので、実際ベトナム戦争中も州兵から徴集がかかった場合もあった。予備役のような位置づけだと考えればいいだろう。しかし、ベトナム戦争中は、兵役逃れの一手段という色合いが強く、希望者が殺到していたとされる。(この辺の歴史も実は争点になっていて、ブッシュ氏が先日の演説で、歴代大統領のうち自分を含めて19人が州兵だったとして、「そのうちの一人であることを誇りに思う」と言ったのだが、実は現在のNational Guard制度が成立した後に州兵だったのはトルーマンだけだったという。それもブッシュ氏のケースとはだいぶ異なるらしい。参考:Talking Points Memoのここここここのエントリ)
さて、軍歴疑惑がある、というと、まるでブッシュ氏が丸々さぼっていたようなイメージがあるが、実際、1968年から1973年に在籍しており、時間数だけで言うと、1970年から1972年の間に合計飛行時間336時間をこなしている。ブッシュ氏の勤務実態についてはこのによくまとめてある。(しかしWikipediaは便利だ)

疑惑になっているのは、大きく分けて次の二点である。
1)ブッシュ氏が親のコネを使って、ベトナム送りになる可能性の低い州軍に入ったか?
2)義務通り、6年間の任期を満了したか?

1)については、状況的に見て、希望者が定員を10万人単位で上回っている状況で大学卒業すぐに入隊できるというのは何かのコネを使ったのではないかということは十分に推測できる。しかし、ブッシュ大統領は、公式には当時下院議員でテキサス州の大物政治家だった親のコネを使ったことは否定している。
 この件については、今月放送のCBSニュースのインタビューで、当時州議会議長のベン・バーンズ氏が、ブッシュ一家の友人からの指示で、州軍の幹部に取り入ってブッシュ氏がすぐ入隊できるよう取りはからった、と証言。(バーンズ氏は現在ケリー陣営を手伝っている民主党員なのでバイアスがかかっている。また、このCBSのレポートにも問題があるのだが、それは次のエントリで。)また、あの霍見芳浩氏が、ハーバード・ビジネススクールでブッシュ氏を生徒に持った経験があり、その時に彼自身が「父の友人のコネで入れた」と言っていた、と証言している。(参考:NYTのニコラス・クリストフ氏のコラム。)

2)について。ブッシュ氏の勤務記録を見ると、Wikipediaのを見てもらうとわかるが、1972年の4月から10月に空白があり、この間の勤務状況がはっきりしない。この間、義務の身体検査を無断欠席して、結果として現役から外されたりしている。また、アラバマ州州兵に転勤になったり、ハーバード・ビジネススクール入学のときに名誉除隊になっているのだが、この辺の理由がはっきりしない。もし勤務状況が悪くてクビ同然で辞めたとか、またもや親の七光りで辞めることが出来たとなると、まじめに義務を勤め上げたとは言えなくなり、相手に格好の武器を与えることになる。マイケル・ムーア氏が民主党予備選の時ウェスリー・クラーク氏の応援演説でブッシュ氏を「脱走兵」呼ばわりしていたのはこのことである。
 この辺りの事実関係については細かい部分で論争になっているのだが、ポイントになっているのは、ホワイトハウスが提出した書類を含め、現在のところ表面化した証拠では、空白の6ヶ月の勤務については証明されていない。また、この空白について、勤務実態についていろいろな証言が錯綜しており、論争が続いている。(間違いがあったら指摘して欲しい。)

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September 13, 2004

イラク情勢が悪化しても選挙には関係ない、という現実

昨日は、バグダッドで自動車爆弾テロなど戦闘が相次ぎ、イラク情勢がさらに悪化している、というニュースがあった(NYT)。イラク情勢のニュースに関して麻痺状態になっている人も多いとは思うが、このニュースはバグダッドで、というのがポイントで、首都でもイラク暫定政府の支配が弱まっているということが明らかになった。(9月14日追記:今日、バグダッドでは自動車爆弾で少なくとも47人の死者が出た。NYT

さて、アメリカの大統領選に現在のイラク情勢がどう関わってくるかだが、リベラル系blogのTalking Points Memoに、現在のブッシュ氏がリードしている情勢について興味深い分析が載っていた。一言で言うと、ブッシュ氏が現在リードしている最大の要因は、ブッシュ陣営がこの選挙戦の争点からイラク戦争を外すことに成功した、ということだ。
以下、Josh Marshall氏の分析。
イラク戦争に限ってみると、現状は厳しい。というか、これ以上ない大失敗といってもいいレベルに近づきつつある。イラク戦争開戦の理由になった大量破壊兵器も見つかっていないし、フセインとアルカイダとの関係も否定されている。このどちらかが実証されていれば、どれだけ犠牲が大きくてもこの戦争を正当化することは可能だったろうが、そうはならなかった。また、政府・軍が特に大規模戦闘が終わった後どうするかという計画を持っていなかったことは明白である。結果、イラクがテロの温床になるのを防ぐ、という目的で戦争を始めたはずなのに、実際その逆の結果が起こってしまっている。また、犠牲も大きい。米兵の犠牲者は増すばかりだし、戦費を2000億ドル以上使った。そのあげく、現在アメリカが撤退する目処は全く立っていない。端的に言って、アメリカはこの戦争で「負けている」わけだし、近い将来に勝つという目処もまったく立たない状況になっている。

それでも、共和党の巧妙な選挙戦略により、イラク戦争の現実はこの選挙戦にはまったく関係がない、という風に問題設定がされてしまっている。なぜか。
 まず、イラク戦争を「反テロ戦争」の一環としてとらえることにより、目の前の現実の厳しさがかすんでしまうようになっている。「反テロ戦争は長く続く厳しい戦いだから、途中には失敗もあるし、厳しいときもあるだろう」と言われてしまうと、イラク戦争の厳しい現状はすべて「反テロ戦争」という果てしなく長いスパンの視点の中で比較的小さな犠牲ということになっている。
 それから、イラクの現状について突っ込まれたら、「ケリー氏ならどうするの?」と反論すること。現在のイラク情勢は、誰も認めたくないのだが、簡単な答えはない。だから、ブッシュ氏側が「対案を示してくれ」といわれても、すぐ現状打開するような妙案はないような状態なのである。ケリー氏も、現実的な施策としてはほとんどブッシュ氏と変わりがないものになり、ブッシュ氏側が「ケリー氏とブッシュ氏は現実の政策ではほとんど変わりがない」と言えることになってしまう。結果、ブッシュ政権側が「問題ないよ」と問題があることすら否認する反面、ケリー氏も特に対案がないという印象を与えてしまう。ブッシュ氏は、「自らの失敗のあまりの巨大さから政治的優位を引き出した」という面があるのだ。

このようにMarshall氏の分析をみてみると、イラク情勢がこれ以上悪化しても選挙情勢には影響しない、という力学がわかると思う。
 イラク戦争に大義があるか(あったか)にかかわらず、現状は厳しくなっている。最初はイラク戦争に賛成していたが、ブッシュ政権のあまりに下手なやり方に愛想を尽かしている人々も多い。言い換えれば、反テロ戦争に本当に勝ちたいんだったらシビアに現状分析すべきだろう、と思っている人達である。(私自身もその部類にはいるかと思う。)しかし、共和党はいまのところ現状をどうするかについてははっきりした態度を示していないから、そのような人達には非常に不満足な現状になっている。ブッシュ氏再選ならアメリカという国が長期的には衰退していく、その端緒になるのではなかろうか、とさえ思われる。
 一方、選挙戦略という意味で完全に負けているケリー氏について苛立っている人も多いと思う。同じマサチューセッツ州在住で88年の選挙で大敗したデュカキス氏と比較する論調も目立ってきた。(事実ケリー氏の選挙本部にはデュカキス氏陣営のもとスタッフもいるという。何でそういうことをするのか、と思うのだが。)民主党が絶対勝つために出してきた「最終兵器」がこの人、というのは、ある意味哀しい。民主党には悪いが自業自得という気がする。また、ケリー氏がどんな政策をするのかもよくわからない。

 さて、もう一つ、日本にとってはどちらの候補がいいか、という視点から一つ。ケリー氏は、イラク駐留の米軍を「国際化」して米軍の負担を減らす、と言っている。イラクがこんな現状の現在、喜んでイラクに兵力を送りたいという国はないかもしれないが、負担というのは兵力の負担だけではない。ある民主党系の評論家は、「2000億ドルの戦費をアメリカ一国で負担しているのは問題」と言って、湾岸戦争では日本やドイツが戦費を支出してアメリカはほとんど出費せずに済んだ、と指摘していた。ケリー氏が大統領になったら、日本にイラク戦費の負担を求めてくることになるのではないだろうか。もちろん、ブッシュ氏がいろいろなところから圧力を受けて日本の負担増を求めてくる、ということもありえるが、ケリー政権で日米関係の重要度が相対的に落ちる、というのは既定路線だと思う。

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September 07, 2004

ケリー氏は逆転できる?

レイバー・デイの祝日が終わり、外の空気も秋らしく感じられる今日、ケリー氏としては、こんなはずではなかったのにというところだろう。この時点でこれほどのリードをつけられて逆転した候補はいないと言われており、苦しくなった。先日は「このままでいけばケリー」という記事を書いたばかりなのに、ほんの1ヶ月でこれだけ選挙の方向が変わるとは不思議なものだ。


でも、希望はある。ケリー氏は新しく選挙参謀を雇い、手術直前のクリントン元大統領からも90分にわたって選挙指南を受けたとか。Slate.comのこの記事によると、ケリー氏は昨日の演説から、ブッシュ大統領との違いを鮮明に打ち出し始めた。今までは、あまりネガティブな選挙運動は一般の有権者にうけないということであからさまな個人攻撃を控えてきたが、ここにきて、「WはWrong(間違い)のW」というテーマで、この4年間の失政を責める厳しいトーンの演説を始めたという。現職に対して「変化」をテーマに戦うというのは、まさにクリントン氏が当時のブッシュ(父)大統領を破った作戦である。

また、ケリー氏は「終盤の追い上げ」では有名である。実は、去年から今年の1月にかけての民主党予備選でも、アイオワ党員集会のぎりぎりまで、ケリー氏はディーン氏の後塵を拝していた。ケリー氏の低迷の象徴として、ニューハンプシャー予備選のわずか2、3週間前にこんな写真が出回ったこともあった。
 この写真、ニューハンプシャーのある高校での演説中に撮られたもので、写真にうつっているTシャツには、
"Your mouth keeps moving but all I hear is 'BLAH, BLAH, BLAH!' "
(あんたの口はパクパク動いているけど、聞こえるのはたわごとだけ)
選挙本部はこんなTシャツを着た高校生をどうして部屋に入れたのかと思うのだが、ともかく、この写真が出回ったときは、「政治家が負けるときにはこんなもんだよな」と、失敗したキャンペーンの象徴のように語られたものだ。リンク先のブログのエントリのタイトル、"Things Can't Get Much Worse" というのがその時の雰囲気を象徴している。このエントリの日付が去年の12月29日。しかし、そのあとあれよというまに盛り返し、1月19日のアイオワ、1月27日のニューハンプシャーで勝利、驚異的なペースで早々と大統領候補となったのは周知の通り。そのときも、評論家の多くが、「ケリーの追い上げ」はすごい、と言っていた。政治家が選挙で「追い上げる」とはどういうことなのか想像しにくいが、まだまだブッシュ勝利を宣言するには早そうだ。

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September 03, 2004

米共和党大会:一夜明けて

タイム誌が共和党大会中に取られた最新の世論調査を発表。ブッシュ氏52%、ケリー氏41%と、ブッシュ氏が10ポイント以上の大幅リード。(ちなみにネーダー氏は3%。)

一方、ケリー氏はブッシュ大統領の受諾演説直後に反撃の演説をした、と昨日書いた。演説の内容はメディアに発表されていたのでそれだけコメントしたのだが、演説を実際聴いてみたら、声を荒立てたり、とちったり、何とも荒削りな演説だった。スピーチライターが何ヶ月も準備し、演出にも万全を期したブッシュ氏の演説(実際それだけのことはある効果的な政治スピーチだった)の後に、素人仕事のような演説をぶつけるというのはなんともお粗末な作戦だった。こう感じたのは自分だけではなかったらしい

ケリー陣営は、ブッシュ側の個人攻撃にどう対応するかで内部が割れていて、ケリー氏が選挙本部長をクビにするという噂も絶えない。そんなでケリー氏の陣営は完全に後れを取っている。もっとも、ケリー氏も去年の10月頃は低迷しており、前の選挙本部長をクビにしてから一気にアイオワ、ニューハンプシャーと勝利したという経歴があるから、今回もこれからカムバックがあるのかもしれない。

共和党大会で何が語られ、何が語られなかったのかは、選挙の勝ち負けにはそれほど関係ない。ただ、選んだ人物の政策のつけを払うのはアメリカ国民なのだ。

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September 02, 2004

米共和党大会:大統領の演説

 ブッシュ大統領の演説について独断的な印象批評を短く。

●私は、9・11テロの後、(アフガン戦争とか言うずっと前)信条や立場の違うアメリカ人が一つになって助け合っていたのを目の当たりにして、アメリカ人が持っている強さ、良さに触れたような気がしたのをよく覚えているので、大統領が、その頃のアメリカ人一人一人の強さについて語ったとき、よく分かった気がした。私はこういうのには弱い。
●アメリカの外交については、「自由」の五段活用。アメリカのナショナリズムの核の一つである「自由」をさまざまなアングルから語っていた。目新しいものはなかったが、彼らの「自由」の信念の深さ、複雑さを感じた。アメリカの「自由」は間違ってはいないが万能ではないと思う。

●国内政策については、新しいプログラムがいくつか。大学生に奨学金? 貧しい地域に病院? こんなに新しいプログラムを始めて財政赤字は減らせるのだろうか? そういえば財政赤字については一言もなし。それから、弁護士をしきりに攻撃していた。民主党が負けたら弁護士業界は干されるな。

●「独裁が民主主義になった」例として日本を挙げるのはいい加減やめてほしい。

さて、ケリー氏は、この共和党大会の直後、午前0時から演説を行った。再三の攻撃に、ケリー氏も負けてはいない。早速、チェイニー副大統領の「ケリー氏には大統領になる資質がない」という発言に反抗して、チェイニー氏を「従軍忌避を5回した男」と呼んで反撃。やじ馬には面白い展開になってきた。

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米共和党大会:ミラー上院議員の怒り大爆発

共和党大会についてブログを書いてるひまがあったら、もっとやるべきことがあるだろ。Get a life. >自分

それはともかく、3日目。なんといっても注目は民主党上院議員のゼル・ミラー氏。この人は南部ジョージア州選出のベテラン議員なのだが、この選挙では去年辺りからブッシュ大統領の支持を表明。共和党も大歓迎、ということで大統領演説の前日、副大統領の直前という最高のスポットを与えられた。しかし、彼の演説にはびっくり。
この人、9・11後は特にブッシュ支持を鮮明にしていたのだが、その前からもここ数年の民主党のあり方に業を煮やしていたらしい。彼がブッシュ支持に傾いたのには、アメリカ北東部のリベラルが主導する民主党路線についていけない南部の庶民派の民主党員、という地域間のギャップもあるらしい。さて、演説の前に、彼を知る地元アトランタの新聞論説委員が「彼は選挙戦では相手を激しく攻撃するよ」と言っていたのだが、この日の演説では怒りを大爆発させた。

まず、自分の家族の話から始め、「私にとっては自分の党よりも私の家族を守ることが大事だ」と言った。それから、民主党、とくにケリー氏への激しい攻撃を始めた。圧巻は、ケリー氏の上院議員としての経歴を攻撃したあたり。ケリー氏が反対票を投じた軍事プログラムを列挙して、それらがいかに湾岸戦争やイラク戦争に貢献したかを列挙する辺り。

The B-1 bomber, that Senator Kerry opposed, dropped 40% of the bombs in the first six months of Operation Enduring Freedom.

The B-2 bomber, that Senator Kerry opposed, delivered air strikes against the Taliban in Afghanistan and Hussein's command post in Iraq.

The F-14A Tomcats, that Senator Kerry opposed, shot down Khadifi's Libyan MIGs over the Gulf of Sidra. The modernized F-14D, that Senator Kerry opposed, delivered missile strikes against Tora Bora.

The Apache helicopter, that Senator Kerry opposed, took out those Republican Guard tanks in Kuwait in the Gulf War. The F-15 Eagles, that Senator Kerry opposed, flew cover over our Nation's Capital and this very city after 9/11.

I could go on and on and on: Against the Patriot Missile that shot down Saddam Hussein's scud missiles over Israel, Against the Aegis air-defense cruiser, Against the Strategic Defense Initiative, Against the Trident missile, against, against, against.

そしてこう締めた。"This is the man who wants to be the Commander in Chief of our U.S. Armed Forces? U.S. forces armed with what? Spitballs?" (「彼がアメリカ軍の総指揮官になりたいんだと言っている。アメリカ軍は何で武装するの? 紙つぶてか?」)

他にも、
○アメリカ軍を、自由をもたらす「解放者」ではなく「占領軍」と呼ぶ奴は私は許せない。
○表現の自由を与えてくれるのは米軍である。しかし、民主党の連中はアメリカは問題であってもその解決ではないと言ってはばからない。
○上院議員なら20年間間違い続けても許される。しかし、総指揮官の決断は国を誤る。
○ケリー氏は国連の議決なしにはアメリカ軍を動かさないと言っている。アメリカの安全をフランスにゆだねるのか。
などと、元海兵隊らしく直立不動の姿勢からまくしたてた。もちろん会場は大喝采。"USA! USA!" の大合唱。

「ケリーに私の家族の安全を任せられない」という、知性よりはハートに訴える演説だった。テレビで見ながら、戦前育ちのおじいさんに一喝入れられたような気分になった。思わず姿勢を正したくなった。

しかし、演説が終わってからが大変だったらしい。CNNMSNBCなどのニュース番組に出演した後も怒りが止まらず。(リンクは番組のテキスト起こし)とくにMSNBCでは、ホストの「アメリカ・テレビ界の田原総一朗」ことクリス・マシューズが、
「紙つぶてで戦うって、どういう意味ですか」
と執拗に聞き続けるのに対し、
「お前の顔なんか見たくもない。質問したなら答えさせろ」
「時代が違えば決闘を申し込んでいるところだ」
などと大激怒。上のテキスト起こしに、二人のやりとりから、ミラー氏が去った後の気まずい雰囲気まですべて残っている。

この演説にアメリカ国民がどう反応するのか、少々予想しづらいところがある。アメリカのブログ界の反応は賛否両論。(ここここによくまとめてある。)感情的なレベルでは、彼の言いたいことはよくわかる。民主党も共和党も一致団結して国を守った昔とは違い、戦時中でも大統領を平気で侮辱する今の風潮に違和感を覚えている世代の一員の魂の叫びと言うところだろう。「家族を守るためなら」という訴えを聞いて、やはりケリー氏じゃやばいかも、と思う人々も多いかもしれない。日本の保守派の人でも、彼のような骨のある政治家がいてほしい、と思う人もいるだろう。

一方、少し考えてみると、彼の演説には問題が多い。この議員、1992年にはクリントン大統領を推す基調演説をしており(その時の会場は皮肉にも今回と同じマディソン・スクエア・ガーデン)、またつい3年前にはケリー氏を褒めちぎった演説もしている。昔彼が言った言葉と今回の演説を並べてみると、ジキルとハイドというか、この人は相手を攻撃するためなら何でも言うのか、という印象すら受ける。

また、これはテレビの評論家も演説直後に指摘していたのだが、今回の演説には誇張というかうそも多い。ケリー氏が「国連の議決なしには軍事行動をしない」と言ったのは30年以上も前のことだという(参考)。むしろ、1ヶ月前の演説で全く反対の立場を表明している。また、これは議会のしくみを考えればわかることだが、B-1爆撃機を含む予算案に反対票を投じたからといって、B-1爆撃機配備に反対しているとは言えない。規模を多少縮小すれば賛成する、という前提に反対することもあるからだ。また、チェイニー副大統領が国防長官の時に、これらの軍事プログラムを縮小・中止する予算案を組んでいたらしい。となると「紙つぶて」論もあまり説得力がない。

また、日本人の立場から言えば、米軍がつねに「解放軍」であって、「占領軍」と呼ぶことすら許されない、という人との間には深い溝を感じてしまう。まあ、日本とアメリカが深いところで価値観を共有するのは無理と思った方がいいのかもしれないが。

結論。アメリカのブロガーの間では、「ファシスト」と当時言われた1992年のパット・ブキャナンに並ぶ愚劣な演説という評価と、「ブッシュ憎し」のリベラルの発言と比べたらまだまし、むしろよく言った、という意見に分かれているようだ。

ここからは私見。
この3日間、ブッシュ政権の「成果」についてあまり聞いていない。現在の景気についてはだれも触れない。また、「テロの戦い」の重要性はわかったが、イラク戦争の誤算、誤りについては触れていない。例えばアブグレイブ刑務所の拷問など。それから、フランスはどうでもいいから(失礼)、アラブ世界との関係をどう修復するのか、説明して欲しいと思う。この4年間、特に9・11テロ後はほぼやりたいようにやったんだから、結果を見せてほしいという気がする。それが説明責任だと思う。しかし、例えばチェイニー氏には、ケリー氏やエドワーズ氏にはない安定感がある。何でこの人ネオコンになってしまったのだろうか。(ワシントン・ポストでは、ラムズフェルド氏とパウエル氏が引退したら外交がかなり穏健になると予想している。)

一方、ケリー氏はよくわからない。よくわからないままに国民が選んだら、後で相当混乱する気がする。

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September 01, 2004

ブレア首相はケリー支持?

No. 10's silent support for Kerry (Guardian)

ブレア政権の閣僚であるハイン氏が、(私的)NY訪問中にケリー陣営と接触し、ブレア政権ではケリー氏が勝利することを望んでいると非公式に伝えた、という記事。ブレア氏といえばアフガン戦争・イラク戦争を通してブッシュ氏の最大のパートナーであったはずなのだが、ケリー氏勝利の場合を見越して手を打っておこう、ということらしい。もちろん、英国政府としては公式には中立の立場を貫くのだが、労働党内からは、ブッシュ政権を批判しろと言う圧力がブレア氏にかかっているらしい。
この記事では、ブレア支持グループの出版物の論説記事を引用している。

By his manner, his rhetoric and sometimes his actions George Bush has presented to the world an image of America that its friends know is not its true face. That is why those who recognise that American leadership is vital and a force for good in an uncertain world will wish John Kerry well.
いま米国のリーダーシップを支持をしている国でも、アメリカの将来を考えたらケリー氏を支持しましょう、ということか。

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米共和党大会:シュワルツェネッガー氏が共和党員な理由

2日目。シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事が登場。去年の州知事リコール選挙で勝ったときは、単なるタレント候補くらいに思っていたが、前知事のもと機能不全に陥っていた州政府に乗り込んで以来、州議会議員によるとおおむねよくやっているらしい。彼はオーストリア生まれなので現行憲法では大統領になれないが、憲法改正されれば一気に有力候補になることは間違いない。事実、彼自身そのような憲法改正を支持しているらしい。そういうわけで、短期間に共和党のスター政治家になった。

90年代の始め頃、アメリカ人の友人(20代)が、「シュワルツェネッガーは大統領になれるんじゃないかな」と言っていた。私は彼の映画は余り見ていなくて、日本のテレビのCMでしか知らなかったので、彼に日本のカップヌードルのCM(シュワルツェネッガーがやかん2つを手に持って体操しているやつ)を説明してあげたら、「そんなのはアメリカでは絶対放送しないな。イメージが狂うから」と返事された。
シュワルツェネッガー氏の政界進出は、思いつきというよりは、かなり前から準備されていたらしい。彼の奥さんであるTVキャスターのマリア・シュライバーはケネディ一族の一員(ケネディ元大統領のめい)だから、シュワ氏も民主党とのつながりが強そうなのだが、実は、かなり昔から共和党ともつながりが深いらしい。昨日TVでデーヴィッド・ブルックスが言っていたが、彼は若い頃経済学者ミルトン・フリードマンの著書に心酔し、かなり前からフリードマン自身とも親交があったらしい。フリードマン氏は小さい政府、レッセ・フェール政策の支持者として知られるが、その辺りが彼の政治信条の中心になっている。

そして、今回の演説。(全文はこちら)彼のような移民一世に向けたメッセージという色合いが強かった。移民は民主党を支持する傾向があるが、私のように共和党に加わらないか、という勧誘である。共産主義の影におびえて育ったオーストリアの子供時代から説き起こして、共産主義を打ち破った自由な国・アメリカを賞賛する。それから、1968年、アメリカに来たばかりの頃、「共産主義」みたいなことを言っている民主党候補よりも、ニクソン大統領の演説が気に入って、彼が共和党員なら「おれも共和党員(リパブリカン)だな」と友人に語った、というところで拍手喝采。

それから、「共和党の言っていることすべてに賛成しない人もいるかもしれない」と言う。彼はどちらかというと民主党寄りの政策も多いので、自分のように、100%共和党に賛成しなくても、共和党員になれる、と言うわけだ。その上で、彼が共和党の中心思想だと思うことをいくつか挙げている。

If you believe that government should be accountable to the people, not the people to the government, then you are a Republican! If you believe a person should be treated as an individual, not as a member of an interest group, then you are a Republican! If you believe your family knows how to spend your money better than the government does, then you are a Republican! If you believe our educational system should be held accountable for the progress of our children, then you are a Republican! If you believe this country, not the United Nations, is the best hope of democracy in the world, then you are a Republican! And, ladies and gentlemen, if you believe we must be fierce and relentless and terminate terrorism, then you are a Republican!

もし国民が政府に説明責任があるのではなく、政府が国民に説明責任があると思うならば、あなたは共和党員だ。
もし人がある利益団体の一員としてでなく、個人として扱われるべきだと思うならば、あなたは共和党員だ。
もし政府よりも各家庭のほうがお金の使い方をよく知っていると思うならば、あなたは共和党員だ。
もし子供の教育の進み具合について教育機関に説明責任があると思うならば、あなたは共和党員だ。
もし世界の民主主義の最大の希望は国連ではなくアメリカにあると思うならば、あなたは共和党員だ。
そして、もしテロリズムを撲滅するためには強く、徹底的でなければならないと思うならば、あなたは共和党員だ。

ここに表されている、「小さな国家」、「競争原理」、「徹底的な反テロ政策」などの思想は、典型的なリバタリアン思想である。中絶、ゲイ結婚などの社会政策の問題には一言も触れていない。彼は、そのような社会・文化政策には政府は関与すべきでないと考えているからだ。これもリバタリアンの考え方と合致する。ブッシュ政権は、社会政策でもかなり右よりの政策を打ち出しているが、そのような政策に違和感を覚えている穏健派も、このような内容なら共和党に一票入れても言いと思うかもしれない。この辺の割り切り方が、リベラル色の強いカリフォルニア州で彼が高い人気を保っている秘密だろう。

シュワルツェネッガー氏の演説は地上波でもプライムタイムで放送されたので、多くの人が見たと思う。この演説を見て、ブッシュ大統領に入れてもいい、と思った人も多いかもしれない。ただ、シュワルツェネッガー氏の描く民主党像と、ブッシュ政権の政策が今ひとつつながらない、というのは事実。ブッシュ大統領の政策は、手厚い社会保障、その結果の財政赤字の増大など、共和党らしくない政策も多いし、社会政策はキリスト教保守派の言うことを聞くことが多い。それで、Slate.comのコラムニストが、「シュワルツェネッガー氏を支持しても必ずしもブッシュ氏に投票すべきではない」理由について記事を書いている。このコラムニストの言葉で言えば、"Yes on Schwarzenegger. No on Bush"となる。「シュワルツェネッガー氏なら支持してもいい」と思っている層をまとめきれないとしたら、ブッシュ大統領再選のための強力なカードを失うことになると思う。

2日目雑感。
○ブッシュ氏の双子の娘、今時の大学生という感じだった。けっこうありのままの姿で出ていたけど、いいんだろうか、あれで。親とTVを見ていて突然エッチなシーンが出てきた時のような気まずさが会場を覆っていた。

○ついでにブッシュ氏のおい(兄ジェブの息子、ジョージ・P・ブッシュ)登場。ヒスパニックのハーフ。女性ブロガーの間では「かっこいい」との評判が。それから、ミス・アメリカやら、タレントのエリザベス・ハッセルベックなども登場。共和党支持者には若くて美形も多いと言うことをアピールしたかったのか? それから、シュワルツェネッガー氏の演説の途中に、女優のヘザー・ロックリアが写ってた(と思う)。

○メリーランド州のマイケル・スティール副知事。黒人の若手と言うことで、さしずめ共和党版バラック・オバマといったところ。彼も、「共和党の保守原理を擁護する感動的な演説をしようと思っていたら、バラック・オバマ氏にやられてしまいました」とか言っていた。オバマ氏の演説がけっこう正統保守的な内容だったことにたいする皮肉かも。彼の演説も良かったが、いまいち共和党の現実と乖離している気がした。

○ローラ夫人の演説は見ていない。

それから、nytimes.comには演説の全文テキスト・ビデオが見られる便利なページがある。(登録必要)

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August 31, 2004

この大統領で大丈夫?

共和党大会の開催中、ブッシュ大統領の「テロ戦争」の定義を巡ってちょっとした問題が。リベラル系の有名ブログTalking Points Memoが追っかけている。
 問題になっているのは、この1か月のブッシュ大統領のテロ戦争に関する発言。このサイトを参考に、少し時系列順に追ってみよう。

2004年7月30日・ブッシュ大統領

"We have a clear vision on how to win the war on terror and bring peace to the world."

われわれには、テロに対する戦争に勝ち、世界に平和をもたらすための明確なビジョンがある。

8月29日・ブッシュ大統領、NBCのインタビューにて。
"I don’t think you can win [the war on terror]. But I think you can create conditions so that the — those who use terror as a tool are — less acceptable in parts of the world.”

[テロ戦争に]勝てる(win)とは思わない。でも、世界の一部で、テロを道具に使うような連中が受け入れられないような条件をつくることは可能だろう。

エドワーズ副大統領候補の反応。
After months of listening to the Republicans base their campaign on their singular ability to win the war on terror, the president now says we can't win the war on terrorism. ... This is no time to declare defeat--it won't be easy and it won't be quick, but we have a comprehensive long-term plan to make America safer.

数ヶ月間、共和党が、対テロ戦争に勝つというそのことだけを中心に選挙戦を戦ってきた後で、大統領は対テロの戦争に勝てないと言った。今は、敗北宣言をするべき時ではない。簡単ではなく、すぐには勝てないかもしれないが、われわれ(民主党)にはアメリカを安全にするための包括的な長期プランがある。

8月31日、ブッシュ大統領。
"We meet today in a time of war for our country, a war (i.e., the war on terror) we did not start yet one that we will win."

今日、わが国は戦時中にある。この戦争(テロに対する戦争)はわれわれが始めたものではないが、われわれは勝利する。

8月31日、ブッシュ大統領。

I should have made my point more clear about what I meant. What I meant was that this is not a conventional war. It is a different kind of war. We're fighting people who have got a dark ideology who use terrorists, terrorism, as a tool. They're trying to shake our conscience. They're trying to shake our will, and so in the short run the strategy has got to be to find them where they lurk. I tell people all the time, "We will find them on the offense. We will bring them to justice on foreign lands so we don't have to face them here at home," and that's because you cannot negotiate with these people. And in a conventional war there would be a peace treaty or there would be a moment where somebody would sit on the side and say we quit. That's not the kind of war we're in, and that's what I was saying. The kind of war we're in requires, you know, steadfast resolve, and I will continue to be resolved to bring them to justice, but as well as to spread liberty ... There's no doubt in my mind, so long as this country stays resolved and strong and determined, and by winning, I just would remind your listeners that Pakistan is now an ally in the war on terror.

[抄訳]私が言いたかったのは、この戦争は通常の戦争ではないと言うことだ。敵は、テロリズムを武器にわれわれの意志をそごうとしている。だから、彼らをまず見つけて、攻撃しなければいけない。また、普通の戦争なら、平和条約やら、降伏やらということがあるが、今回は、固い意志が必要なのだ。だから、この国が意志を堅く、強く持ち続けるならば、間違いない。勝つと言うことについていえば、パキスタンが対テロ戦争の見方となったことを思い出して欲しい。(特に英語の最後の一文は文法的にブロークンで正確な意味は不明。)

8月31日、マクレラン大統領報道官
"This is an unconventional war with an unconventional enemy, I don't think there'll be a formal surrender or a treaty signed. ... We will prevail in the war on terrorism."

この戦争は通常の敵に対する、通常の戦争ではない。だから、公式な降伏や条約締結と言うことはないだろう。しかし、対テロ戦争において、われわれは最後には勝利(prevail)する。

この通り、ブッシュ大統領が「テロ戦争には勝てないかも」と言った一言から、大統領は釈明に追われている。対テロ戦争は「勝てるとは思わない」のか、「勝つ」のか、「平和条約締結しないから通常の意味で勝つとはいえない」のか、よくわからない。最後の大統領報道官の釈明も、winはできないがprevailするだろう、というのは詭弁のようなものだ。
 しかし、一連の発言をざっと読んでみると、これは単なる失言というだけでなく、この大統領のほとんど唯一のセールスポイントである「対テロ戦争」を戦い抜くだけの理解力・知識が彼にはあるのか、という疑問を投げかけている。テロ戦争には賛成派のAndrew Sullivanも、この大統領は「テロ戦争をどう戦うのか」という概念的な理解があるのだろうか、と書いている。「おれたちは負けないよ」だけで勝てるほどこの戦争は甘くはないのだ。
 それと、ブッシュ大統領が自らの誤りを認めたがらない、ということも関係していると思う。間違いを認めまいとしてどんどん泥沼にはまっているように見えるが。
 民主党がこの一連の映像を使ったら、結構致命的なTV広告が作れるかもしれない。ケリー候補が「私は、[イラク戦争の追加予算に]反対票を投じる前に、賛成票を投じた」と選挙演説で言った場面を、共和党員は「意見をコロコロ変える候補」というイメージを定着させるためにTV広告やら演説にフル活用しているが、今回のは、意見を変えているだけじゃなくて、本当に言ってることわかってるの? と聞かざるを得ない内容だからよけいにたちが悪い。これからの選挙戦に大きな影響があるかもしれない。

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August 30, 2004

米共和党大会1日目:タイムトリップ

オリンピックは終わったが、今週は共和党全国大会が続きます。民主党大会に続いて、感想など書いていく予定にしています。

今日は、マケイン上院議員、ジュリアーニ元NY市長と、穏健派にも人気のある共和党のスターが登場。
マケイン氏は2000年の大統領予備選でブッシュ氏と激しい争いを演じており、今年も民主党員がケリー氏の副大統領候補にしようとしたりして動向が注目されていたのだが、この2、3週間はブッシュ氏の応援演説に立ったりして、協力関係を強調している。じっさい、今日のスピーチの後(火曜日)マケイン氏は遊説中のブッシュ氏に合流。またブッシュ氏の演説(木曜日)の翌日、ブッシュ氏に同伴するのはチェイニー副大統領ではなくマケイン氏である。このため、マケイン氏がチェイニー氏に代わって副大統領候補に立つのでは、というすら立つほどの突然の蜜月関係である。(演説後のインタビューではこの噂をやんわり否定していた。)

さて、民主党大会と同様、この共和党大会でも中間層にどれだけアピールできるか、なのだが、民主党が「強いアメリカ」を強調して安心感を持たせようとしたのに対し、共和党の今日の演説では9・11のテロの後にアメリカ国民が感じた一体感、愛国心を思い出させようとしていると感じた。テロ事件の犠牲者家族が登場(ペンシルベニアに墜ちた旅客機の乗客でテロ犯人と素手で戦った人の夫人も演説した)したのももちろんだが、マケイン氏やジュリアーニ氏の演説でも「あの時、民主党も共和党もなく、われわれは皆アメリカ人だった」というフレーズを繰り返していた。

マケイン氏が「あの9月11日の朝、雲一つない快晴の日、あの恐ろしい事件が起こった…」と言ったとき、私もあの日のことを思い出していた。(私は当時ニュージャージー州在住)日本の親からの電話で起こされ、事件のことを知り、学校に行った。学校の講堂には特別にニュース番組が映されて、大勢の人々が集まる中、2機目の飛行機が衝突した。あまりにもリアリティのない画面に、なにが起こっているか把握できたのはその日のずっと後だった。

まああの事件は世界中の人々にとってショッキングだったことに違いないと思うのだが、あのときの記憶を喚起しようとしているのはわかった。ジュリアーニ氏は、事件後数日のブッシュ大統領と現場の人々との交流、ボストンやシカゴなど他の都市の市民の協力などのエピソードを紹介しながら、大統領を中心に一つにまとまったあのテロ事件の直後の雰囲気をつくろうとしていた。まあ、あの時は大統領はよくやったと思っている人は民主党にも多いと思う。

また、二人ともテロ戦争の歴史的意義を強調していた。二人とも、2001年より前のテロ事件の例などを挙げながら、9・11以後の反テロ戦争を大きな文脈においていた。「この戦争はまだ始まったばかりかもしれないが、この戦いに負けるわけにはいかない」というマケイン氏のメッセージは、選挙演説というよりは、アメリカ国民全体に、なぜこの戦争をやっているかを改めて説得するような口調だったように思う。マケイン氏の結びの文句を引用しておく。

Take courage from the knowledge that our military superiority is matched only by the superiority of our ideals and our unconquerable love for them. ... We fight for love of freedom and justice--a love that is invincible. Keep that faith! Keep your courage! Stick together! Stay strong! Do not yield! Do not flinch! Stand up! Stand up with our President and fight! We're Americans! We're Americans and we'll never surrender! They will!
このメッセージも、9・11テロの直後の混乱から、アフガニスタン戦争に向けて国全体がシフトしていった、3年前のあの頃の雰囲気を思い出させるものだった。一瞬、まるでイラク戦争など起こらなかったような錯覚に陥るほどだった。

マケイン氏の演説は結構落ち着いたもので、ケリー氏の個人攻撃はなかった。個人攻撃に陥りやすい共和党員をたしなめるような場面もみられた。(マイケル・ムーア氏を「あの不誠実な映画監督のように…」と批判したときには会場全体が盛り上がったが。彼も会場にいて、カメラに向かってピースサインをしていた。)むしろ、「反テロ戦争」の意義を強調することで中間層に団結を訴えるという方向性だった。いっぽう、ジュリアーニ氏の演説は内輪向きの性格が強かった。結構はっきりとケリー氏の「あいまいさ」を批判して、共和党員の喝采を浴びていた。まあそういう役割分担だった、ということか。

一つ、ジュリアーニ氏の演説から印象に残った言葉。「共和党の考えがいつも正しいわけではないし、民主党がいつも間違っているわけではない。でも、ある歴史の段階においては、より必要とされる考えというのがあるのではないだろうか。」さて、今のような時代に「より必要とされる考え」とは何だろうか。

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August 28, 2004

接戦になってきた大統領選

つい2、3日前に「このままでいけばケリー」なんていうタイトルでエントリを書いたばかりなのだが、世論調査を見ると大統領選はだいぶ拮抗してきた。Electoral Vote Predictor によると、ケリー氏が選挙人270人の予想に対してブッシュ氏が259人。このサイトではコロラド州が全くの同点としているが、この州がブッシュ氏に傾くとすると270対268と2票差になる。アメリカの選挙制度では選挙人1人くらいはどうにかなる。例えば、メイン州は現在ケリー氏優勢だが、州法により敗者が選挙人の一部を取ることがある。だから、これはほぼ互角のレースと言っていい。これだけ接戦になってきたのは、フロリダ州やオハイオ州に加え、ミズーリ州、アリゾナ州、ウィスコンシン州がブッシュ氏優勢となったためである。
接戦になってきた理由は、ブッシュ陣営のネガティブ・キャンペーンが効いてきたということらしい。「ベトナム退役軍人の団体」がケリー氏の軍歴には嘘があるという趣旨のテレビ広告を流して、これがここ数日論争を起こしている。この団体、ブッシュ陣営は「独立の政治団体が勝手にやっていること」といっていたが、実はブッシュ選挙本部の弁護士が関与していて辞職することになった。また、この広告の内容はワシントン・ポスト紙などが検証してほとんどが根拠のないものとわかったが、ケリー陣営がきちんと対応していないこともあって、「やっぱりなにかおかしいんじゃないか」という雰囲気が残ってしまっている。そんな雰囲気がこうして数字に表れて来ているんだと思う。

選挙戦略という意味では、経済情勢、イラク戦争などこれだけ現職大統領に不利な条件の中でブッシュ氏の数字が上がってきているのは驚異的である。一方、ベトナム戦争に行ったケリー氏の軍歴を、戦争を忌避したブッシュ氏やチェイニー氏が攻撃するというのは、なんとも後味の悪いものがある。共和党の退役軍人にも、ちょっとやりすぎではと思っている人は多い。例えば、1996年にクリントン大統領に敗れたドール氏が、ホワイトハウスから「共和党の退役軍人をまとめてくれ」と依頼されているらしいが、ドール氏は、ケリー氏を攻撃するならやらないよ、と言っている。(この件の詳細についてはこちらのワシントン・ポストのコラムが詳しい。)ワシントン・ポストには、ここ数日、「退役軍人の個人攻撃はやめとけよ」という趣旨のコラムが次々と載っているのが興味深い。それも、元軍人、あるいは上級官僚や政治家などの大物が書いているものが多い。(これこれ)一見、世論調査とは逆を行っている。

来週の月曜日から共和党全国大会が始まるが、共和党の戦略はだいたい次のようになると予想される。
○シュワルツェネッガー州知事やジュリアーニ元市長など、社会政策では穏健で人気のある政治家を前面に出し、共和党の懐の広さを見せつつ、中間層を呼び込む。
○民主党の上院議員ゼル・ミラー氏が、党の枠を越えて異例のブッシュ氏支持演説をする。多分、ケリー氏の上院議員時代の経歴を挙げながら、ケリー氏の安全保障政策の矛盾を指摘するだろう。民主党大会で、この人は「テロ戦争に真剣に取り組むというなら、なぜイラク戦争の追加予算に反対したのか?」などとケリー氏を批判していた。
○9/11テロ直後、ブッシュ大統領が見せたリーダーシップのイメージを協調するだろう。
ブッシュ氏というと、頑固というか、あいまいさのない信念の持ち主というイメージが売りなのだが、このイメージは裏返すと寛容でない、とか融通が利かないというネガティブなイメージにもなりうる。こういうイメージに対抗して、「共和党にもいろいろな人がいますよ」ということを売り込む場になるのではないだろうか。さて、どういう結果になるか。

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August 24, 2004

このままでいけばケリー

米大統領選について。
共和党大会を来週に控えて、興味深い分析が。
"Writing on wall for another one-term Bush" (The Sunday Times - リンクは The Australian)
この記事(著者はこのblogにも何度か登場したAndrew Sullivan)によると、ワシントンインサイダーとして選挙分析には定評のあるCharlie Cook氏が早々と「この後、よほど選挙の基礎的な諸条件が変わらない限りケリーが勝利するだろう」と予測しているらしい。
この記事の分析内容をまとめてみる。
●勝負を決すると言われる「決戦州」のほとんどで、ケリー氏がリードを固めつつある。特に、大票田のフロリダでは47% vs. 42%とリード。一方、これらの州のうちブッシュ氏が大差でリードしている州は一つもない。南部のノース・キャロライナでもわずかにリードしているだけ。
●まだ誰に投票するか決めていない層(未決層)で、ケリー氏はブッシュ氏を大きくリード(49% x 31%)しているから、ブッシュ氏は今後の票の伸びが見込めない。
●今回の選挙での争点を聞くと、ブッシュ支持者は「テロ戦争」、ケリー支持者は経済など国内問題が1位になっているが、未決層も経済問題が1位。つまり、未決層はケリー支持者のような投票行動を見せると分析されている。(「経済が一番の争点」と言う有権者の間ではケリー氏が断然リードしている)
●前回ブッシュ氏に投票した州ではブッシュ氏のリードが減少している一方、前回ゴア氏に投票した州ではケリー氏のリードが増大している。
この結果、ブッシュ氏は数字に表れている以上に不利な情勢になっている。ブッシュ氏が勝つためには、「選挙日直前の世論調査で、大きくリードするか、少なくとも3%以上のリードが必要」とこのアナリストは言っている。

さて、ブッシュ氏が挽回するにはどうしたらいいか。選挙戦略としては、保守層にさらなる支持を訴えるか、穏健派へ手を差し出すか。どちらにしても、戦略としては手詰まりという感じがする。保守層はすでに堅くまとまっているから大きな伸びは期待できないし、穏健派も、あれだけ疎外しておいていまさら打つ手もないだろう。とすると、選挙の力学を全く変えるような「事件」が起こらない限り、このままケリー勝利、というわけである。選挙ウォッチャーとしては、票読みの段階は終わって、そんな「事件」をウォッチする段階にさしかかってきた、ということだ。

このブログの右側パネルには、州ごとの世論調査を分析したサイトのバナーを貼っているのだが、このサイトの情勢分析でも、ほとんどの決戦州でケリー氏優位となっているので、この分析とも合致する。今日の新聞では、ケリー氏の軍歴疑惑についての報道が多かったが、この一件も、ケリー氏の履歴の事実関係という側面と、容赦ない個人攻撃をするブッシュ氏の政治倫理という側面があるため、ケリー氏がよほどへまをしない限り痛み分けという気がする。実際のところ、ケリー氏陣営は「ミスをしない」ことを最優先に対応をしている気がする。サッカーに例えるなら、後半40分、1点リードのケリー氏がボールキープしながら安全第一にプレーしているという状況だろうか。

追記:大統領選関連の記事は "U.S. Election 2004" のカテゴリにまとめました。ページ右側の "Categories" からご覧下さい。

追記2:ブッシュ氏がこれ以上支持を伸ばすのは難しい、という分析はここにもある。(salon.com)

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July 30, 2004

エドワーズ氏と弁護士ロビー

DNC Delegates pay $120 each to protect them from Edwards' funders (Wonkette)

今回の米民主党大会で、主催者は総額240万ドルの責任保険をかけているという。参加者1人換算で120ドル。責任保険 (liability insurance) というのは、被保険者に対して損害賠償の責任が生じたときに支払われる保険。要するに裁判沙汰になって負けたときのための保険なのだ。なぜこんなに保険が高額かというと、今回の民主党大会には特に弁護士の参加者が多いためだと噂されている。石を投げたら弁護士に当たる、というか、石を投げて弁護士に当たったら訴えられる、ということらしい。そのための保険料が1人あたり120ドル、というのはすごい。(元記事はNYTのブログのエントリ)さて、弁護士が多く出席しているのには、エドワーズ副大統領候補が元法廷専門弁護士だったことに関係がある。
ケリー/エドワーズの選挙運動に最も多額の献金をしているのは、弁護士業界である。ワシントン・ポスト(Thomas B. Edsall, James V. Grimaldi and Alice R. Crites, "Redefining Democratic Fundraising", Washington Post, Jul. 24)ではこう報じている。

Lawyers, especially trial lawyers, are the engine of the Kerry fundraising operation. Lawyers and law firms have given more money to Kerry, $12 million, than any other sector. One out of four of Kerry's big-dollar fundraisers is a lawyer, and one out of 10 is an attorney for plaintiffs in personal injury, medical malpractice or other lawsuits seeking damages.

興味深いのは、ケリー氏に献金している弁護士の多くが、大企業、病院相手に個人を代表して損害賠償を求めるタイプの弁護士だということ。その代表が、フレッド・バロンという法廷弁護士で、ケリー/エドワーズの選挙本部長に最近就任したのだが、彼も環境汚染絡みである市が石油会社を相手取って起こした訴訟に関わったばかりである。(バロン氏についてはこのブログのエントリが詳しい。)このワシントン・ポストの記事には、他にもケリー陣営に10万ドル以上献金した人のリストの中で、たばこ会社やら医者の誤診に関わる訴訟に関わった弁護士の名前がぞろぞろ出てくる。
 さて、なぜこういう損害賠償訴訟の弁護士がケリー/エドワーズを支持するかというと、エドワーズ自身がまさにこの手の弁護士だったからである。この件についてABCテレビのジャーナリスト、ジョン・ストッセルがレポートしている。このレポートによると、エドワーズ自身が損害賠償訴訟に多く関わっていて、特に医者の誤診に関して何百万ドル級の賠償金がかかった大型訴訟に関わっていた。エドワーズ氏が特に力を入れていたのは、赤ちゃんの中風に関わる訴訟。「医者が帝王切開をしていれば中風は防げた」という議論で医者を訴えては勝訴していたという。実はこの論には現在医学的な裏付けはないそうだが、この手の訴訟が次々起こったためアメリカでは医者が不必要な場合でも帝王切開を選ぶケースが増えたという。(面白いのは、このレポートが放送されたとき、メインキャスターが「ABCテレビはこのレポートの内容に責任を持ちません」とコメントしたということ。ABCは民主党よりなのか、それとも彼らも訴訟が怖いのか?)ともあれ、不必要な帝王切開が増えているとしたら、出産する女性としてはたまったものではない。
 弁護士がこういう過去を持つエドワーズ氏を支持する理由の一つには、弁護士のイメージ向上があるだろう。エドワーズ氏が「私はずっと中流家庭のために戦ってきた」と演説で言うとき、その意味は上のような訴訟に関わったということであるから、同業の弁護士にとってはこれ以上の宣伝はない。(確かにたばこ会社やら石油会社相手の訴訟というといいことをしているイメージがあるが、ABCのジャーナリストが言っているように、訴訟をおそれての不必要な手続きでサービスに歪みが生じたり、訴訟対策のコストがかかったりする。また、大型賠償金が出る訴訟では、弁護士が賠償金の数%を受け取る契約になっていることが多いから、弁護士が多額の収入を手にすることは言うまでもない。)また、アメリカ政治の常として、献金には見返りがあるだろうから、ケリー/エドワーズ政権がこうした法廷専門弁護士を優遇する政策をとることも十分予想される。民主党が政権を取ったら在米日本企業に対する訴訟が復活するのではないかという懸念が出ているが、エドワーズ氏の保護貿易路線とともに、このような点も注視していく必要があるだろう。

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July 29, 2004

米民主党大会:3日目

エドワーズ氏の演説。まず奥さんが登場、彼が地元の教会に関わったり、ボランティア活動をしたりという庶民性をアピール。また、結婚27年という円満な結婚生活をアピール。(これは保守層に安心感を与える。)「結婚記念日は毎年ウェンディースで祝っています。やっぱり、どこに行くかじゃなくて、誰と行くかですよね」とかいうエピソードも披露。彼自身の演説では、ブルーカラーの父、共働きで彼を大学に送った母が紹介される。画面に映った両親は、アメリカのどこにでもいそうな普通の人たち。この辺りのイメージ戦略は、うまくはまっていた。
 政策も、税金、健康保険、教育などの国内問題ではさすがに強みを発揮していた。毎日の生活に苦労している庶民が聞いたら涙が出るような内容。私もそんなに豊かでない家の育ちなので、彼のレトリックには少し心が動く。でも、彼が支持しているのはアメリカの庶民だから、雇用回復=保護貿易主義とつながる。そうすると必ずしも私の味方ではない、と思ったりして(当たり前か)。そう、彼は典型的な保護貿易論者というのは覚えておいた方がいいと思う。どちらかというと自由貿易主義のケリー氏とどう折り合いをつけるのだろうか。
 それから、「強さ」を打ち出すため、テロ戦争継続を表明。「アルカイダよ、お前達を打ちのめす」とか言っていたが、さわやかなイメージの彼が言ってもあまり説得力がないという評判だった。
「本当に、打ちのめす、っていう感じではないですね」
「アルカイダを告訴するんじゃないの(彼は弁護士出身)」
とか冗談を言われていた。確かに、そういう印象。同じ台詞をチェイニー副大統領が言ったら100倍怖いだろうな、と思う。それがいいか悪いかは別にして。このへんの印象が後でどう響いてくるか。
 ちなみに、イラク政策では、米軍の増派、防衛予算の上乗せを表明。民主党内のタカ派でも文句がつけられないような内容になっている。朝日新聞はがっかりだろうな。それから、誤解のないように書いておくと、米民主党内ではイラク戦争反対派はもちろん多い。熱心な党員の多い党大会参加者の間では、9割がイラク戦争反対、という。しかし、穏健派の国民を説得しないと選挙は勝てないから、今は上から押さえ込んで中道イメージを打ち出している、と言うわけ。党内でくすぶるリベラル層の不満をどうするか、という問題は潜在的にはある。でも、今回の選挙では、民主党はとにかく「打倒ブッシュ」で団結しているから、乗り切れるだろうとケリー氏は踏んでいる。とにかく、今のところ、民主党は非常にスマートな選挙戦を展開しているとは言える。
 それから、彼は上院議員になる前は大企業相手に大規模訴訟を起こして、数百万ドルを稼いだ弁護士だった。確かに、陪審員を説得するの生業としてきただけあって弁が立つが、「弁護士」のイメージはアメリカでは諸刃の剣。アメリカの中道層が彼にどういうイメージを持つかというのも鍵だろう。
 演説後、ジョージア州のミラー上院議員が「彼は言っていることとやっていることが違う。彼はイラクにいる米兵を支援する予算修正案に反対した4人の議員のうちの1人だったじゃないか。言うだけなら楽だよ」と反論していた。このミラー氏、民主党所属のベテラン穏健派議員だったのだが(今年で引退)、反ブッシュ感情渦巻く民主党に嫌気がさして造反。今年は何と共和党大会に出席してブッシュ氏再選を訴えることになった。彼のような南部出身のベテラン議員が「今の民主党はリベラルすぎる」と言うのは、共和党にとっては願ってもないこと。でも、今回の民主党大会での、穏健な政策と「国民が一致団結できる党」をアピールして、共和党こそが「極右政権」というレッテルを貼るという作戦は今のところうまくいっているように思う。後は、ミラー氏のような「言ってることとやってることが違う」という反論にどれだけ応えられるか、だろう。
 それから、シャープトン師。空気読めという感じだが、確かに演説はうまいな。

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July 28, 2004

バラック・オバマに注目

引き続き米民主党大会から。火曜日は若手のバラック・オバマ氏が光っていましたね。42歳で現在は州上院議員なのですが、イリノイ州から上院に立候補しており大抜擢されて党大会で演説しました。父はケニア出身の黒人、母はカンザス州の白人という生まれなのですが、ハーバード・ロースクール卒というエリートでもあります。
いいのは、マイノリティ出身ながらルサンチマンを全く感じないこと。アメリカの理念を体現しているのは私だと言わんばかりに、高邁な理想と地に着いた現実主義が見事に組み合わされた演説をしておりました。それから、彼からはエゴを感じないんですよね。彼の演説でも、「アメリカは個人主義で有名だが、もう一つの重要な物語は、アメリカは一つの国民としてつながっているということだ」と言って人種、思想の相違を超えて団結を訴えておりました。「アメリカは一つの家族」とも。この共同体・公共性意識というのは戦後の日本では錯綜してしまっていますが、こういう意識こそアメリカの強さだと感じました。私にとってアメリカの理念は基本的には「他人事」なのですが、このように政治の言葉に理念が生きているというのはすばらしいと思います。日本の政治家の皆さん(とくに民主党)には彼の演説を研究していただきたいものです。ともあれ、すでに次の民主党大統領候補(当選すれば初の黒人大統領)は彼だという声も挙がっているほどです。彼は注目ですよ。参考までに、アンドリュー・サリバンのレビュー(英文)がよくまとめてあります。また、彼の演説の映像はこちらです。
 ともあれ、彼のようなリーダーが若い世代からも生まれてくるところにアメリカの本当の「強さ」、すなわち理念の強さを感じますね。彼の言葉には人の情熱をかき立てるものを感じます。振りかえるに、日本の政界には若いリーダーが育っているのでしょうか。少し前は古賀潤一郎氏が若きリーダーと目されていたというのは恥ずかしい限りですが…。

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July 27, 2004

米民主党大会:リンク集

民主党大会に合わせてニュース専門局がblogを開設。けっこう大物コメンテーターが寄稿してます。
MSNBC
CNN
それから、こういうイベントの時に便利なのがinstapundit.com. 相変わらず早いです。レイノルズ教授、燃え尽きないといいんですけど

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July 26, 2004

米民主党大会:マイケル・ムーアを隠せ!

今日は米・民主党大会が開幕。4日間の大会中にジョン・ケリー氏が党の大統領候補に正式に指名され、指名受諾演説をする。言ってみれば民主党が自分達の大統領候補をお披露目するパーティーだ。
 ニュース番組を見ていると、この党大会の民主党の戦略は、まだ候補を決めていない中道・無党派層をターゲットにすると言うことらしい。
 熱心な民主党支持者は今更言われなくてもケリー氏に投票するから、約20%といわれる、候補を未だ決めかねている層を説得しようという作戦だ。そこで、演説などでは、ケリー氏の軍歴や外交経験を強調し、「強いリーダー」というイメージを前面に出す。政策的には、財政赤字の削減など中道的な政策については言うが、例えば同性婚などリベラルな政策は言及しない。あからさまなブッシュ大統領の人格攻撃もしない。
 保守・穏健派の人々には、ブッシュ大統領の政策には反対だが、自国の大統領を「嘘つき」やら「戦争犯罪人」と呼ぶラジカル左翼の言葉には反発する人々が多い。特に、今年の前半は、反ブッシュ感情が先行し、民主党支持者のボルテージは上がったが穏健派からはかえって反感を呼んでいた。その反省からか、この党大会では、かなり穏健なトーンにしようということになっているらしい。今日はカーター、クリントン元大統領、ゴア元副大統領が演説したが、演説の内容をみると、本土防衛やら外交などのテーマが目立った。ケリー氏が大統領になっても、軍人、政治家としての経験をフルに生かしてテロに対しての戦いは全力で続けますよ、というメッセージを送り、国民に安心感を与えようとしている作戦が浮き彫りになる。
 イラク戦争についても、(朝日新聞の期待に反して?)反戦のメッセージはそれほど聞かれないだろうし、むしろ、「強いアメリカ」のレトリックを聞くことになるだろう。実際、ケリー氏も副大統領候補のエドワード氏も、上院議員として大統領にイラク戦争開戦の権限を与える決議に賛成票を投じているが、このことが民主党候補としての弱点というよりは、穏健派を安心させるポイントになりうる、というムードなのだ。クリントン元大統領の演説のハイライトで、「強さと知恵は矛盾しない」という一文があった。これはもちろん現大統領への強烈な当てつけなのだが、それ以上に、ブッシュ大統領の「強さ」とケリー候補の「小賢しさ」を対比しようとする共和党の戦略を牽制しているのだ。とにかく、「反戦」というメッセージは聞かれなかったから、そのようなメッセージを期待している向きには期待はずれに終わるだろう。民主党の岡田党首が民主党大会を見に来るそうだが、「民主党は自衛隊撤退を公約に参院選を戦いました」とか言ったらとても場違いだろうな。
 それにしても、今日のクリントン氏の演説を見ていて、この人は政治の天才だなと思った。「今我が国は分裂しているが、我が国の歴史では危機の時にはいつも団結した」、つまり、民主党こそがこの国を一つにまとめられるというのは、中道層にアピールするのにぴったりのメッセージだと思った。また、あれだけの政界の大物で、大金持ちのエリートなのに、(あの南部のアクセントのせいか)庶民に伝わる言葉を持っている。あるコメンテーターは、彼のレトリックは南部メソジストの牧師の語りだと言っていたけど、確かに独特のリズムがあるし、黒人文化の匂いもする。また、ステージ上の存在感、ロックスターのようなカリスマ性もある。ちょっと自己中心的なのが鼻につくけれど。でも、「ブッシュ大統領も、チェイニー副大統領も、私も、ベトナム戦争に行かなかった。ケリー氏も行かないというチョイスはあったが、『私を送ってくれ』と志願した」とかさらっと言えてしまうのが、天才的だと思った。政治ショーの演出家としては最高級の技術をもっている人だ。
 このような穏健派に売り込む方針のなか、極左やリベラルの政治家などはこの党大会ではそれほど大きな役割を与えられていない。あるコメンテイターによると、「変人の親戚は隠しておけ」ということらしい。この影響を受けているのがマイケル・ムーア氏である。今日は『華氏911』が1億ドル突破というニュースが入ってきて、民主党のヒーロー扱いをされてもおかしくないと思うのだが、ムーア氏の大統領批判はやりすぎだと思っている穏健派の反感を買わないように「ムーアを隠しておけ」という指示が出ているらしい。それでもニュース専門局のインタビューを受けて、いつもの通りのブッシュ・バッシングを繰り返していたが。

追記:今アメリカのテレビで話題になっている大統領選風刺FLASH. 見ていない方は必見。ケリー氏が何かあると「俺には3つも勲章があるぜ!」というのは今日のエントリのテーマとも共通するわけですが。

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June 14, 2004

レーガン・ジュニアの弔辞

今日午前、クリントン元大統領の肖像画のお披露目がホワイトハウスであったのだが、そこでブッシュ大統領がクリントン氏に向けたスピーチが話題になった。クリントン氏のことを、「暖かく、情熱的な人柄」であり、「公共政策について幅広い知識を持ち、助けを必要としている人々に対して情け深く、アメリカ国民が大統領に求める前向きな精神を持っていた」などと言ってべた褒めしたのだ。(CNN, NYT)
 普段は何か批判されるとクリントン政権時代の政策のせいにすることが多いブッシュ大統領としては、このほめ言葉は何とも不思議。ほめ殺しなのか、はたまた民主党の大統領候補ケリー氏とは仲が良くないとされるクリントン氏に「敵の敵は味方」とばかりに援護射撃したのか、なんとも不思議なスピーチだった。どちらにせよ、クリントン氏はケリー氏に比べたら国民的人気、カリスマは段違い。もうすぐ自伝が出版されるのだが、その出版記念ツアーが大統領選挙よりも注目を集めてしまうのではといわれている。クリントン氏に注目が集まれば集まるほどブッシュ氏にとっては都合がいいことには間違いない。
 いっぽう、先週の金曜日、レーガン元大統領の葬儀での実の息子、ロン・レーガン・ジュニアの弔辞が話題になっている。
その中で、新聞記事に引用され、テレビの政治番組などで何度もリプレイされているのはこの一節。

Dad was ... a deeply, unabashedly religious man. But he never made the fatal mistake of so many politicians wearing his faith on his sleeve to gain political advantage.

この部分が、現大統領にたいするあてこすりだというのだ。
 先週一週間は、金曜日の国葬まで、一週間の間アメリカ国中レーガン氏を偲ぶムードで満ちていた。レーガン大統領は国民的人気のある大統領だったが、この一週間は「アメリカにオプティミズムを回復した大統領」「冷戦を終わらせた大統領」としてその功績を高く評価する特集番組が相次いだ。(国内政治的には、共和党の党是を大きく変更し、現在の方向性を決定した大統領とも言われる。保守的な社会政策など、リベラル層とは相容れない政策を持っていたのだが、この一週間はそうした批判のトーンは自粛気味だった。)
 現政権がこのレーガンに対する好意的な世論を早速政治的なアドバンテージに変えたいと思うのは当然で、ブッシュ氏再選の選挙本部のウェブサイトでは、早速レーガン大統領の演説集を載せて、ブッシュ氏をレーガン氏の正当な後継者と位置づけようとしていた。しかし、レーガン家の人々は、現大統領に批判的は人々が多い。実際、ロン・ジュニア氏は1年以上前のsalon.comのインタビューにおいて、現ブッシュ政権を痛烈に批判している。このインタビューを読むと、ロン・ジュニア氏は政治的にはかなりリベラルで、父とは毛色が違う感じ。現在はMSNBCのニュース番組のリポーターをしているが、今のところ政治家になる希望はないといっている。
 イラク戦争などの外交政策はもちろんなのだが、一番の問題は、実はES細胞を研究目的に使うかどうか、という問題だ。現政権では、ES細胞の研究利用は生命の尊厳に関わるとして、資金的にも利用できる細胞の数にしても制限が多い。一方、レーガン夫人のナンシー氏は、レーガン大統領自身がアルツハイマーであることを公表して以来アルツハイマー病治癒のための研究のサポートを続けており、ES細胞の研究利用の制限をはずすよう、運動してきた。現政権がES細胞の利用に消極的なのは、ブッシュ政権を支えるいわゆるキリスト教右派が、クローンなどのバイオテクノロジー、また人間の生命誕生のプロセスに科学的に介入することに反対しているため。BBCのこのニュースがこの辺りのいきさつをよくまとめてある。ロン・ジュニア氏の弔辞に戻ると、「父は敬虔な人だったが、自分の信仰を政治利用しなかった」というのは、キリスト教右派におもねるブッシュ大統領へのあてつけだったというわけ。また、先日のローマ法王謁見の際、アメリカ国内のカトリック層に自分の政策を支持するよう働きかけて欲しいと根回ししていたというニュースも関係しているのだろう。(この件についてはandrewsullivan.comのブログに詳しい記事がある。)
 ブッシュ大統領の支持率が下がってきて、秋の大統領選にも厳しい見込みが出ている中、なかなか大統領の味方が見つからない様子。クリントン氏をほめたのも、先週のこのニュースと関係があるのだろう。(どう関係があるかというとうまく言えないのだが。)

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May 25, 2004

ケリー+マケイン

昨日のブッシュ大統領の演説は、今までの政策に変更なしと強調していたのだが、Slate.comでは早速、現実を直視しないということで"Magical History Tour"などと揶揄されている。その一方、民主党陣営では、ケリー氏の副大統領候補にマケイン上院議員を選ぶという意見が加速している。
なんとヒラリー・クリントン氏がマケイン氏支持を表明した。
ヒラリー氏のコメント。

I've spoken with Senator McCain and he assures me he's not interested, but you know, we'll see what happens.

民主党内に向けたアドバルーンの意味もあるのだろうが、これはひょっとするかもしれない。ちなみに、副大統領候補の本命は指名争いを演じたエドワーズ上院議員といわれているが、私はフロリダのグラム上院議員という線もあるのではと思う。フロリダ出身で、選挙の行方を決する州で選挙戦を有利に運べる上、上院情報委員会に属し、外交・軍事・諜報活動などに通じているから、チェイニー副大統領相手に外交面での失点を攻撃するには適任だと思うから。

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April 15, 2004

無関心な大統領

人質救出とのこと。よかったですね。

今日のNew York Timesの社説は、「無関心の代償」と題してブッシュ大統領を批判している。
この数日の9/11委員会の証言により、政府が同時多発テロを防ぐために十分に対策をしなかったことが明らかになっている。面白いのは、この社説でも書いているとおり、政府の過ち(特にCIAやFBIの諜報機関)はクリントン政権もブッシュ政権でも同じように起こっているのだが、この社説ではそれを特にブッシュ氏の性格というか、知的傾向になぞらえていること。リベラルなNew York Timesはこの委員会の内容をブッシュ批判に使うが、保守はクリントンの批判に利用している。最近のアメリカの政治言論は党派性があまりにあからさまで、あきれることが多い。

さて、この大統領には、知的好奇心があまりないというイメージが定着しているが、実際そのような印象を裏付けることは多々ある。一度思い込んだら、多少の反対意見などで意見を変えない。また、この政権はそのことをポジティブにとらえている様子がある。この前も、大統領のアドバイザーが「この大統領は政治的圧力によって政策を変えたことがありません!」と力説していた。これを聞いた、ウォルター・クロンカイトという著名なジャーナリストが、「ブッシュ氏は信仰が篤いというが、神からの圧力があったら意見を変えるんですかね」と発言していた。このへんはどうなんだろうか。面白い質問だと思う。

でも、自説を曲げないことがそんなにいいことなのだろうか。「信念の人」というと聞こえがいいが、むしろ、現実に柔軟に対応することが政治化には求められることもある。(自民党の首相などはとくにそればかりの人々が多かったが。)「無関心」というと、またイメージが変わってくる。この人、知的好奇心というものは本当になさそうだ。ある小学校を訪問したときに、子どもに向かって、「私は、いまさら学校にはもどりたくないよ。関心もないし…」と言っていた。子どもに対してのメッセージとしてはどうかと思うが、多分本当に心からそう思っているのだろうから仕方ないかもしれない。

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March 09, 2004

あいまいなケリー氏・頑固なブッシュ氏

私はアメリカ政治の専門家でも何でもないので、大統領選について語る知識も技能も持ち合わせてはいないのだが、政治関係の新聞や記事は好きで読んだりしているので、ここでは自分の備忘録も兼ねて、アメリカ国内での論争などについて時々書こうと思う。

民主党の候補がケリー氏に決まって、ブッシュ大統領も本格的な攻撃を開始した。ケリー氏の抱えている問題はけっこう深刻である。えてして候補が決まってからいろいろな問題点が噴出してくるというものなのだろう。

結構著名なコラムニストで、ブログでの政治評論をメジャーにした張本人の一人でもあるAndrew Sullivanが、ケリー氏批判のコラムを書いた。彼は安全保障に関してはタカ派でイラク戦争も支持していたが、自らがゲイでもあり、最近のブッシュの政策にはけっこう批判的である。しかし、ケリー氏もちょっと支持しかねるということらしい。その最大の原因は、ケリー氏が、目先の政治的利益のために、主要な政策課題に関する立場を信念もなくころころ変えているということ。実際、死刑廃止問題、貿易の保護政策など、政策を180度転換した例も少なくない。実際、この選挙中でさえ、ディーン氏がリードしたとみると、ディーン氏の真似をしてイラク戦争反対の立場を強調したり、またエドワーズ氏が追い上げてくると、自由貿易支持の立場を横に置いて(エドワーズ氏の主張である)保護政策支持に回ったりしている。ケリー氏が大統領になったらどういう政策をとるか、まったく未知数なのだ。もちろんブッシュ氏もいろいろと政策転換をしてはいるのだが、ケリー氏のあいまいさはかなり極端で、共和党側もさっそく攻撃に使い始めている。ニューヨークタイムズもこの問題を記事にした。

日本との関係で言うと、対北朝鮮の外交をどうするのかすら、まったく不透明。北朝鮮訪問直前までいったクリントンの時のような極端な宥和政策に逆戻りすることだってありうる。はっきりした外交政策も打ち出していないのだから。今日になって、ケリー氏自身「外国の首脳はブッシュより私に勝ってほしいと思っている」といっているが、金正日はまちがいなくその一人だろう。

他にSullivan氏が挙げている弱点としては、前にも書いた「エリート」的イメージ。ブッシュ氏ももちろん資産家ではあるのだが、見るからに人が良さそうなブッシュ氏に比べ、T. S. エリオットの詩を暗唱できたりする。アメリカの大統領が文学にたしなんでいるというのは、それはそれでいいことなのだが、ふつうのアメリカ国民にとっては、東部出身のスノッブと思われても仕方なく、政治的にはマイナスだろう。

一方、ブッシュ大統領の弱点は何か。最近、共和党側のテレビ広告で、「変化の時代に、ゆるがないリーダーシップ」というスローガンを掲げているが、William Saletanというコラムニストは、自分の意見を変えないことこそが問題だと指摘している。この人、何かの問題に対し一度決断をしてしまうと、その後にそう簡単には意見を変えないという性格の人らしい。(インタビューなどを聞いてみると確かにそう感じる。)テロの後などは、揺るがない意思の表明が、アメリカ国民の支持を呼んだわけだが、その後の減税一辺倒の経済政策やら、イラク戦争の政策やらをみると、現実を直視しない頑固さが、さまざまな問題の元凶になっているという分析になっている。

この二人の候補、政策というよりは政治手法にかんしてまったく対照的である。ケリーがこのまま勝つという予想も出始めているが、そうばかりとはいえず、最後の最後までもつれこむような状況だと思う。

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March 05, 2004

ケリーvs.ブッシュ

民主党の候補がケリーに確定して、いよいよ長丁場の一騎打ちが始まる。

この二人、両方ともとんでもない資産家である。父も大統領で、自ら大リーグ球団のオーナーでもあったブッシュ一家についてはよく知られているが、ケリーもすごい。ケリーの祖先はマサチューセッツがまだ植民地だった頃の初代知事だったという。(歴史の比較的浅いアメリカでは、日本で皇室の出身と言うのと同じくらいの重みか。)奥さんはケチャップで有名なハインツ財閥の未亡人だった人で、資産総額が5億ドル。また、日頃の振る舞いもけっこう傲慢らしい。これはうわさなのだが、ボストンでコンサートがあったとき、多くの人が行列しているのにリムジンで登場。列を無視して入ろうとして、待っている人に野次られると、「俺を誰だか知っているのか? ("Do you know who I am?")」と言い放ったとか。アメリカの大統領の候補とは、どんなに「庶民の味方」ぶっても、結局は超エリートなのだ。インターネット戦略で選挙戦初期に旋風を起こしたあのディーン候補も、中流階級の代表のように振る舞っていたが、実はニューヨークの名家の出だし。これら3人、すべてイェール大学の卒業生で、特にケリーとブッシュは、名家の子息しか入れない秘密結社のSkull and Bonesの会員である。

アメリカ人の隠れたエリート志向について、ニューヨークタイムズ紙のコラムニストのデービッド・ブルックスが書いている。それにしても、このコラムニストは結構若くて、NYTのコラム欄に登場したのもつい最近なのだが、コンスタントにウィットがあって洞察の深いコラムを書く。

ところで、この大統領選の結果、アメリカだけでなく世界中に大きな影響を及ぼすわけですが、ならば世界中の人(有権者?)の声を伝えよう! というわけで、アメリカ国民以外による模擬投票ができるサイトが登場している。登録しておくと、11月に投票の手順が送られてくるようだ。

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February 04, 2004

アメリカ大統領選

先月末から民主党の大統領候補を決める予備選挙・党員集会が各州で始まって、かなり盛り上がってきた。

今回の選挙だが、民主党支持者(つまり左寄り)のアメリカ人は、打倒ブッシュで団結している。とにかく、イラク戦争やら、環境問題の失政やらが続き、ブッシュ以外ならだれでもいい、ただブッシュ再選だけは困ると思っている人が、政治に関心のあるアメリカ国民の半分くらいを占めている。だから、政策が支持できる候補者を推すというよりは、とにかく思想や政策が極端でなく、討論会や演説で失言したり失敗することのないような候補に投票する、という方針で投票している人が多いらしい。

つまり、「選挙に勝てる」(electable)候補、ということがキーワードのようだ。

この「選挙に勝てる」候補として浮上してきたのが、マサチューセッツ上院議員のケリー氏。政策は結構リベラルだが、ベトナム戦争で従軍し、その後反戦運動の若きリーダーとなった経歴から、軍経験者票・反戦票の両方の支持をまとめている。長年上院議員をつとめたこともあり、演説は少々退屈ではあるが、まあへまはしないだろうと言われている。(下馬評の高かったディーン氏が、支持者を前にした演説で絶叫する姿をテレビで繰り返し放映され、一気に支持を失ったのとは対照的。)

もうケリーで決まりという報道もされているが、実は情勢は結構流動的だと思う。この「選挙に勝てる」という基準が、ケリーの足を引っ張りかねないからだ。彼の現在の支持者の多くは、彼の政策を支持しているというよりは、「11月の選挙で他の有権者が投票しそうな候補だから」という理由で支持している。将来の選挙に勝てそうな人に投票する選挙。ニューヨークタイムスのコラムニスト、デービッド・ブルックスが「ポストモダン文芸批評家にとっての天国」と揶揄したのもうなずける。

アメリカの政治がポストモダン状況かどうかはともかく、ここで重要になってくるのはマスコミが流すイメージの役割。つまり、この2,3週間のうちでケリーの過去のスキャンダルが暴露されて、「この候補は選挙に勝てない」という方向に論調が少しでも傾いたら、支持率低下→「選挙に勝てる」イメージの低下→さらなる支持率の低下という悪循環におちいってしまう。実際、いろいろ読んでみると、この人、そうとう爆弾を抱えているらしい。先週の週末ごろから、ケリーはロビイストから多額の献金を受けているとか、上院での投票行動と今言っていることが一致しないとか、ケリーに対する攻撃が激しくなりつつある。もしケリーの支持が急落したら、現在2番手のエドワーズ上院議員(共和党の強い南部出身で、やはり「選挙に勝てる」資質を持っている)、またディーン氏にもチャンスが出てくる。もちろん、ケリーが逃げ切る可能性もあるが、その場合は、民主党は誰も投票したくない候補を選んでしまったということにもなりかねない。最後の手段として、党大会で談合して、まったく別の候補を担ぎ出す、なんてことになる可能性もある。

そんなわけで、この選挙戦、アメリカ政治に興味のある人には面白い展開になってきた。興味のない人は、民主党候補が決まる秋口ごろから注目し始めればいいと思う。ただ現在確かなのは、アメリカ国民のうち、ブッシュに対して怒りをいだいている人々が約50%いて、現状で最高の候補者をブッシュにぶつけるためにありとあらゆる知恵を絞っているということ。この秋の選挙は、アメリカのみならず、世界中の人々が注目するだろう。

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(2006年5月 むなぐるま管理人からの受託により保管)

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